二年後

「――ッ!?」


 眠りから覚めた昂輝は、ベッドから勢いよく起きあがった。


(……またあの夢か)


 あれから昂輝は、あのときの出来事を夢で見るようになった。何度も何度も……繰り返し見ているせいで、心を病んでしまったこともあった。

 とうとう自殺未遂まで引き起こし、このままではいけない、と判断したダニールが、昂輝の祖父がいる北海道・函館へ連れていった。

 祖父・御剣みつるぎ 朱鷺ときは医師である。すぐに孫の様子を察した彼は、自分自身が経営する診療所で入院させることを定めた。

 祖父のおかげで、昂輝は少しずつ元気を取り戻していった。


(じいちゃんに預けられてから、もう二年がたったのか)


 昂輝はサイドテーブルに置いた写真立てを手にとる。そこには金髪碧眼の女性と幼女が写っていた。


「おはよう。アーニャ、紬星」


 写真のなかのふたりに朝のあいさつをすると、昂輝は自室をあとにした。洗面所で顔を洗い、歯をみがいてから居間へ向かう。そこには新聞を見る朱鷺の姿があった。


「じいちゃん、おはよう」

「おはよう。気分はどうだ?」

「夢は見るけど、気落ちはしなくなったよ」


 昂輝は朱鷺と談話しながら、コーヒーをれる。今どき珍しいポップアップ型のトースターでパンを焼いている間、昂輝は新聞をのぞき見た。


「相変わらず戦争は続いているんだね」

「情勢は五分五分ごぶごぶといったところだが、アフリカ大陸の半分は宇宙連合コスモス・ユニオンに占領されたそうだ」


 昂輝が生まれるずっと前、朱鷺が若かりし頃。彼方かなたの宇宙から突如とつじょ飛来してきた地球外生命体・星人ほしびと

 当初は地球人と友好関係を築いていた星人ほしびとだが、ある日急に人類へ攻撃を仕掛けてきた。

 地球侵略など、多様なうわさが流れるも、いまだに開戦となったきっかけはわからない。星人ほしびとが用いた未知なる兵器に地球人は気圧されたが、“プロメテウス”という星人ほしびとが地球人側についたため、形勢は逆転。なんとか勝利するも、双方そうほうともに多くの犠牲者がでた。

 それから星人ほしびとは地球から撤退していったが、昂輝が少年期のとき、再び地球へ飛来してきた。

 最初の戦争と比べて、彼らの兵器はより強力なものへ進化し、地球人を圧倒した。

 そして、“パンドラの箱”と呼ばれる重力爆弾を日本へ投下。日本は北海道・九州・沖縄を残し、重力の穴へ沈んでいった。――のちの“パンドラ事件”として知られるようになる。

 残された日本の島国は、星人ほしびとに占領され、植民地となり、日本政府の拠点は北海道・函館にある五稜郭ごりょうかくへ移された。

 そして、地球人側は“地球連邦軍”を、星人ほしびと側は“宇宙連合コスモス・ユニオン”を設立。ここから長きに渡る星間戦争せいかんせんそうが始まった。


「欧州は降伏。アジアは抵抗するも敗北。地球連邦軍の壊滅も時間の問題だな」

「……そうだね」


 テレビ画面に首都モスクワの光景が映される。なにもないだだっ広い大地だけが広がっていた。

 昂輝の瞳にかげがかかる矢先、朱鷺は孫の顔を新聞で軽くたたく。


「忘れろ、とは言わないが……。おまえはもう軍人じゃないんだ。さっさと新しい生活に慣れろ」


 そう言って、朱鷺は天文雑誌てんもんざっしを昂輝へ渡す。


「おまえが前に撮影した星景せいけい写真が載ってたぞ」

「マジで!?」


 昂輝が目を輝かせて雑誌を広げた直後、トースターの食パンがポンッと勢いよく飛び出した。

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