17,意識が

 病院の待合で私とレンはじっと座っていた。やや離れた席にレンのお母さんが座り、魔法学校へと電話を入れている。私のおばあさんが倒れてしまったことや、私とレンが学校を休むことを電話で伝えていた。

 ああ、これでもう、私は完全に魔法とはお別れになる。

 魔法実技試験で一位になって特待生になる。そうすれば授業料が免除され、大好きな魔法を続けられるかもしれない。そんな夢みたいなことを考えていたのだが、今の私は試験を受けることさえできなくなってしまっている。

 これも運命なんだ。

 神様が、もう魔法はあきらめなさいと忠告してくれているんだ。

 そんなことを考えながらも、時間はどんどん過ぎていく。

 魔法実技試験では、午前中に一次試験が行われ、上位五人が午後の二次試験に進む。

 病院の食堂で昼食をとり、改めて集中治療室の待合に戻ったとき、ふと思った。

 もう、二次試験が始まっているころかな?

 ミチカは間違いなく、一次試験を突破しているだろうな。

 ぼんやりとそう思っているとき、私はある異変に気づいた。

 そうなのだ。

 おばあちゃんが……。

「看護師さん」

 私はすぐにナースステーションに駆け込んだ。

「どうしたの?」

 看護師さんが私の様子に驚いている。

「おばあちゃんが、おばあちゃんが、目を開けている!」

「えっ?」

 すぐさま看護師さんが集中治療室に入り、おばあちゃんに声をかけた。

「タキオカさん! タキオカスズコさん! 私の声が聞こえますか?」

 看護師さんの問いかけに、おばあちゃんはゆっくりとうなずいた。

「おばあちゃんの意識が、戻った!」

 私は思わず声をあげた。そしてしまったと思った。大きな声を出してはいけない。ここは病院だったんだと。

 その後、看護師さんに呼ばれたお医者さんがやってきた。

 おばあちゃんは先生の指示通り、自分の名前を言ったり、手足を動かしたりしている。

 大丈夫なのだろうか?

 おばあちゃんは、無事なんだろうか?

 私の横では、レンが何も話さずじっと立っている。レンのお母さんも立ち上がり、治療室を見つめている。

 ひと通りのことが終わったのだろうか、お医者さんが私のもとにやってきた。そして、こう言った。

「もう大丈夫だよ」

 大丈夫?

 どういうこと?

「後遺症は?」

 昨日聞かされた心配な言葉を私は使った。

「今のところ、大きな後遺症はなさそうだよ」

 その言葉を聞き、私はその場で飛び跳ねた。文字通り、本当に飛び跳ねていたのだ。

「よかったね」

 そんな姿を見て、レンがはじめて口を開いた。

「本当によかった」

 レンのお母さんも続けてそう言ってくれた。

「さあ、少しくらいならおばあさんと話していいよ」

 お医者さんの言葉で、私は治療室に入る。

 おばあちゃんは、じっと私を見てこう言った。

「試験どうだった?」

「試験?」

「魔法実技試験だよ」

「ああ、それ、受けなかったよ」

「……」

「受けなくてよかったよ。どうせ受けても一位になんかなれないし」

 おばあちゃんはその言葉を聞くと、こんなことを聞いてきた。

「試験はいつだったんだい?」

「いつ? 今日だけど」

「今日……。そうなんだ。私がこんなんだから試験を受けられなかったのかい?」

「そんなことないよ。おばあちゃんには関係ない」

「……、ごめんね、アオイ」

 おばあちゃんの目から、一筋の涙がこぼれてきた。

 その様子を見ていたお医者さんが言う。

「さあ、今日はこのくらいにしておきましょう」

 その言葉で、私は集中治療室を出た。

 出るなり、レンがあわてた様子で話しかけてきた。

「行こう、アオイちゃん」

「行こうって、どこに?」

「今から学校に行こう。学校に行って試験を受けさせてもらおう」

「今からって、もう試験には間に合わないよ」

「間に合わないかもしれないけど、行ってみようよ」

 レンは早口で、そんなことを私に言ってきたのだった。

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