第21話 これで堂々とイチャイチャ出来る!


 ――〈カグヤ視点〉――



(もうっ、レイの意地悪……)


 いえ、彼には詳しい説明をしていなかった。

 彼に【魔力】を操作されると気持ちよくなってしまう。


 ――相性がいいのだろうか?


 以前の私は、彼にこの事を教えると――もう、してくれないかも知れない――と思っていたため黙っていたのだ。


 心の何処どこかで――エッチな事はいけない事なのだ――と思い込んでいた。

 だから、彼をよごして、私と同じにしようとしたのに――


 彼はそんな私を優しく受け入れてくれた。

 綺麗だと言って、可愛いと言って、何度なんどもキスをしてくれた。


 あのまま彼と一緒にいたら、歯止めが利かなくなっていただろう。


(いえ、それは今もか……)


 後できちんと説明した方がいいかも知れない。

 ただ、教えたら教えたで――エッチな女の子だ――と思われるのも嫌だ。


 今更、どう振舞ふるまおうと――彼が私の事を嫌いになる――とは思えない。

 欲が出てしまったのだろう。彼の前では格好を付けたくなってしまう。


 余裕のある大人の女性を演じたかったのだけれど――

 ひさし振りの感覚に、思わず声を上げてしまった自分がずかしい。


 欲望にあらがえず――めて――とは言えなかった。

 また、私の【魔力】が――彼のモノになる――というのは幸せな気分でもある。


 【魔術師】である事があれ程、嫌だったのに不思議なモノだ。


(肌と肌で触れ合う事が出来れば、もっと気持ちいいのに……)


 つい彼の裸を想像し、そんな事を考えてしまう。

 あの頃は女の子のように綺麗な肌だった。


 けれど、今では筋肉も付き、すっかりと男性の身体に成長している。

 【魔力】の質も変わり、強くなったのがぐに分かった。


(以前は争いを好むような性格ではなかったに……)


 私がそうさせてしまったのだろうか?

 随分ずいぶんと大人になったような気がする。先を越されたようで少しくやしい。


 クールをよそおってはいるけれど、あの時みたいに私の指先で弱い部分を刺激すると、可愛い声で鳴いてくれるだろうか?


 想像すると、おへその下の辺りが――キュンッ――と熱くなる。


(いえ、今はそういう事を考えている場合ではないわね……)


「で、なにをそんなに泣いているの?」


 私は気をまぎらわす意味も込めて『オヤユビ』に質問した。

 正直な所、少し怒っている。


 何故なぜ、本気を出して戦ったのか? その理由についても確認が必要だ。

 ウチの旦那、強いでしょっ!――と自慢する計画が台無しになってしまった。


(折角、夫の自慢をする機会チャンスが……)


「誰? あの人、強い……」

「えっ、カグヤ様の大切な人⁉」

「どうりで強い訳ね――それにカッコいいし、すごく優しそう」

「あの二人、お似合いだわ」


 ――とこうなるはずだったのに!


 更に『オヤユビ』に勝てば、彼と一緒に居ても、誰も文句は言えない。

 いえ、もう勝ったのだった。


 ――これで堂々とイチャイチャ出来る!


 一方で――うっううっ……ぐすんっ!――と泣くのを止める『オヤユビ』。

 いじめちゃ、めーよ――とアイラが言うので、


「分かっているわ」


 と返しておく。お仕置きなら問題ないのよね。

 ウサミは彼の指示を受けて、自分の『魔導書グリモア』から毛布を取り出す。


 『オヤユビ』の身体を隠すにはタオルでは小さいので仕方がない。

 もう少しだけ、待っていてもらおう。私は彼女のほほに触れると、


「さあ、話してくれるかしら……」


 そう言って、こちらを振り向かせる。すると、


「そ、その男が……今度は……カグヤも連れて行くって――」


 台詞セリフの途中で『オヤユビ』が再び――うわーん!――と声を上げて泣いた。

 やれやれ、困ったモノである。


 簡単に整理すると――私がレイと一緒に、この塔を出て行く――と思っていたようだ。だからレイを倒して、それをめさせようとしたらしい。


(吹き込んだのは『シンデレラ』ね……)


 本当にろくな事をしない。

 いえ、アレは楽しんでいるのだ。


あきれたわ」


 私はそう言って――フーッ――と溜息をき、


「一緒に来ればいいじゃない」


 と答えた。その途端、ピタリと『オヤユビ』は泣き止む。

 私の言った意味が理解できないのだろうか?


 一方で【魔力】の回復は済んだのか、いつの間にか彼の――〈魔力吸収マジックドレイン〉――は終わっていた。残念である。続きは寝台ベッドの上までお預けだ。


「だから……一人が嫌なら、一緒に来ればいいでしょ?」


 そんな私の言葉に、


「行ってもいいのか?」


 と『オヤユビ』は目を輝かせる。

 本来なら――勝手にしなさい――と言う所だけれど、


「いっしょよー、いっしょなのよ♪」


 とアイラが喜んでいるので、なにも言わない事にした。

 それより今夜、どうやって彼を独占するかが問題だ。


 この塔への【魔力】を供給する必要があるという建前を使えば、一週間くらいはイチャイチャ出来るだろう。


 アイラを寝かし付けた後、面倒はウサミと『オヤユビ』に見てもらうとして――


「カグヤぁー!」


 と声をあげて『オヤユビ』が抱き付いてきた。

 今は遠慮して欲しい。妄想の邪魔――いいえ、彼女は彼との戦闘で汚れている。


 しかし、この塔で彼女の突撃を受けめる事が出来るのは私くらいだろう。

 並みの【魔術師】では跡形もなく吹っ飛ばされてしまう。


 仕方なく、私は受けめる事にした。


 ――ズザザザッ!


 私の足が床をこする。同時に――おー、よしよし――と『オヤユビ』の頭をでた。

 ある意味、アイラより手の掛かるだ。


 触れるモノ、すべてを破壊してしまう彼女は、誰にも愛される事はなく、また愛する事も出来ない。私やアイラのような存在は奇跡なのだ。


 その事はレイも理解しているようで、ウサミが持っている毛布に――〈憑依コネクト〉――を使い操作すると『オヤユビ』の肩へと掛けた。


 ウサミも下手に近づけなかったので――ホッ――とした様子だ。

 おどろく『オヤユビ』だったけれど、やがて泣き止む。


 本来は裸だろうが、なんだろうが、格好を気にするようなではないのだけれど――

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