第12話 マーマ、会いたかったのよ♡


 やはり、推進力が落ちた所為せいだろう。

 急いで――〈憑依コネクト〉――を解除したのだが、威力が半減してしまった。


 ただ、無事に『結界』を突き破る事は出来たようだ。

 後は無理矢理にでも、壁を破壊するしかない。


 もう少しカッコ良く登場したかったが、あきらめよう。

 回転する槍は壁にち当たると、大きな音と共にひびを入れた。


 後は螺旋機ドリルのように回転させ、壁を砕くだけだ。


「いっけぇーっ!」


 気合の掛け声と同時に【魔力】を流し込む。

 槍の回転数が上がり、加速装置ブースターの推進力が増す。


 ――ドッゴオォォォンッ!


 轟音ごうおんひびかせ、塔の壁が砕け散る。

 俺はなんとか、塔の中へと入る事に成功した。


 だが同時に――ガキンガキンッ!――と金属音が響いた。

 重突撃槍ヘビーランスが軌道をれ、やがて止まった。


(いや、止められたのか……)


 パラパラと瓦礫がれきくずれる音。

 周囲は粉塵ふんじんが立ち込めていて視界が悪い。


 外壁を破壊した――まではいいが、なんらかの反撃を受けたようだ。

 重突撃槍ヘビーランスを通して、執拗しつよう何度なんども打ち付けるような衝撃があった。


(威力を相殺された?)


 俺としては、塔ごと破壊するつもりだった。

 だが、そう上手くは行かないようだ。


 『魔術結界』や『魔法金属』。

 それらは俺の――〈魔域接続アクセルリンク〉――で透過する事が出来ない。


 厳密にはダメージを受けるだけなのだが、無理をする場面ではない。

 それらを突破できた時点で作戦を変えるべきだっただろうか?


 彼女と再会する前なので、強敵との戦いは回避したい。

 アイラが『マーマ』などと言うから、俺も気合を入れてしまった。


 消費した【魔力】を回復するまでには、もう少し時間が掛かりそうだ。


ずは身を隠すべきか……)


 警備の人間が来たら、彼らに――〈憑依コネクト〉――して逃げればいい。

 ただ問題は、警報が鳴っていない事だろう。


 これだけの騒ぎを起こしたというのに、反応がないのが怖い。

 すでに俺が来る事を分かっていて【魔術師】を配置していたのだろうか?


(だとしたら不味まずい……)


 早急に逃げるべきだろう。周囲の視界が悪くて助かった。

 軌道をらされた結果、床を削った所為せいだろう。


 転んでもただでは起きない、と言った所だ。

 俺が、そう考えていると――


『マーマ、マーマよ!』


 とアイラが教えてくれる。

 確かに粉塵ふんじんの中に女性のような人影シルエットがある。


 学生服姿の髪の長い女性だ。

 色白で整った顔立ちの美人に見える。


 しかし、それはどう考えても、俺の記憶にある彼女の姿ではない。

 だが、彼女の周囲を見渡すと、あらゆる箇所から漆黒の刃が突き出ていた。


 すべてを斬りきざむ彼女の【魔術】。


 ――間違いない、久遠の――〈漆黒剣の輪舞ブラックフィールド〉――だ!


「見付けた!」


 俺は声を上げると重突撃槍ヘビーランスから手を離す。

 けれど、俺が彼女に駆け寄るよりも早く、


「マーマ♡」


 とアイラが『魔導書グリモア』から飛び出していた。

 光の粒子をき散らし、まるで光線のように移動する。


 アイラはこっちの世界の物理法則をある程度、無視する事が出来た。

 そのため、捕まえるのは難しい。仕方なく、俺は周囲を警戒する。


 これが罠である可能性が、まだ消えた訳ではない。また、彼女がアイラ――いや、娘である『アリス』――の事を覚えていない可能性もある。


 あらゆる面で、俺がフォローする必要があるだろう。

 先日、敵から奪った『魔力喰ブレイクエンド』を握りめる。


 効果は一定時間【魔術】が使えなくなる、というモノらしい。

 あまり使いたくはない――どうやら、その願いは通じたようだ。


「ア……いえ、貴女あなたなのね!」


「マーマ、会いたかったのよ♡」


 と二人は互いを抱き締め合う。

 その様子を見て、一先ひとまず俺は安堵あんどするのだった。



 ――〈カグヤ視点〉――



 奇跡が起きた。もう会えないと思っていた娘に再会できた。

 残念なのは、娘を『真名』で呼ぶことが出来ない事だ。


(でもいい……)


 もう一度、この手に抱きめる事が出来た。

 それだけではない。私の記憶が鮮明によみがる。


 私とアリスを見守るように、一人の青年が立っていた。

 彼は保護眼鏡ゴーグル防護面マスクを外す。


 そして、優しい眼差まなざしで安堵あんどの表情を浮かべた。


(信じられない……)


 自然と口元をおおいたくなったが、今はアリスを抱きめているため、両手がふさがっている。気が付くと、私は娘を抱えたまま立ち上がっていた。そして、


「しぃちゃん……なの?」


 つぶやくように声をらす。確かに、彼の姿は変っていた。

 この場合は『成長した』と言うべきだろうか?


 女の子のように可愛らしかった顔は、精悍せいかんな面構えになっている。

 身長も私より、高くなってしまった。声だって、すっかり男の人の声だ。


 それでも――私を見詰める――その優しい眼差まなざしを見間違えるはずがない。


「くぅちゃん、待たせてゴメンね……」


 そう言って謝る彼。そんな彼にすがるように、私は額を押し当てる。

 娘を抱いているため、彼の衣服をつかむのが精一杯だ。


 彼は来てくれた。謝る必要など、何処どこにもない。

 胸が熱くて、苦しくて、言葉に詰まる。


「マーマ、泣いてりゅの?」


 小さな娘の手が私の頬をでた。


「うん、大丈夫……大丈夫だから――」


 ポロポロと流れ落ちる涙は止まらない。

 肩を震わせ、声を殺して泣く私に、


「マーマ、泣き虫さんね」


 とアリスが笑い掛ける。


「そうだな……」


 と言って、彼は微笑ほほえんだのだろうか?

 私は顔を上げる事が出来ずにいた。


 アリスが私の手を離れ、宙へと浮くと、


「いい子、いい子よ」


 そう言って、頭をでてくれた。

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