第6話 モモちゃん、あそーで♡


「おはよう、アイラ」


 俺が笑顔で挨拶あいさつをすると、彼女が抱きついてきた。


(どうやら、機嫌は良さそうだな……)


 見た目は人間の少女である。

 けれど、普通の人間は発光したり、空を飛んだりはしない。


「パーパ、あそーで♪」


 とじゃれてくる少女に対し、


「お客さんだ、挨拶あいさつできるか?」


 と俺は問い掛けた。アイラはミラを一瞥いちべつする。


「……」


 しばしの沈黙の後、


ー」


 そう言って、プイッとそっぽを向いてしまう。


「やれやれ、嫌われてしまったようだ……」


 ミラは肩をすくめたが、残念そうな素振そぶりはない。

 彼女はアイラの人格よりも、存在に興味を持っているのだろう。


 アイラへ顔を近づけ、観察するようにジロジロと見る。

 おびえたようにアイラは俺の顔にしがみ付いた。


 気味が悪かったのだろうか? 基本的に人見知りな所がある。

 一方、ミラの方には、気にした様子はない。


「うーっ……」


 とアイラはうなる。完全にミラの事を警戒しているようだ。

 だが、モモの存在に気が付くと、途端とたんに笑顔になる。


「モモちゃん、あそーで♡」


 と言って光の粒子となって姿を消すと、モモのもとへ瞬間移動した。


「へぇーっ」


 ミラは感心したように声を上げる。

 視線をモモの方に移すと、すでにアイラはモモに抱きついていた。


 モモは、そんなアイラの行動にはれている。

 おどろいた様子はない。むしろ、


「いいよ、アイちゃん♡ なにして遊ぼうか?」


 と甘々な対応になる。戦闘時の彼女とは大違いだ。

 先程のまで、モモに注意されていたキャベツが、


「おいおい、別人じゃないのか?」


 などと言いながら俺に近づいてきた。

 あまりの豹変ひょうへんりにキャベツも戸惑とまどっているのだろう。


「アレが本来の彼女さ……あまり揶揄からかってやるなよ」


 と俺は返しておく。キャベツは怪訝けげんな顔(?)をした。

 だが、少しは学習したようだ。


 またられてはかなわないと思ったのだろう。

 それ以上、言及げんきゅうする事はなかった。


『いいのですか?』


 サンドリヨンが語り掛けてきた。

 勿論もちろん、そんな状況ではないのは分かっている。だが、


(俺の目が届く範囲にいてくれれば問題はない)


 と俺は返す。それよりも、


「満足してもらえたか?」


 俺はにらむようにミラを見詰めた。

 表情を変えない――というのも逆に疲れる。さっさと終わりにしたい。


 ミラは棒の付いたキャンディをポケットから取り出す。

 煙草たばこの代わりだろうか?


「ああ、興味深い存在だが……今はもういいよ」


 そう言って、彼女はキャンディを口にくわえた。

 今日は存在を確認する事が出来ただけで、満足のようだ。


 俺はその返答を『了承りょうしょう』と受け取り、コンテナへと向かう。



 ――〈カグヤ視点〉――



 彼との出会いは、絶望の中だった。

 身寄りのない私は、保護と称して施設に連れて来られたのだ。


 実際は――【魔術】を使える――というのが理由だろう。

 どうやら、ここの連中は私のような子供を集めて、実験をしているらしい。


 【魔術師】というだけで、親に捨てられた子供。

 施設では大人達の言う事を聞くと、キャンディをもらえた。


 小さい子供が素直に喜んでいる様子はうらやましい。

 私の場合は――なにが入っているか分からない――と警戒してしまう。


 このみにくい見た目の所為せいで、私は施設に馴染なじめずにいた。

 当然、孤立した個体はいじめにってしまう。


 取り分け魔力の高い私は【魔術】を封じる首輪を着けられていた。

 恐らく、発信機の機能もあって、逃亡を阻止そししているのだろう。


 また、当然のように私のような存在を見逃さない連中も居た。

 どうやら、私は彼らにとって恰好の餌食えじきらしい。


 数名の男子が私を呼び出し、裸になれとおどした。

 女子の誰かが、私の身体の事を話したのだろう。


 普段は包帯で隠しているが、入浴時や身体検査など、服を脱がなくてはならないタイミングがある。私のみにくい身体は、さぞかし不気味に映った事だろう。


 気に入らないのは――自分も周囲の人間達から迫害はくがいされていたはずなのに、嬉々として他人ひとひどい事が出来る――その神経だ。


 信じられない――いや、最初から他人など信じてはいけなかった。

 私は必死で抵抗したけれど、彼らは数人で私を押さえつけ、服をぎ取る。


 そして――みにくい、気持ち悪い――と散々、バカにして笑った。

 どうして、私だけがこんな目にうのだろう。


 抵抗しようにも、人を殺した私の【魔術】は封印されている。

 リーダー格とおぼしき、ソイツの目を斬りつけるので精一杯だった。


 苦悶くもんの表情で血を流し、傷口を押えながらうずくまる。

 私はその姿を見て――私と同じにしてやった――そう言って笑った。


 私が顔の包帯を取ると、一斉に男子達はひるむ。

 お前達もだ、お前達も同じにしてやる――と言葉を続ける。


 すると、数人がリーダー格とおぼしき男子を置き去りにして逃げ出す。

 滑稽こっけいな連中だ。自分も『私と同じ姿になる』と思ったのだろう。


 勝ったと思い、油断をしていた。次の瞬間、私は背後から突き飛ばされる。

 そして、落とし穴へと落ちてしまう。


 最初から、そのつもりだったのだろう。

 誰かが【魔術】で作ったモノだ。子供が掘れる深さではない。


 着地に失敗した私は気を失うと同時に、左足が折れてしまった。

 高い魔力を持っているためか、私の自然治癒力は高い。


 骨折はぐに治ったけれど、足は曲がったままの状態となってしまう。

 不完全に高い能力は、死ねない呪いのようなモノだ。

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