番外編 いつでも全力!紫水晶

 ここは、アクシオの探偵事務所。今日も、様々な依頼が彼の元に届いていた。


「さて、今日の依頼は……。」

 俺は、一枚の依頼書を手に取る。

 探偵の仕事は実に様々だ。浮気調査、ペット探し、殺人事件の調査など……。


 それに加えて、最近は怪盗関連の事件も増えてきている。

 その怪盗は、主に原石を盗む泥棒だ。

 通称『怪盗ガーネット』と『怪盗スクリーム』。

 彼らを捕まえることは、探偵である俺の使命でもある。


 俺は、そんなことを考えながら、次の依頼書を取ろうとする。すると、一人の少女が事務所に入ってきた。


「アクシオさんっ!新しい依頼を、持ってきましたよっ!」

 その少女の名は『レイア』。俺の探偵助手だ。


「レイアか。どんな依頼だ?」

「猫捜しのようですっ!」

 彼女はそう言って、一枚の紙を差し出してきた。


「猫?」

「はい!この辺りに迷い込んでしまって、ずっと探しているらしいんですっ!……どうしますか?」

 レイアは俺に尋ねる。


「……よし、受けてみようか。」

「わかりましたっ!では、早速行きましょう!」

「ああ。」

 俺たちは、迷子の黒猫を捜しに出発した。


***

「……この辺で目撃情報があったのは、確かここだったはず……。」

 レイアは地図を見ながら呟く。


「よし、手分けして捜そうか。」

 俺が提案すると、彼女はパッとこちらを見て言った。


「はいっ!わかりましたっ!」

 そして、レイアは走っていった。その背を見送りながら思う。

(相変わらず元気だな……。)


 レイアは、とても明るくて素直な性格をしている。彼女の長所の一つだが、短所にもなりうる部分でもあった。

(初めて会った時から、あまり変わってないな……。)

 俺は苦笑する。


 レイアが探偵助手になったのは、つい最近のことだ。俺はずっと一人で探偵の仕事をしてきたのだが、ふとしたことがきっかけで、助手を雇おうと思ったのだ。


 そこで、俺は探偵助手を募集する旨の張り紙を出した。すると、すぐに一人の少女がやってきた。それがレイアだった。


 俺は、自分より年上の人を助手にしようと考えていたから、正直困っていた。しかし、レイアはとても熱心に夢を語ってくれたのだ。


『私は、アクシオさんのようになりたいと思っていたんですっ!だから、張り紙を見て、いてもたってもいられなくなって……!それで、ここに来ちゃいましたっ!』


 俺はその時の彼女を思い出す。本当に真っ直ぐだった。だから、俺も彼女を助手にしようと決めたのだった。

 それから、俺と彼女は二人で仕事をしているというわけなのだ。


 ……正直に言うと、レイアは真面目すぎるほどだった。何をするにも全力で、失敗を恐れず行動してしまう。


 この間あった浮気調査では、レイアが依頼人の女性に感情移入し過ぎて、泣いてしまったこともあった。


『私が、絶対にっ、解決しますからねっ!!』

 ……と言って、それはそれは張り切った。結果、依頼人は無事に誤解を解き、仲良しになったのだった。


 また、殺人事件の調査では、犯人と疑われた人を助けようとしたり……。(結局は勘違いだったが……。)


 他にも、事件を解決しようとして、逆に狙われて人質になったり……。とにかく危なっかしいところが多かった。


 その度に俺はレイアのフォローをしていたわけで……。どちらが助手なのか、自分でもわからなくなってしまうこともあるのだ……。


 それでも俺は、

(……まあ、悪い子ではないんだけどな……。)

 と、思っていた。


 実際、そうなのだ。彼女は、決して悪い人間ではない。むしろ、良い奴だと思う。ただ、真面目過ぎて空回りすることが多いだけであって……。

 それにしても……。


「……遅いな……。」

 俺は腕時計を見る。

 もう30分は経っているぞ……。一体どこにいるんだ?まさか、また何かに巻き込まれたんじゃ……?! 俺は心配になり、走り出した。

 すると、少し離れたところに人影が見えた。俺はホッとする。


「おい!こんなところで、何してるんだ!」

 俺がそう叫ぶと、彼女は振り返ってこう答えた。

「あっ!アクシオさんっ!すみません!私、猫を見つけたんですが、逃げられてしまって……!」

「そうなのか……。」

 俺は肩を落とす。

「はい……。」

 レイアは申し訳なさそうに俯いた。俺はそんな彼女に笑いかける。


「大丈夫だ。きっと見つかるさ!」

「はいっ!ありがとうございます!」

「ああ!」

 俺は再び歩き出すが、少し気になっていたことがあったので聞いてみた。


「なぁ……、お前は、どうして俺のようになりたいと思ったんだ?」

「えっ?!」

 ……そんなに驚くことなのか?


「いや、その……。お前は、俺のことを尊敬してくれているみたいだけど……。何故だろうと思って……。」

「そ、そんなの決まってますっ!」

「……ん?」

「わ、私の憧れだからですよっ!……アクシオさんは、高校生の頃から、探偵をしていましたよねっ!?」


 ……確かにそうだ。俺は、高校生探偵として名を馳せていた。

「ああ。」

「私は、そんなアクシオさんの姿を見て、私も高校生になったら、アクシオさんのようになりたいと、思うようになったのですっ!」

「そうか……。」

 俺は照れ臭くて頬を掻く。すると、レイアは真剣な表情で俺を見た。


「……だから、私はアクシオさんの助手になれたことが、とても嬉しいんですっ!アクシオさんは、私の目標なんですよっ!」

「……そうか。」

 俺は微笑む。

「はいっ!」

 レイアは笑顔を見せた。


「さてと……。じゃあ、猫を捜しに行くか。」

「はい!頑張りましょう!」

 そして、俺とレイアは再び猫を探し始めた。


***

 しばらく歩いていると、不意に黒い影が視界の端に映った。俺は立ち止まる。


「……どうしましたか?」

 レイアが不思議そうに尋ねてきた。

「……いや、今そこに猫がいたような気がしたんだが……。」

「あっ!本当ですかっ!……じゃあ、捕まえないとですねっ!!」

 そう言って、彼女は駆け出そうとしたが、俺は慌てて止める。


「待て待て!!とりあえず落ち着け!……まずは様子見だろ?!」

「あっ……。す、すみません……。つい……。」

 ……ったくコイツは。すぐ暴走するんだからな……。まぁ、そこがレイアの良いところでもあるんだが……。


「……よし。それじゃ、慎重に行くぞ。」

「はいっ!」

 俺たちは物陰に隠れながら、ゆっくり進んでいく。すると、その先に猫の姿が見えてきた。


「あっ!あれじゃないですかっ?!」

「……あぁ。多分、あの黒猫だな。」

 俺とレイアは顔を見合わせる。

「どうしますかっ?」

「……よし、作戦通りに行こう。」

「はい!」

「それじゃあ、行くぞ……。」


 俺はそう言うと、一気に飛び出した。レイアもそれに続く。俺たちが近づいていくと、猫はこちらを振り向いた。

「ニャッ!」

 猫は驚いて逃げる。


「逃がすかっ!」

 俺は走るスピードを上げた。猫は必死に逃げようとするが、徐々に距離が縮んでくる。

「もう少しだっ!」

 俺は手を伸ばした。そして、やっと猫を捕まえることができた。


「やったっ!やりましたねっ!」

 レイアは嬉しそうに笑う。

 俺も思わず笑みを浮かべた。

「ああ。」


***

 無事に猫を依頼人のところに届けると、依頼人はとても喜んでいた。俺とレイアは、その様子を見て安心した。


「良かったですねっ!」

「ああ。」

「これで一仕事終わりましたっ!お疲れ様ですっ!」

 レイアはニッコリ笑って言った。


「ああ。お前もよく頑張ってくれたよ。ありがとな。」

「いえっ!アクシオさんこそっ!ありがとうございましたっ!おかげで助かりましたっ!」

 彼女は頭を下げる。


「いやいや、気にするなって。お互いさまだよ。」

「はい!でも、やっぱり私はまだまだですっ!」

「いや、そんなことは……。」

「いいえっ!全然ダメですっ!もっと頑張らないとっ!アクシオさんの足を引っ張りたくないですからっ!」

 レイアはグッと拳を握る。


「いや、俺だって……。」

「そんなことはないですっ!……あっ!もうこんな時間っ!早く帰りましょうっ!」

 レイアは時計を見て言う。

「……そうするか。」

 俺たちは事務所に向かって歩き始める。


 ……レイアは本当に真面目だ。彼女と仕事をしていると、大変なことも多いが、それ以上に楽しいと思うこともある。また、彼女の真面目さに助けられたことも度々あった。


 俺は彼女の横顔をチラッと見る。すると、視線を感じたのか、レイアはこちらを向いた。そして、「どうかしましたかっ?」と首を傾げる。


「いや……。何でもない。」

 俺は苦笑した。すると、レイアは何事もなかったかのように前を向き、また歩き出す。


(……これが、相棒というやつなのかもな。)


 俺はそんなことを思ったのだった。

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