第6話

 ギルドには、学校の教室のような広めの部屋がいくつもあるらしい。

 そこに長机が等間隔で設置され、椅子が二個ずつ置いてあった。

 参加者はそれなりに多い。

 数えるのは面倒なのでしない。

 なっちゃんとあたしは、二人並んで適当な席に座った。

 ギルドの建物に入るまで、タマが少しゴネて大変だった。

 まぁ、これは仕方ないか。

 この建物の前で、タマは酷い扱いを受けたからなぁ。

 というか、普通にモンスターとギルドの建物に入って良いんじゃん。

 あたしがタマを抱っこして一緒に入ろうとしたら、ようやく安心してくれた。

 元々参加者は何人か居たが、あたしらの後にも次々と部屋へ入ってくる。


 「すげぇ、ほんとに居るんだドラゴン飼ってる人って」


 小さくあたしは言葉をもらした。

 何人かは、ドラゴンだと思われるモンスターを連れている。

 他にも、普通のゼリー状のスライムだったり、犬、というか狼みたいなモンスターだったりと、飼い主の種族も多種多様だけれど、ペットの方も多種多様だった。

 つーか、人間少ねぇ。

 あたしがタマを机に上げて、そのまま撫でていると横から器用に机に飛び乗る存在があった。

 それは、真っ赤な鱗に覆われたドラゴンだった。

 大きさは成猫くらい。

 興味深そうに、タマを見ていたかと思うと触ろうと手を伸ばしてきた。

 と、それを慌てて飼い主がやってきて止めた。


 「めっ! そんな埃触っちゃめっ!!」


 おい、待てや。

 タマは毛玉だ。埃なんかじゃねーぞ。


 「貴方も! そんな汚ったないペット、ここに持ち込まないでくれる?」


 その飼い主は、所謂キツそーで、なにかを勘違いしてそうな中年女性だった。

 種族は、人間に見える。


 「タマは埃じゃないです」 


 あたしが怒りを笑顔に変え、淡々言い返す。

 しかし、鼻を鳴らしてなにやらマウントを取ってくる中年女性くそばばあ

 あーあー、可哀想に。御家族だろうドラゴンが戸惑ってる。

 そして、なんか申し訳なさそうにあたしを見てきた。

 頭のいい子だなぁ。


 「人のペットに、変な言いがかり付けないでもらえますか?」


 「世間知らずの小娘は、さっさと出ていけって言ってるの」


 「あたしより、何十年も生きてきてる大先輩であるにもかかわらず、公共の場で他人の家族同然のペットを埃呼ばわりするような世間知らずの人に指図されたくありません。

 なによりも、世間知らずの人に世間知らずと言われたくありません。

 今までそういう注意してくれる方、居なかったんですか?

 可哀想な人ですね」


 背後でなっちゃんの怒気というか、殺気を感じてあたしは彼女が行動するよりも早く、そう言った。

 タマを保護した時は機会を逃したが、あたしはこう見えて口が減らないのである。

 そういえば、エリーゼがペットは飼い主に似ると言っていたがケースバイケースだ。

 この中年女性くそばばあの飼っているドラゴンは、気質がいい子だからだ。

 飼い主の気質に染まらないことを願うばかりである。


 「このっ」


 中年女性くそばばあが怒りで顔を歪ませ、なにか言ってこようとするが、それは実行されなかった。

 講座を主催しているスタッフさんが、さすがに見兼ねて仲裁に来てくれたのだ。

 その人に向かって、中年女性勘違いくそばばあがなにやら喚きたて、部屋の中の空気が悪くなる。

 刺さる視線の中には、あたしが悪いみたいなものが含まれているように感じた。

 こそこそと、「黙って受け流してればいいのにね」なんて囁きも聞こえてきた。

 なんなんだこの扱い。

 執拗いダイレクトメールに従って、来たらきたでこれか。

 スタッフさんが、苦笑しながら中年女性世間知らずくそばばあを宥めて、別室へ連れていった。

 あたしも連れていかれるかと思いきや、その場で別の人からなにがあったのか説明を求められた。

 一応、自分なりに説明して、なっちゃんも補足説明をしてくれた。

 加えて、なっちゃんは途中から動画を撮影していたらしく、それを証拠としてスタッフの人に見せてくれた。

 スタッフの人の目も、準備やら他の人の相手をしていたりでこちらに向いていなかった為、この証拠映像はかなり助かった。

 スタッフの人の端末へ動画データを送ると、その人は頭を深々と下げた後パタパタと別室へ走っていった。


 「よく動画なんて撮れたね」


 「この前、ワイドショーで痴漢や冤罪の対策やってて、それ思い出した」


 なるほど、ワイドショーでも役に立つものだ。

 そして、なっちゃんありがとう。お陰で助かった。

 あたしが感心と感謝をしていると、別室から廊下を伝って、先程の中年女性くそばばあの悲鳴のような叫びが聞こえてきた。

 嵌められた! 冤罪だ! などと喚いている。

 それを、また別のスタッフさんが苦笑しつつ外からの音声をシャットアウトする魔法を展開して、聞こえないようにしてくれた。

 しかし、講座を受けに来た人たちの白い目は無くならなかった。

 ほんと、気分が悪い。

 テーブルの上で、タマが戸惑った視線をあたしに寄越してくる。

 あたしはタマを安心させるために、また撫でてやった。

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