第19話 FILE01 女学園バラバラ死体事件-11

 倉井は今にも飛びかからんばかりに、怒りの表情を浮かべ、北川教諭と榊原を見たた。


「そう、二人はやってないだろうね」


「「「へ?」」」」


 しかし、俺の言葉に全員の目が点になった。


「彼女達はやってないよ。

 もしあの夜、柳さんが死んでいなくても、実行になんて移せなかった。

 自尊心ばかり強いクセに小心者。

 師弟そろって、そっくりな二人だ」


「「――っ!」」


 顔をしかめる北川と榊原だが、何も言えない。


「え? 犯人じゃない?

 じゃあ……」


 ミカの視線が倉井へ向かう。


「わ、私が殺したって言うの!?

 ルームメイトが犯人だなんて、バレバレな犯行するわけない!」


「ルームメイトだからこそ、動機ができやすいとも言うんじゃないか?

 キミたちの場合、もっと古い付き合いのようだがな」


 それに、倉井がプランダラーであれば、三日間逃げ切ればほぼ勝ちだ。

 色々とずさんになろうというものである。


「なぜそれを……」


 倉井の疑問に答える代わりに、俺はスマホの画面を彼女に見せた。


「なんでそんなもの……」


 そこに写っているのは、仲良さそうに並ぶ二人の少女。

 13歳くらいだろうか。

 1人は被害者の柳だ。この頃から圧倒的な美貌で輝いている。

 もう1人は倉井だ。

 人によっては、彼女と同一人物だとは認識できないだろう。

 それくらい、今とは似ても似つかないほど、地味で、端的に言えばブスだった。


「回収させてもらったチップでアクセスした先にね。

 とあるソースコードの他に、1枚だけこの画像写真が保管されていた」


「チップ? そんなの知らないわ!

 明花理のじゃない!」


「そりゃキミのじゃないだろうさ。

 柳さんのだからね。

 そして、これがあったのは北川先生の部屋だ」


 彼女もまた、この寮で生活をしている。


「わ、私だって、知らないわ!」


 北川教諭は必死で首を横に振った。

 そう。彼女は何も知らない。


「倉井さんは、北川先生に罪を着せるつもりだったんだろう?」


「知らないって言ってるでしょ!」


 今度叫んだのは倉井だ。


「キミはチップでのアクセス方法がわからなかった。

 かと言って、チップをずっと持っているのは危険だし、手放すわけにもいかない。

 そのチップには、柳さんのDNAが大量に付着しているだろうからね。

 どんなに洗っても、最近の科学捜査じゃ検出されてしまうかもしれない。

 なんせ体内にあったんだ。

 見つからない場所に隠すことも考えただろうけど、そんな場所はなかなかない。

 じゃあ、見つかったとしても自分に害がない場所、いや罪を他人になすりつけられる場所はないか。

 そこまで考えた。

 なかなか賢かったね」


「明花理が何のためにそんなことするのよ」


「さっきの写真、プログラムコンテストのものだろう?

 中学生の部だ。

 キミと柳さんはそこで出会い、惹かれ合った。

 でも、そこからしばらく会わなかったんだろう。

 キミは彼女に見合う美しさになるまで、会えないと思った」


 だから、趣味も顔も変えていった。

 柳さんに釣り合うように。


「…………っ!」


 倉井は奥歯をギリっと噛み締めた。


「そこに写っているブスが明花理だとして、それが殺す理由にはならない」


「美しくあるには金がかかる。

 そして、柳さんは金になる何かを手に入れていた。

 ルームメイトのキミは、それを察した」


 倉井はコンテストに出るほど、プログラムの才能があった。

 だからこそ気付いたのだろう。

 授業で能力をセーブしていたのは、プログラミングなんて女子力の高い娘がすることじゃないとでも思ったのか。


「でも被害者と釣り合うために美しくなろうとしたのに、その相手を殺しちゃダメじゃない?」


 ミカの言う通りだ。


「二人がケンカをしていたとしたら?

 たとえば、倉井さんが被害者に『そんな見た目じゃ嫌だ!』みたいなことを言われたとかね」


「なぜそれを……」


 どうやら図星だったらしい。


「キミはせっかく金と時間をかけて作った容姿を否定され、激昂した」


「違う!」


「そりゃあバカにされるよね。

 整形までしてそのデキじゃあ。

 何回した?

 5回? もっと? 10……20回?

 そりゃあ、いくら金があってもたりないはずだ。

 でも残念だね。

 彼女には全然敵わなかった」


「ちがう! 私は美しい!」


 倉井の額に青筋が浮き、髪の毛がざわざわと逆立ち始めた。

 一人称も、『明花理』から『私』になっている。

 こちらが素だな。


 ミカははっとして俺を見た。

 何も言わなくても察してくれたか。

 理解が早くて助かる。


「女の私から見ても、残念なデキだわ。

 もとがブサイクだってまるわかり。

 やっぱり素材が悪いとダメね」


 ミカも俺に続いて倉井を挑発する。


「ギ……ギギギギ……」


 ゴリンッ!

 噛み締めた倉井の奥歯が砕けた音がする。

 もう少しだな。


「自分の欲望に負けて、簡単に人を殺すような醜さが、顔にも出ちまってたってことだ」


 これは本心だがね。


「ちなみに、ソースコードは消しておいたよ。

 あんなもの、世の中に出ちゃいけないからね」


 柳さんもそう考えたからこそ、クライアントに渡さなかったんだろう

 それに、あのプログラム。

 チートツール以外に使い道がありそうだ。

 天ヶ崎がそこまで考えていたのか……いや、むしろそちらが狙いだろう。

 こちらがそのことに感づいたと、天ヶ崎にバレているかどうか……。

 

「ウガアアアアア!」


 倉井が人のものとは思えない咆哮を上げた。

 彼女が『奪う者(プランダラー)』で確定だ。


「「ひっ――」」


 榊原と北川教諭が小さく悲鳴をあげたその時、


 ――『気絶(スタニング)』


 俺は二人を魔法で気絶させ、部屋の隅へと弾き飛ばした。

 もちろん、壁に強く叩きつけられないように空気でクッションをはさむことも忘れない。

 ここから先は見せられないからな。

 同時に、声が外に漏れないよう、防音魔法も展開している。


 倉井の肩の筋肉が大きく膨らみ、その姿が人外のものへと変容していく。


「こうなるかなって挑発してみたんだけど、やり方あってるよな?」


「ばっちりだわ……さすがね。

 ちぇっ……あたしが教えてあげようと思ったのに」


 ミカはちょっと悔しそうに唇を尖らせる。

 やはり、プランダラーの正体を暴く常套手段は挑発だったか。

 人殺しをしやすいということは、いくつかの感情のリミッターが外れやすくなっているということだ。

 情報を集め、的確に挑発してやればご覧の通りである。


 倉井の体積は今や2倍にも膨らみ、その美しい顔だけを残して、体は筋肉でぶくぶくに膨れ上がっている。

 肩や膝からは、硬質した皮膚か、骨かはわからないが、包丁のようなトゲが何本も伸びている。


 さて、ここからはミカにも出番をまわそうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る