第26話

 その後、何組かの模擬試合が行われ、昼休憩となった。

 お昼は外に食べに出てもいいし、持参してもいい。

 ただ、持参した者は飲食スペースのある別の部屋へ移動しなければなならなかった。

 あたしは後者だ。

 今日もばあちゃんが弁当を作ってくれた。

 教室を出ていく時、かなり視線が痛かったけれど無視した。

 その頃にはタマも起きていて、あたしはタマをモフりながら飲食スペース

へと向かった。

 このテイマー向けの勉強会の他にも、例えば冒険者向けの勉強会だったり、カルチャースクールだったりが別の階でもひらかれていたようだ。

 飲食スペースへ向かう途中で、そんな他のイベント参加者とすれ違った。

 中にはあたしと同じ方向へ向かう人達もいて、そんな人達の会話が聞こえてきた。

 それによると、どうやら冒険者向けの勉強会は各ギルドを束ねるリーダーの人達が集まる特別なものだとか、とある物作り体験教室に参加した親子のうまく竹とんぼが作れなかったとか、そんな話が流れてくる。

 そんなざわめきをBGMに、あたしは目的の場所へたどり着く。


 三部屋くらいをぶち抜いたとても広い空間だった。

 それも、今回のテイマー向けということで特別に用意した場所らしく、出入口の所に、あたしが参加している勉強会の名前と、その参加者専用という紙が貼ってあった。

 そして、そんなだだっ広い空間にまるで小学校の食堂のように長テーブルが二つずつ組まれ、計四列並べられていた。

 椅子は、教室にもあったパイプ椅子だ。

 適当な場所に腰掛けると、あたしは弁当を取り出した。

 もちろん、タマの弁当も忘れていない。

 タマがテーブルの上に降りて、草をもしゃもしゃし始める。

 大丈夫、他の人のモンスターもだいたいこうやって餌やってるから、怒られるとかはないだろう、うん。


 そうして昼食を摂り始めた時、ジーンさんがグレイさんと共に現れた。

 コンビニ弁当の入った袋を手に、現れた。

 

 「さっきはありがとうね。

 どうせなら奢ろうかと考えてたんだけど、お弁当だったんだ」


 そう言ったのは、ジーンさんだった。


 「ええ、まぁ」


 あたしが答えるのと同時に、ジーンさんのワンコが机に飛び乗った。

 ワンコはもしゃもしゃ草を食べているタマへ近づいて、フガフガと臭いを嗅ぎ始めた。

 かと思うと、草に夢中で全くワンコ自分に気づかないタマに軽い頭突きをした。


 「テュケ?」


 そこで初めてタマはワンコの存在に気づいて、鳴いた。

 ワンコはタマが自分に気づくと、尻尾が取れるか骨折するんじゃないかと言うほどブンブン振り始める。

 そして、じゃれ始めた。

 喧嘩じゃないので放っておくことにする。

 そんな光景を横目に、ジーンさんとグレイさんがあたしを挟むように両隣に座った。

 怖いんだけど。

 なんでおっさん二人に挟まれてんの?

 あ、そっか真向かいの席座るには、一度端っこ行って回ってこないとだもんな。

 でも、この威圧感はなんとかしてほしい。


 「グレイから説明聞いたんだってね」


 「ええ、教育的指導の意味がよくわかりました」


 あたしは横目で、サンドイッチにパクついている人狼族のグレイさんを見た。

 サンドイッチが美味しいのか、もふもふの尻尾をパタパタ振っている。

 またすぐ視線を戻す。

 ホントはちょっと触りたいけど、こういうボディタッチはセクハラになるから触らない。

 触ってもふもふしたいけど、まだ犯罪者にはなりたくないから、我慢だ、我慢。

 そして、ちょっと気になっていたことを訊いた。


 「そういえば、タマが潰した火竜ってどうなりました?」


 あの後、どこからか現れた人達に火竜は運ばれて行った。

 やたらテンション高く、


 「内臓グチャグチャだ! こりゃ治癒しがいがあるぞ!」


 とか、


 「骨もいい感じに砕けて臓物に刺さってやがる!

 なかなかいい感じだ!」


 とか、


 「ひぃやっはぁぁォォォァァ!!!

 新鮮な検体ゲットだぜ!!」


 とか。

 なんと言うか、外で口にしたらダメな言葉のオンパレードが飛び交っていたけど、聞かなかったことにした。

 でも、そりゃ新鮮だよな、まだ死んでないし、とはちょっと思った。


 飼い主ということもあり、リリアさんもそれに着いて行ったのか、気づいたらその姿は消えていた。


 「あぁ、別室で講義に参加していた治癒術師ヒーラーが治癒させたよ。

 丁度いい被検体が手に入ったって、いつも通り喜んでたなぁ」


 あ、はい。

 それ、目の前で見てましたから、わざわざ説明しなくていいです。

 これも一種の、持ちつ持たれつというやつか。

 ガチの専門家も参加してるとは聞いていたけど、なるほど、お金かけずにそういう検体を手に入れる目的もあるのか。

 それにしては、あのハイテンションはちょっとどうかと思うけど。

 つーか、いつも通りなんだ。


 「お父さんって、ほんとに半分吸血鬼なんだなぁ」


 色々思うところはあったけれど、あたしはお父さんの頑丈さを改めて思い知った。

 今のところお父さんは、【目覚まし】で内臓がグチャグチャになったり、骨が砕けたりはしてないからだ。


 「お前さん、妙な臭いが混じってると思ったら吸血鬼の混血か」


 あたしの呟きを、グレイさんは聞き逃さなかったらしくそう言ってくる。

 別に混血なんて珍しくないだろうに。


 「父親がダンピールってことは、クォーターってやつか?」


 「そう、なるんですかねぇ。

 いまいちよくわからないですけど。あたしの種族は人間ですよ」


 あたしはそこで弁当を食べ終わり、片付ける。

 ジーンさんはコンビニのおにぎりを食べながら、あたしに視線を向けている。

 言いたいことがあるならさっさと言ってほしい。

 こっちとしては、そろそろ今追ってるウェブ小説の更新時間だから早く読みたいんだけど。

 おにぎりを飲み込んで、一緒に買っていたらしいお茶のペットボトルで喉を潤した後、ジーンさんは口を開いた。


 「人間、ねぇ?」


 それは何かを探るような、意味深な呟きだった。

 どうでもいいが、イケメンの歯におにぎりの海苔が付いている。

 言おうか言わまいか迷って、言わないでおいた。

 代わりに彼が気にしてるだろうことにアタリをつけて、あたしは話し始めた。


 「魔力量の話は、ばあちゃんに聞きました。

 なんか、膨大すぎて扱いきれないってことはないって事と同じだねって思って、無いってことにしてたらしいです」


 嘘は言っていない。

 しかし、ジーンさんはこの話の矛盾点を突いてきた。


 「その話は本当なんだろうけど、まだ、あるよね?

 そうじゃないと、ココロさんがタマちゃんにかけた魔法の説明にならないから。

 君、魔法、もしくはスキルが使えるんじゃないの?」


 あたしは、ばあちゃんが用意してくれた水筒を取り出して、中の麦茶をごくごく飲んでから、答えた。


 「それは個人情報になるんで答えたくありません」

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