第15話 FILE01 女学園バラバラ死体事件-7

 天ヶ崎は案の定、居留守を使ってきた。

 ゲーム機からのメッセージで、「いることはわかってる。令状をとってもいいのだが?」と送ると部屋に入れてくれた。


「さっそく役に立ってるし……」


 とミカはたいそう感心していた。


「さて、被害者――柳優南としていた取引について教えてもらおうか」


「取引? なにを言っているのかわからないね」


「とぼけるのは自由だけどな。ここで話しておかないと、令状を取ってきてからじゃ、PCの中身を全部押収されちまうぜ」


 こちらも証拠のないカマかけだけどな。


「僕に対してそんなことはできないよ」


 俺のセリフにも、天ヶ崎はポーカーフェイスを崩さない。

『できない』という単語は気になるが、後回しだ。


「それに、PCの中には何も入ってないよ」


 それはほんと……みたいだな。


「じゃあ大事なデータは別の場所かな」


「人に見られたくないデータの1つや2つ、誰でも持ってるよね」


 だが、彼は普通の人が見られたくない以上のものを持ってるな。

 彼は一般人からすると、隠し事は上手い方だ。

 ちょっとやそっと、他人の顔色をうかがうのが得意な程度じゃわからないだろう。

 だが、俺は魔王だからな。


 そしてこの男、予想通りかなりキレる。

 俺が嘘を見抜けると感じとり、そうされても被害がすくなくなるような回答を選んでくる。


「どこかに外付けのドライブでも……いや、違うなもっと大規模なものか?」


 俺は天ヶ崎の目を見ながら言葉を選んで、反応を探っていく。

 さすがに視線や呼吸、体の動きだけでは判断しにくい。

 聴覚強化で鼓動も聞きつつ、彼の無意識が向かう先を探っていく。

 魔術が使えなくても、才能があれば訓練や道具で可能な技術だ。


「特別な部屋があるのか」


「な、なんでそんなことまで……」


 ポーカーフェイスが崩れてきたぜ。


「本棚あたりに秘密が……いや、キッチン……ちがうな。トロフィーの棚か」


「そんな……視線には気をつけていたのに……」


 わかっていないヤツは、隠したい場所に視線がいく。

 少しわかっているヤツは、そこから視線を『遠いところ』に外す。

 もっとわかっているヤツは、視線で罠をかける。

 だが、そこに何らかの意思が含まれる以上、俺にとってはいずれもヒントでしかない。

 もちろん、相手の性格をある程度把握している必要はあるが。


「さて、ここに何があるのかなっと……」


 俺はトロフィー棚をあれこれチェックしてみる。

 トロフィーを動かした跡があるな……。

 ガラスでできた棚のホコリはきれいに拭き取ってあるが、人間の目では見過ごしてしまうような、わずかな傷が残っている。

 その傷の数、深さ、サイズ、向きなどからトロフィーの配置を入れ替えていく。


「なんでわかるんだ……」


 説明してやる義理はないからな。

 トロフィーを特定の位置に並べると、音もなくトロフィー棚が横にスライドし、隠し部屋が現れた。


「なんてベタな展開……」


 ミカがあきれる気持ちもわかる。


「隠し部屋は結構有効な方法なんだよ。

 いくらPCをスタンドアローンにしても、物理的な盗難だったりと、情報を盗む方法は色々あるからな」


 隠し扉を開ける方法も、なにげに最新技術なのだろう。

 センサーの類が、普通に目視しただけでは見当たらない。


 隠し部屋といっても、そこだけで20畳以上は余裕であるだろう。

 業務用のサーバーとそれに繋がったモニター。

 その他、スタンドアローンらしきPCなど、いくつもの機材が並んでいる。


「それで、ここで何をやってるんだ?」


「言うと思うのかい?」


「ソーシャルゲームの何かかな。それもゲームを作ってるわけじゃなさそうだ」


「な……っ! どこまで知っている」


 被害者の行動を見ていればここまではわかる。

 だが、ここからは勘に頼る割合が大きくなる。

 安定した組織運営をするならバクチは避けるべきだが、時には確率の低いカケにでなければ、逆に滅ぶこともある。

 魔王時代に学んだことだ。

 安定を向かいすぎることもまた、リスクなのだ。


「キミがしゃべらなくても、ネタはあがってるんだよ。

 ソーシャルゲーム……いや、サーバーにデータを保存するタイプのゲーム全般のチートツールだろ?」


 これだけの規模の部屋を使っているくらいだ。

 イタズラでやってるとは思えない。

 金になる何かだ。

 たかがゲームのチートツールごときと思うかもしれないが、これがそれなりの金額で取引される。

 特に某人口の多い国では、これで一財産を築いた者もいるらしい。

 とはいえ、チートツールなんてのは、人気タイトルが出るとすぐ現れるものだ。

 彼がわざわざ手がけるとも思えない。


「それも、ただのチートツールじゃない。

 どんなゲームにも使えるとか、ゲーム側のどんなアップデートも即座に解析してくれるとか、チートをしているとギリギリバレないラインをAIが解析し続けつつけて対応してくれるとか」


 天ヶ崎の眉が一瞬だけ、ぴくんとはねたのを、俺は見のがさない。


「おいおい、全部かよ。

 これで、今までわからなかった動機が見えてきたな」

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