第16話 死に際

 アリーザにけしかけられたジャイアントオークは主の命じるがままにフレイに突撃した。

 今度は吹き飛ばすことを目的とした突進ではない。一撃一撃拳を使って追い込んできた。

 はじめに数撃は体を反らしてダメージが入らないよに受けることができたが、それでもダメージは確実に蓄積していった。

 ただでさえ2度も宙を舞ったあとなのである。


 あ、ここで死ぬんだな。


 フレイは、ゆったりと打撃を繰り出してくるジャイアントオークを呆然と眺めていた。

 武器を手に取れないフレイにジャイアントオークに対抗する手段はない。

 続く1撃は受け身をとろうとすることもしなかった。

 衝撃が体内を駆け巡ってあばら骨を3本折った。そのうちの2本が内臓に突き刺さった。


 次の一撃で確実に死ぬ。

 そう思って目を瞑ったフレイは金属を打ち鳴らす音を聞いた。 

 うっすらと目を開けて音のありかを確認すると、冒険者の1人が盾を剣で叩いて威嚇をしいていた。


「だめ、そんなことをしたら……」


 冒険者がやっている行為は本来タンクが行うヘイトコントロールである。

 ヘイトコントロールは知能が低いモンスターほどよく効く。つまりジャイアントオークには効果がてきめんである。


 ジャイアントオークはフレイを殴るのを中断して、ヘイトコントロールを行った冒険者の方に向き直った。


 反射的に助けに行かなければと思うが、体を動かそうとすると体に激痛が走り、視界が明滅した。

(だめだこりゃ)


 今までも何度か死にかけたと思ったことはあったが、これは本当に死ぬやつだなと確信した。


「……い、……チャン……お……」

 誰かが、話しかけている。

 意識を痛みから話し、聴覚に意識を集中させる。

「ネエチャン!喉渇いただろ!これ飲みな!」

 誰かと思えばさっきの酒臭い冒険者だった。

 ふと見ると、手元に水筒が転がっている。

 確かに喉が渇いた気がする。死ぬ前に水を飲むのもいいかもしれない。そう思い、水筒の中身をあおった。


 途端に喉が焼けるような痛みが走った。今までの骨が内臓に突き刺さった痛みとは別種の痛みだ。

「これ、なんですか?」

 ゲホゲホと咳き込む。咳き込むたびに腹部が痛んだ。

「酒だよ!酒!ダンジョンなんて飲まなきゃやっていけないだろ!」

 酒臭い冒険者がゲラゲラと笑いながら答えた。

「ちなみに度数40の特別な一品だぞ!とっておきなんだから味わって飲めよ!」

 こいつには死に際の人間に対するいたわりという感情はないのだろうか?

「私、お酒飲めないんだけど!」

「おいおい、昨日あんなに飲んでたじゃねえか!」

「あ~、そういえば」

 昨日酔い潰れるまで飲んだ記憶がよみがえってきてなんだか死にたくなった。でも、そろそろ死ぬんだっけ?

 痛みがだんだん引いてきた。なんだか安らかに死ねそうだ。

 なんだか、体がぽかぽかしてきた。それになんか体が光って……。

 ん?体が光る?

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