第8話  敬語

「ねえ、明日、土曜日だしデート行こうよ。空くん。」


金曜日の朝、朝食を食べているとそんなことを言われた。

「断る。」

そう僕が言うと彼女はその場で地団駄を踏んだ。


地団駄を踏んでいいのは小学生までだと思う。高校生の地団駄はダメだ。


「何で?もしかして恥ずかしいとか?それとも高校生だから?大丈夫だよ、私大人っぽいから見た目いけるいける。」

そう言ったが、そういう問題でもなかった。そもそものそれ以前の問題があった。


「土曜日、稼ぎ時だから喫茶店。普通に平日より僕忙しいんで、そもそも、君が同行以前に無理ですね。はい、お疲れ様です。」

そう僕が言うと彼女は目を見開いた。


「あっ……、私の華麗なる計画が映画を見たり、奢ってもらっておいしいもの食べたり、買い物したりの計画が……ああああ、私の優雅な休日が。」

そう言って膝から崩れ落ちていた。


「一人で行ってくればいいんじゃないですか?何なら、少しぐらいはお小遣いあげますけど。」

そう僕が凹む彼女に言うと彼女は口を膨らませて


「違うじゃん、そういうことじゃないじゃん、空くんってそういうとこあるよね。もう、私の休日を返しなさいよ。」

なんてキレられた、どういうところがあるのか分からないし、休日はもとから奪ってない。


「だから、一人で行ってくれば?」

そう言いかけた時に彼女はニコッと笑った。ああ、昔見たことがあるこれは知っている怒っているときの笑みだ……間違えた彼女は幼馴染じゃない、そうだ、そうだ。


「違うんだよ、空くん。二人で行きたいんだよ。分かりますか?だからね、私は凹んでるわけなの、それを一人で行けば良いって、ちょっとは考えて発言してよね。それにずっと言いたかっただけど、何で敬語なの?」

そんな関係ないことも交えて彼女は叫んだ。こんなところで口論していて遅刻しないか心配だが、それは一度おいておいて


「敬語なのは、特に理由はないですけど、でもまあ、なんか敬語のほうが良いかなって、15歳の少女に28歳のおじさんがため口はなんかちょっとやばいかなって思って…」

そうとりあえず答えると彼女はこっちをじっと見て


「じゃあ、休日のデートは諦めるので、空くんは敬語禁止ていうか、もっとフランクに喋ってよね。分かった?返事は?」


そういうので仕方なく「はい」と答えた。

僕の返事を聞くと彼女はご機嫌そうに


「分かればよろしい」

なんて言いながら優雅に朝食を食べ始めた。

しばらく、ボーっと優雅に食事をする彼女を眺めていたが、絶対に遅刻しそうな勢いだったので


「時間は大丈夫なんですか?ああ…なの?絶対遅刻するけど。」

そう尋ねると彼女は時計を三度見ぐらいしてから


「何でもっと早くいってくれなかったんですか?空くん。」

そう叫んだ。どうやら遅刻しそうな状態らしい。だから、僕は彼女にフランクに返事をすることにした。


「ああ、流石に、時間に気づかない馬鹿とかアホではないと思っていたから、まあ気が付いているだろって思ってて、まさか、まさか気が付いていないとは夢にも思っていなかったからびっくり。本当に間抜けだね。」

そう僕が言うと彼女はじたばたしながら


「悪口はもっと丁寧に言って」

なんて叫びながら部屋から飛び出していった。本当に元気なことである。

一人残った部屋で朝食の片づけをしながらそう思った。

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