#2

「ごちそうさま」

 夕飯を食べ終えて部屋に戻る。

 掛けてあるカレンダーをめくり取り、6月に変える。

 百均で買った子猫のカレンダー。

 眠っていた茶トラの子猫が、目線を上に向けたロシアンブルーの子猫になった。

 5月を筒状に丸めながら学習椅子にすわれば、ギシギシきしむ音が相変わらず部屋に鳴り響く。去年か一昨年くらい、むしゃくしゃして蹴飛ばしてしまってから、この椅子はすわるたびに変な音がするようになった。それはまるで、蹴飛ばしたときの恨み節みたいに聞こえてなんだか怖い。

 突然の短い着信音。スマホが、ちょっとだけ机の上で震えてから静かになる。

 ステータスバーに表示されていたのは、お気に入り登録している動画チャンネルの更新情報だった。

「ライブ放送かぁ……」

 いつ終わるかわかんないし、あとでアーカイブから見ることにする。今度は、別のアプリのアイコンをタップして、SNSに接続する。そこで登録しているゲームのイベントが今夜の23時59分までで、基本的には無料で遊べるんだけれど、課金は1ヶ月千円までって親と決めて遊んでいた。

「えっ、やめちゃうんだ、ミルキーさん」

 ゲーム仲間のユーザープロフィールのコメント欄には、『リア多忙により退会します。サヨナラ』顔文字や絵文字もなく、ただそれだけがシンプルに書き込まれていた。

 SNS内のミニメールで、ミルキーさんにやめる理由をたずねてみる。すぐに返信が届いたから、オンラインだったのかもしれない。

『なんか飽きちゃったし、いろいろと疲れちゃったんだよね』

 確かに、ゲーム内のイベントや仲間たちとのやりとりは、パターン化してきていて物足りなく感じていた。わたしが始めた頃みたいに、最近はイベントがあんまり盛り上がってはいなかったし、利用者の過疎化も進んでいるようだった。

 ミルキーさんは、他のアプリのゲームにハマっているそうで、そっちに誘われたけど、そのゲームに興味がなかったから適当にあしらって断った。

 わたしもこのゲームに少し飽きてきていて、別のゲームを試したりしたけど、結局はどれも似たようなつくりで面白味に欠けたから、速攻でアンインストールしてやった。

 ひまな時間をダラダラとゲームして消費する毎日。家でする勉強は宿題だけで十分だから、予習なんてやりたくない。そもそも、こんなに毎日勉強をして、将来ほんとうに役に立つのかな……計算や漢字の読み方なら、スマホを使えば簡単で楽勝なのに。

「わたしもやめようかな、これ……」きしむ学習椅子の上で片膝を抱えながら、せいでゲーム画面を連打してポイントを稼ぎ続ける。

 暇な時間の過ごし方は、大体これで終わってしまう。自分でも無駄じゃないかってわかっていても、結局はゲームに手がのびる。

 わたしの青春はたぶん、毎日がこんな感じで終わりそうだ。


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