第15話

 「でも、モンスターじゃないね」


 花を詰んで、マリーがタマへブスブス差してと生け花にしながら言った。

 黒い毛玉が、花で彩られる。


 「あー、たぶんアゲハ蝶とか止まったらいいなぁって思ったからかも」


 「なるほど。

 そんなんで良いなら、モンスター思い浮かべながら、止ーまれってやってみたら?」


 「それは別にいいけど、もうそれ召喚だよね??」


 言いつつ、あたしはもう一度やってみた。

 その時、思い浮かんだのは、何故かドラゴンだった。

 

 「こないね」


 「来ないな」


 妹とあたしが口々に言う。

 やっぱりドラゴンはダメだったか。

 そう思った矢先、あたし達の頭上に影が差した。

 巨大な影だ。

 そして、突風。

 見上げた先に、雷をまとった黒雲。

 創作物なんかだと、邪竜とか魔王とか召喚した時に演出で出てくるそれが広がっていた。

 雲は渦をまき、その渦の中心からそれは現れた。

 それは、ペット用に品種改良されたドラゴンとは比べ物にならないほどの巨体をした、皆がドラゴンときいて真っ先に思い浮かべるだろうドラゴンが居た。

 

 「うっそ」


 「古竜じゃん! 姉ちゃんすげぇ!!」


 マリーがテンション爆上げになって、携帯端末で古竜を撮影しまくる。

 古竜。

 とどのつまりめっちゃ長生きをしたドラゴンのことである。

 めっちゃ長生きをしてて、エルフとは同盟関係にあり、仲がいい。

 長生きのため、暇を持て余して人の言葉を覚えたりする。

 人にも変身出来るので、それ以外のドラゴンと区別するため竜人種とも呼ばれている。


 『なんだ、誰かと思えばフィリアちゃんとこのお嬢ちゃん達じゃないか』


 ドラゴンらしい、重々しい重低音でそう言われる。

 というか、この声、重低音でわかりづらいけど、すごい聞き覚えあるぞ。


 「え、フィリア、ちゃん?

 お母さんのこと?」


 マリーは気づかなかった。


 「お久しぶりです。筍の山のおばさん」


 あたしは、そう言ってぺこりと頭を下げた。

 そう、知り合いなのだ。

 あたしの言葉に、マリーがまた驚く。


 「え、おばさん?!

 ドラゴンなのは知ってたけど、正体ってこんなデカい竜だったんだ。

 メタボってない? おばさん大丈夫??」


 『お姉ちゃんと違って、三番目の子は口が悪いねぇ』

 

 と言いつつ、おばさんは体を変身させる。

 そうすれば、いつも春に筍を一緒に取りに行くばあちゃんの友達がそこにいた。


 「ところで、こんな膨大な魔力を使ってわざわざ私みたいな古竜を呼び出すなんて、どうしたんだい?

 見たところ緊急事態ってわけでもなさそうだけど。

 って、あれ?

 フェリシアはどうしたんだい?

 まさか、お迎えが来たとかそういうことかい??」


 口早に質問され、あたしとマリーは顔を見合わせる。


 「あ。いえ、ばあちゃんは元気です」

 

 あたしは答えた。

 ちなみに、フェリシアというのは、ばあちゃんの名前である。

 フェリシアとフィリア、名前が似てるとややこしい。


 「なんだ、それなら良かった。

 もう、子供たちに無理やり携帯持たせられたんだけど、使い方わかんないし。

 こうして直に呼んでくれたほうが、やっぱりしっくりくるねぇ」


 携帯、持ってるんだ。

 というか、あの山の中、電波届くんだ。

 あたしがどこからツッコミを入れようか迷っていると、マリーが手を上げた。

 もう片方の手、というか腕にはキラキラとした目でおばさんを見つめるタマ。

 そういえば、こういうガチのドラゴン見るの初めてだもんな。


 「はいはい!

 おばさん、膨大な魔力ってなんのこと?

 私も姉ちゃんも、魔力なんて使ってないよ?」


 「うん?

 なにを言ってるんだい。

 たしかにさっきのは、お前の姉ちゃんの魔力だよ。

 倅、お前たちのお兄ちゃんと同じ、色々混ざりあった特殊な感じがしたからね。

 まぁ、今までお姉ちゃんが魔法使ったところを見たことは無かったし。

 最初は、マリーちゃんとどっちかなぁ、って感じだったけど、まだ魔力の残滓があるし。

 それが証拠だよ。」


 おばさんに言われ、またもあたしとマリーは顔を見合わせた。


 「姉ちゃん、魔力あったの?」


 「いや、無かったはず。その証拠に今まで魔法使えなかったし」


 あたしとマリーの会話に、タマがきょとんとしている。

 そこに、おばさんが口を挟んできた。


 「いやいや、それは魔力が膨大すぎて扱えて無かっただけさ。

 フェリシアから聞いてないのかい?

 フィリアちゃんからは?」


 おばさんに言われ、あたしはマリーへ訊いた。


 「マリー、なにか聞いてる?」


 「知らないよ。姉ちゃん、自分のことでしょ?」


 「つーか、マリーだってエルフじゃん。

 そういう魔力を探知するセンサーとか付いてないの?」


 「姉ちゃんはエルフをなんだと思ってるのさ?」


 言い合うあたし達に、おばさんは苦笑して続けた。


 「まぁ、マリーちゃんはまだ十代。赤ちゃんみたいなもんだからねぇ。

 それに、生まれた時から、お姉ちゃんの魔力のそばにいて、それが普通だったならわからないもんさ」


 そうは言うが、ならなんで今魔力が使えたんだろう?

 魔法を使うために必要なのが魔力、だったはずだ。

 言わば、車を動かすためのガソリンみたいなものだ。

 なら、なんでそれが今使えたのか?


 考えられるのは、【言霊使い】関連だろうけど。


 でも、それならもっと早くばあちゃんかお母さんが言っててくれても良いはずだ。

 考えても、これはわからない。


 とりあえず、一旦帰って聞いてみたほうが早い。

 あたし達はおばさんに頭を下げて、その場を後にした。

 おばさんは、またすぐ竜の姿になって、飛び立っていった。

 あ、ばあちゃんに会わなくていいんだ。

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