第3話 妖精のツアーは適当


「それでは皆さん。ギルドのツアーに行きましょう」

 いつの間にか派手な色の三角帽を頭に乗せたシェスが意気揚々と歩き出した。


 シェスがあれだけ先人っぽさを出していながら、(実際先人であることに代わりはないのだが)実は昨日ギルドに就職したという衝撃から新人たちは立ち直りきっていなかったが、だからといってその場にとどまることはできない。


 通用口の奥に設置された待機所からシェスを先頭にして新人がぞろぞろと、歩いて行った。


 ふと、シェスが振り返って感慨深そうにうなずく。

「どうかしましたか?」とたまたま先頭付近にいたアンが訪ねると。

「いえ、534年間、アヒルの親子を見ていて、しつこくつきまとわれてウザくないのかなと不思議におもっていたのですが、こうしてやってみると結構な快感ですね。癖になります」

「え?アヒルをそんな目で見ていたんですか?」

「冗談ですよ。アヒルに直接聞いてみましたが、特に気にならないと言っていました」

「アヒルと会話できるんですか?!」

 思わずフレイも突っ込みを入れてしっまった。

「そんなびっくりしないでください。最後の方は冗談ですよ。とくに気にならないってあたりが」

「いや、そこは本筋じゃないのですが……」

 しかし、シェスは何事もなかったように再び歩き出したのでフレイのささやかな抗議が届くことはなかった。


 出会ってから数分もたっていないのに存分に自由奔放ぶりを見せつけるシェスに対して、フレイもその他の新人たちも妖精種に対する認識を新たにする必要を感じた。


「こちらが、ギルド運営する食堂です。ここでは主に冒険者向けに安くて栄養のある飼料を提供しています」

(しれっと飼料って言ったよ、この妖精)

 シェスが最初に案内したのは冒険者むけ食堂だった。

 広いフロアには机がところ狭しと並べらており、数千人が同時に着席できるのでは無いかと思えた。

 今は食事時ではないので人は少ない。

 それでも隅のほうで何やら話し込んでいる冒険者や、真ん中らへんで酔い潰れて寝ている冒険者がいた。

「食事の時間はとても混むのでギルド職員が紛れてしまうと脱出はできません。上司に見つかる心配もないでしょう」

 シェスはなにやらサボりの裏技の解説を始めたが、新人ギルド職員たちは食堂の大きさに目を光らせていた。



「こちらは、総合窓口です。総合窓口とは言っていますが、クエストの受注しかしません。他の要件は専門の窓口を案内して終わりです。悪しきお役所仕事の象徴といえるでしょう」


「こちらは、ドロップアイテム換金所です。モンスターの肉だの臓物だのを取引するのでとても臭い職場です」


「こちらは経理部です。計算が合わないと計算が合うまで残業をする部署ですね。深夜に号泣する声が聞こえるという怪談はすべて経理部が泣いている声を聞いた者にすぎません」


 シェスはこの調子で、ギルドの主要部所の案内をしながらその部署のネガティブな側面だけを紹介していった。


 そして、ギルド本部の中庭。その中央にたつ大きめの小屋の前にやってきた。


「ここが、金融課。この世の天国にして、地上の楽園!この世の幸せがすべて詰まった部屋であります!」


 他の場所とは打って変わって誰かにアピールするかのように、部署の内容を何一つ反映していない説明をおこなうと、シェスは足早に中庭から出て行ってしまった。


 案内役が逃げ出すように姿を隠してしまい困惑する新人たちに、シェスが建物の中から呼びかけた。

「大食堂で部署の発表をするので、ついてきてください!」

 

 フレイはギルドの建物に向かう途中、背後から視線を感じて振り返った。

 

 そこには、掘っ立て小屋と呼ぶには大きすぎる建物と呼ぶには貧相すぎる大きな小屋がたっているばかりであった。


「金融課。なにをする部署なんだろう?」

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