11,雷魔法

(アキコ視点)


 実験室で魔法を練習しているアオイの姿を見て私は思う。

 ほんと、この子は、お母さんのユキにそっくりだと。

 雷魔法という難しい課題に対しても、何度も何度も楽しげに練習を続けている。

 魔法が好きで仕方がないのだろう。

 魔法が好き、魔法使いとしてこれが一番大切なこと。どんなに魔法を上手に使いこなせる子でも、魔法が好きでないと最後は努力を続けることが苦痛になってしまう。

 けれど、アオイは違う。

 努力が苦にならないほど、魔法が好きなのだ。

 今はまだ、アオイよりも上手に魔法を使いこなせる生徒がたくさんいるかも知れない。けれど、アオイは誰にも負けない魔法の才能を持っている。根っから魔法が好きだという才能を。

「アオイちゃん、魔法、好き?」

 私は改めて聞いてみた。

「はい。大好きです」

 アオイは間髪入れずにそう答える。

 やっぱりだ。

 ユキもそうだった。

 魔法のことが大好きで、寝ても覚めても魔法のことばかり考えている子だった。その血をアオイちゃんはしっかりと受け継いでいるんだ。

 こんな素晴らしい才能を持ったアオイに魔法をやめさせるなんて、そんな酷なことなどできやしない。学校に行くお金がないという理由で、好きな魔法を学べなくなってしまうなんて、絶対にあってはならないこと。

「アオイちゃん、あなたには必ず特待生になってもらうからね。そして、大好きな魔法をこれからも続けられるようにしてあげるから」

 気がつけば私はそんな熱い言葉をアオイに投げかけていた。

 そう、ユキにそっくりなこの子の才能、ここでつぶすわけにはいかない。私はユキに大きな借りがある。その借りを今ここで返さないでどこで返すというの。

「アオイちゃん、水と風の属性はなんとか掛け合わせられるんだから、まずはそれに火を合わせるの。一度に四つの属性すべてをと欲張っては駄目よ」

 そう言いながら私が目の前で魔法測定針に雷を落とし見本を示す。

 アオイは食い入るようにその技を見つめている。

「アキコさん、なんだか少しずつですがわかってきた気がします。アキコさんの雷魔法を見ていると私となにが違うのかよくわかります」

 さすがに吸収が早い。

 ちゃんと、アオイに合わせた彼女向きの雷魔法を見せているからということもあるけれど、それにしても飲み込みが早い。この子は、本物をしっかりと見せてあげれば、自分で考えてそれを自分のものにできる子なのね。

「水と風を合わせる。そして火をそっと入れる。最後に土よ。ここはもう思い切って合わすのよ。そうすれば雷が発生するから」

 アオイは説明どおりにやろうとするが、何度やっても失敗に終わってしまう。それでもアオイはあきらめない。魔法が好きだから、失敗が苦にならないのだ。

 けれど、いくら魔法が好きだと言っても、いきなり雷魔法を教えるのは早すぎたかもしれない。アオイの姿に天才だった母親のユキを重ねてしまったのかもしれない。

「アオイちゃん、もういいよ。今日はこれくらいにしておこう」

 私がそう言った瞬間だった。

 目の前で信じられないことが起こった。

 アオイが振った杖の先から、明るい光が輝いたかと思うと、魔法測定針に一筋の雷電が降下した。

 アオイが雷魔法を成功させたのだった。

「すごい! すごいわ、アオイちゃん! やはりあなたは天才よ! 天才ユキの娘に間違いないわ!」

 気がつけば私は、興奮してこんな言葉を言い放っていた。

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