第29話 一人じゃダメでも、二人なら

 思った通り、師匠はわたしたちから距離を置いたまま、無人戦闘機の攻撃を続けた。

 眷属さんたちは、眷属さん同士の戦いで精一杯。


 う~ん、自分から師匠の得意な近距離戦に飛び込むのは、ちょっと怖いかも。

 いや、細かいことは気にしない!


「師匠! 師匠の相手はこっちだよ!」


 わたしは躊躇なくユリィを加速させ、師匠に向かって突撃した。

 チトセは距離を置いたまま、数機の無人戦闘機をわたしの援護に回してくれる。


 一方の師匠は、ダンスでもするみたいにドラゴンを左右に飛ばした。

 あっちこっち飛び回る師匠に、無人戦闘機たちは翻弄されちゃう。


 でもわたしは、なんとか師匠の背後についた。

 炎魔杖を突き出し魔力を込めれば、炎が飛び出す。

 飛び出した炎は、けれども師匠のドラゴンに避けられ、代わりにドラゴンの前を飛んでいた無人戦闘機に直撃。


「うそ!?」


「がう!?」


《クーノとはじっくり遊びたいから、まずは邪魔者のお掃除をしないとね》


 誤射を狙ってくるなんて、師匠はまだまだ余裕みたい。

 余裕の師匠は、飛び回る無人戦闘機を積極的に盾にした。


 無人戦闘機を守ろうとすれば、わたしの攻撃は師匠に当たらない。

 そうしている間、結局は師匠が次々と無人戦闘機を炎魔法で焼いていく。


 だったらと、今度はチトセが何度か師匠を狙うけど、その攻撃さえも師匠は無人戦闘機を盾に避けきった。


《全然当たらない……》


 思わずチトセがそうつぶやくけど、わたしも同意だ。


 というか、無人戦闘機が邪魔だよ。

 今の無人戦闘機は、わたしたちよりも師匠を援護しちゃっている。

 もし無人戦闘機が全滅しても、次は眷属さんたちが危ない。


 よし、決めた!


「無人戦闘機と眷属さんたちを撤退させよう!」


《分かった。無人戦闘機は低空に待機させておく》


「うん!」


 チトセはすぐに指示を出し、無人戦闘機たちは低空――魔泉の縁に飛んでいく。

 わたしはユリィにお願いした。


「ユリィ、眷属さんたちを」


「がうがう! がう~がうがう、がう~!」


「くう! くうくう!」


 ユリィの指示を聞いたユリィの眷属さんたちは、師匠のドラゴンの眷属さんたちとの戦いを放棄、彼方の空へと去っていった。

 戦う相手を失って、師匠のドラゴンの眷属さんたちは無人戦闘機を追う。


 これで戦場には、わたしとチトセ、師匠の3人しかいない。


 邪魔者がいなくなれば、最初に飛び出したのはチトセだ。

 チトセが師匠のわきを飛び抜ければ、師匠はチトセの背後につく。


《後ろについた。クーノ!》


「待ってて!」


 急旋回する師匠を追って、わたしはユリィの手綱を複雑に動かした。


 チトセを攻撃する師匠は容赦がない。

 何発も何発も、師匠はチトセに炎魔法を打ち込んでいる。

 その度に戦闘機を振り回すチトセは、歯を食いしばりながらつぶやいた。


《わざと外してる? それとも誘導してる?》


 どっちかは分からない。

 それでも、急がないとチトセが危ないことはたしか。

 連発された炎は、チトセの戦闘機にかすり、焦げ跡を残しているんだ。


「やらせない!」


 ぴったりと師匠の背後につき、わたしは炎魔杖を突き出した。


 瞬間、師匠が振り返り、炎魔杖の水晶をわたしに向ける。

 そっか、師匠はこれを狙っていたんだ。


「避けてユリィ!」


「がう~!」


 攻撃が来る前にユリィは急上昇。

 おかげで師匠が後ろに放った炎がユリィに当たることはない。


 ただ、師匠は小さな宙返りを決め、わたしの背後をとった。

 やっぱり師匠の狙いはチトセじゃなくて、わたしだったんだね。


「ちょっとまずいかも……」


「がう~?」


「ううん、諦めないよ! ユリィ、減速!」


「がうぅう!?」


「間違ってない!」


 首をかしげながらも、ユリィは急減速してくれる。

 急減速した結果、背後の師匠がすぐ隣にやってきた。


 ユリィと師匠のドラゴンは、翼が触れそうなぐらいの近距離だ。

 ここなら師匠の楽しそうな表情もよく見える。

 わたしは炎魔杖を師匠に突きつけた。


「師匠は、わたしを、落とせないから!」


《それはこっちのセリフ!》


 わたしと師匠が炎魔法を放ったのは、ほぼ同時。

 だから、回避行動をとったのもほぼ同時。


 くるりとロールしたユリィは、お腹を空に向け師匠の真上に陣取った。

 対する師匠は、炎魔法を放ちながらドラゴンを左右に振る。


 炎魔法を回避したわたしは、お返しに炎魔法を放ちながら、ユリィを左右に振る。

 そうしてわたしたちは、二重螺旋みたいにもつれ合いながら空を飛び続けた。


 お互いに炎魔法の応酬を繰り返せば、師匠はニタリと笑う。


《ねえクーノ、あなたって、ユリィを敵にぶつけたことないでしょ?》


「ほへ?」


《こんな感じで、ね!》


「がうっ!」


 突然、師匠のドラゴンがユリィの胴体に首をぶつけてきた。

 まさかの空中衝突に、ユリィはバランスを崩しちゃう。

 ニタリと笑ったままの師匠は、見下ろすように炎魔杖をわたしに向ける。


《やっぱり経験ではあたしの方が上ね》


 どう見てもわたしが負ける状況。

 もしわたしに味方がいなければ、の話だけどね。


《クーノ! 右旋回!》


 無線機から響いたチトセに言われ、わたしは手綱を引き、ユリィはなんとか右旋回した。


 次の瞬間、わたしと師匠の間に光の弾が突き抜ける。

 さらにはチトセの戦闘機が猛スピードで突っ込んできた。

 これにはさすがの師匠も緊急回避、轟音を避けるように遠くに離れていく。


《大丈夫!?》


「大丈夫! 助かったよ!」


 いつだってチトセは、わたしと一緒の空を飛んでくれるね。

 師匠は素直に驚いている。


《経験の差を連携で補った? ちょっと前のクーノじゃあり得なかったことね》


 その通り!

 チトセと一緒の空を飛ぶわたしは、師匠が知ってるわたしよりすごいんだから!


「仕切り直しだよ!」


《押し返そう!》


 ここはいつもの楽しい空。

 だから、やることもいつもと同じ。


 わたしはもう一度、師匠に近距離戦を挑んだ。

 近距離戦に突入すれば、炎魔法の応酬がはじまる。


「えい!」


 断続的に炎魔法を打ち込み、わたしと師匠はもつれ合う。

 もつれ合えば、遠くから轟音が聞こえてくる。


《射線に入った》


 続く光の弾の行列が、師匠をかすめた。

 チトセはわたしたちを追い越し、遠くで旋回をはじめる。

 この間、わたしは回避行動をとったばかりの師匠に炎魔法を発動。


「こうすれば……!」


 炎を避けた師匠は高度を上げ、そこにチトセの光の弾が撃ち込まれる。

 回避行動のため師匠が宙返りすれば、そこにわたしが突撃。

 師匠の攻撃をわたしが抑えているうち、チトセは旋回を終え、再度こっちに突っ込んできた。


《この角度なら……!》


 飛び抜ける光の弾、避ける師匠。

 師匠が避けた先に炎魔法を放つと、師匠はわたしの背後に回ろうとする。


「こっちへ飛べば……!」


 背後につかれる直前、チトセの光の弾が師匠の動きを抑えた。


 なかなか攻撃は当たらないけど、わたしたちは少しずつ有利な立場を得ようとしている。

 それなのに、師匠の余裕そうな表情は微塵も変わろうとはしなかった。

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