第10話

 現代の派遣会社である冒険者ギルド。

 その設立自体はとても古いらしい。

 時代劇や、漫画などでよく描かれる中世時代にはすでにあり、誰でも知っている通り、そこでは冒険者と呼ばれる人達が登録をし、畑を荒らす動物やモンスターを討伐するなど依頼を受け、各地に派遣され、働いていたという。

 つまりは害獣駆除だ。

 そんな時代、真正直に説明してしまうと色々と弊害が出るので、割愛するが、当時の冒険者は田舎から出てきた次男次女以下の者が多かった。

 たまに貴族の、やはり次男三男坊も冒険者をやっていたらしい。

 さて、そんな彼らに闇雲にギルドも仕事を割り振っていたわけではない。

 今で言うところの、適性検査があった。

 どんな依頼に向いているのかとか、その人の、ゲーム的な言い方をすれば所謂レベルといったことを調べてくれたというのだ。

 それは意外にもほんの三十年くらい前まで現役のやり方だったりする。

 しかし、今では個人情報保護の観点と職業差別に繋がっているとして、あまり行われなくなってしまった。

 せいぜい進路を決める時等にするくらいだ。

 昔は神殿の神官さんとか、今はいろいろあってこんな田舎くらいで幅を利かせてる神社の神主さんが鑑定してくれたらしい。

 

 「やんなくていいって言ったのに」


 ムスッとした自分の顔が、助手席側の窓に映る。

 

 「いいじゃないか。ついでに、こうやってドライブできるんだしさ」


 そういうのは、ハンドルを握る父だ。

 後部座席には、籠に入ったタマとその籠に時折ちょっかいを掛けている上の妹のマリー。


 「そうそう、滅多にお父さんに家族サービスしてもらうなんてできないんだしさ」


 母は仕事でいない。

 下の妹のエリーゼは、お父さんと違って純粋な吸血鬼のため昼間は寝ている。

 お父さんは半分吸血鬼で、半分人間なので昼間でも普通に活動できる。

 そんなわけで、あたしを含めた三人プラス、タマとドライブついでに観光名所でもある神社まで鑑定しに行く途中である。

 タマを連れてきたのは、お父さんの提案だった。

 曰く、行きたそうに見えた、だからだそうだ。


 「ねぇねぇ、お父さん。

 サービスエリアでアイスかって!」


 たまたま父の休みと、あたし達の休みが重なったということもあって、車を出してくれた。

 本来ならそろそろ反抗期だろうに、マリーは父にそんな気配は欠片も見せず甘える。


 「おー、いいぞ。

 お昼は何が食べたい?」


 「ステーキ!!」


 「お父さんのお陰だよなぁ、マリーがハイエルフなのにステーキが食べられるのって。

 感謝しろよ」


 「してるよー。たまに驚かれるけど」


 基本ハイエルフって、菜食主義のイメージあるもんなぁ。

 でも、お父さんだけじゃなくお母さん、と言うよりはじいちゃんのお陰もあると思う。


 「ココロもそれでいいか?」


 「……うん」


 ため息混じりにあたしは答えた。

 車は高速道路を、観光名所へ向かってひた走る。

 車に搭載されたナビを確認する。

 そこには、目的地の到着予測時間が表示されている。

 まだ一時間半くらいかかる。

 と、なると、サービスエリアでお昼を食べることになる。

 そうすると、マリーの希望通りのステーキを出す店があるサービスエリアということは、この前テレビで特集してた店だな。

 テレビでやってたし、混んでないといいけど。

 混んでるんだろうなぁ。

 なにしろテレビでやったんだし。

 バックミラーで、何気なく後部座席を見れば、マリーがタマの入った籠を持ち上げて、窓から流れていく景色を見せているところだった。


 「それにしても、魔物使いか。

 もしかしたらそれも お父さんのお陰かもなぁ」


 なんてお父さんが誇らしげに言ってくる。


 「なんで?」


 「ほら、吸血鬼って眷属とか使い魔とかを作って操れるからさ」


 「それ言ったら、エルフだって動物と心を通わせられるし、操れそうだよね」


 「じゃ、お父さんとお母さんのお陰だな!

 出世して沢山稼いで、いつか旅行に連れてってくれよ!」


 そう言って、片手でお父さんはあたしの頭を撫でた。

 宝くじの一等に当たったら奢れ、と言われてもなぁ。


 「出世したらね」


 言うだけならタダだ。

 だから言っておくだけだ。

 そもそもテイマーとしての出世とは、どうしたら出世となるのだろう?

 自営業だろうし、保障とかそういうのは大丈夫なんだろうか。

 定期的に安定した収入が得られるなら、進路の選択肢に入れたいが、出来るなら会社の方で色々手続きしてくれるなら、自営業より勤め人の方がいいかなと考えている。

 まぁ、それこそ鑑定の結果次第だけれど。

 たぶん、あたしにそんな才能はない。

 タマが良い子で、よく言うことを聞いてくれているだけだと思う。

 だと言うのに、なんなのだこの期待と歓迎は。


 「あー、いい天気だなぁ」


 息を吐き出して、窓の外を見た。

 雲ひとつない快晴だった。

 そういえば、タマは散歩じゃない外出なら嫌でないらしいことに気づく。

 籠の中に入れたままなら、置いていかれる心配が無いからかもしれない。

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