第14話 航宙軍の真似

 思いついたことを実践するため、わたしはユリィに言う。


「ユリィ、眷属を呼んで!」


「がう!」


 ユリィは元気に返事をして、ドラゴン特有の魔力を周囲に発した。

 魔力に誘われやってきたのは、ユリィの6体の眷属たちだ。

 ちっちゃな翼でちっちゃな体を空に浮かべる眷属たちは、ユリィの周りに集まる。


「くう!」


「くうくう!」


「みんな集まったね。じゃあ、眷属さんたちを散開させて」


「がう~がう」


 簡潔なユリィの指示を聞いて、眷属たちは一斉に遠くへと飛び立っていった。

 ある程度の距離まで眷属さんたちが離れたのを確認すれば、わたしはユリィにお願いする。


「よ~し、眷属さんたちにこう伝えて」


「がう?」


「近くの山の山頂に、魔力で印をつけて、って」


「がう~? がう!」


 ユリィが眷属たちに指示を出してすぐだ。

 6つの赤い印が遠くの各地で輝きはじめた。

 赤い印の位置はユリィを介してわたしの魔力にも伝わり、目で直接に確認しなくても、印がどこにあるかが分かる。

 わたしは思わず驚きの声を上げた。


「おお~! 雲の向こうの山頂の場所が分かる~!」


《これはぁ、驚きだねぇ》


「あれ? フィユにも赤い印が分かるの?」


《魔力だからねぇ、感じ取れるよぉ》


「すごい! 航宙軍の真似、大成功!」


 思った以上の成果だ。

 航宙軍の真似に成功し喜んでいると、チトセが話しかけてくる。


《もしかして、ちっちゃいドラゴンを無人機みたいに利用したんだ》


 さすがチトセ、わたしのやることはお見通しだね。


「そうだよ! でーたりんく? ってのをやってみたの!」


《すごいね、クーノは。応用が早い》


「でしょでしょ!」


「えへへ~」


 チトセに褒められて、わたしは鼻高々だ。


 それにしても、見えない場所にあるものの位置が分かるって、すごく便利だよ。

 これからは眷属さんたちにも積極的に協力してもらおう。

 きっと、これから空を飛ぶのがもっと楽しくなるかもしれないし。


――チトセと一緒だと、新しい楽しみに出会えるね。


 航宙軍の真似に成功し、チトセに褒められ、空がさらに楽しくなり、わたしはご機嫌に。

 けれども、突然ユリィが焦り出した。


「がう~!」


「え!? 眷属が魔物を見つけた!?」


「がうぅがう!」


「大変だ! 眷属さんたちに、魔力で魔物に印をつけてもらうよう伝えて!」


「がうがう、がう!」


 少しすれば、魔泉の方向に大量の赤い印が。

 今度の印はまっすぐにこちらへと近づいてくる。

 印の数は、ちょっと多すぎて数える気にもならない。


「うわわ! 本当に魔物がいっぱい来た!」


《結構な数だねぇ》


《私たちも魔物を確認》


《これだけの魔物が来るなんて、龍騎士団の本隊は大丈夫かしら?》


《リディア、今は目の前のことに集中》


《そうね。あと、リディアお姉ちゃんって呼んでほしいわ》 


 2機の戦闘機は、それぞれわたしとフィユを囲むように飛ぶ。

 無線機からはチトセの力強い言葉が届いた。


《クーノ、一緒に戦おう》


「もちろんだよ!」


 またチトセと一緒に戦える空がやってきた。

 チトセと一緒に戦える楽しさと比べれば、魔物への恐怖感なんて何でもないよね。


 古都上空を旋回していた師匠たちも魔物の存在に気がついたらしい。

 魔物を見つけた師匠は、さっきまでの退屈そうな声が嘘のよう。


《やっと魔物の登場ね!》


「師匠、なんだか楽しそうだね」


《当たり前でしょ! あたし、空で戦うために生きてるんだから!》


 そうだよね、師匠はいつもそう。

 空で戦うためなら全てを捨てちゃうぐらい、師匠は空で戦うことが大好きなんだ。

 空を飛ぶためなら全てを捨てちゃうわたしには、その気持ちがよく分かる。


 そんな師匠とは対照的に、エヴァレットさんは冷静に指示を出した。


《ルミール、私と一緒に、こい。魔物に避難民を攻撃、させるな》


《言われなくてもそのつもり!》


 2体のドラゴンが並んだ編隊は、古都上空に近づく魔物の群れに突進していった。

 残されたわたしたちはエヴァレットさんに尋ねる。


「ねえねえねえ、わたしたちは? わたしたちもエヴァレットさんについていく?」


《君たち航宙軍は、私たちが撃ち漏らした魔物を攻撃、しろ》


「分かった!」


 魔物の群れに向かうエヴァレットさんたちを見送って、わたしたちは古都上空を旋回し続けた。


 エヴァレットさんと師匠のことだ。

 あの2人が魔物を撃ち漏らすことは少ないはず。


 撃ち漏らしの魔物がやってくる前に、リディアの戦闘機は高度を上げた。


《私は遠くから戦術データの確保と魔物の索敵をしてるわね》


「リディアは一緒に戦わないの?」


《私は支援の方が得意なのよ》


「へ~、そうなんだ~」


《フィユちゃん、私の援護、お願いできるかしら》


《構わないよぉ》


《助かるわ。ということで、私は宇宙から2人を見守ってるから、頑張ってね》 


 フフ、とリディアが笑うと、リディアの戦闘機は垂直に空を上っていった。

 遅れまいとフィユの乗るドラゴンも垂直に空を上る。


 数秒もすれば、リディアの戦闘機とフィユのドラゴンは空の彼方に消えてしまった。

 無人機たちも各地に散っていき、わたしとチトセは古都上空に置いてけぼり。


 チトセの戦闘機は、ユリィの後方に回った。


《私はウィングマンをするから、クーノがリードをやって》


「ほ? リードって何をすればいいの?」


《好きに戦えばオッケー》


「おお~! それなら得意技だよ!」


 眷属たちも放ったことだし、これで戦いの準備は完了だね。

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