第2章 絡み合う人間関係

第1話 探偵アクシオ、登場

「さすがですね!アクシオさん!」

 依頼者は、興奮気味に言う。


「いやぁ……。それほどでも……。」

 アクシオと呼ばれた彼は、照れ臭そうに頬を掻く。


「謙遜しないでください。本当に凄かったですから!」

「あはは……。そう言ってもらえると、頑張って良かったって思えます。」

「あの、もしよろしければ、今後もお願いしたいのですが……。」

「はい!喜んで!」

「では、報酬は、前払い分と合わせて……。」

「ありがとうございます!」

 俺は、依頼者からお金を受け取る。


「ところで……。どうして、こんなに頻繁に事件が起こるんですかね……。」

「うーん……。それは私にも分かりませんね……。」

「そうですか……。じゃぁ、失礼しますね。」

「はい。また何かあったら、よろしくお願い致します。」

 俺は、その部屋を後にする。


「……さて、次はどんな事件が起きるかな……。」

 俺はニヤリと笑う。


 俺の名前は、アクシオ・ザフィーア。年齢は20歳。この国の事件を解決に導く、しがない探偵である。


「あっ……。そうだ……。確か、次の事件は……。」

 俺は手帳を取り出し、パラパラとページをめくる。そして、ある項目に目を止めると、眉間にシワを寄せた。

「……また、『怪盗ガーネット』絡みか……。」


『怪盗ガーネット』とは、最近世間で話題になっている怪盗の名前だ。原石ばかり狙っているらしいのだが、盗品は返されることが多く、被害にあった人は皆一様に感謝しているという。

 また、『怪盗ガーネット』は『怪盗スクリーム』と呼ばれる人物と行動を共にしているらしい。


「二人組の怪盗、か……。いったいどんな奴らなんだ……?」

 実のところ、俺はその怪盗二人に会ったことがなかった。噂には聞いていたが、ここまで有名になっているとは……。

 だが、彼らが盗みをする奴らであることに変わりはない。


……アクシオは、正義感が強い男だった。


「よし、この俺が捕まえてやる……!」

 そう決意し、『怪盗ガーネット』と『怪盗スクリーム』の情報を集め始めた。

 まずは、彼らの情報を集めることにした。

 しかし、なかなか思うようにいかない。なぜなら、彼らは予告状を出さず、どこへ現れるかわからないからだ。


「くそっ……。これじゃあ手掛かりゼロじゃないか……。」

 俺は頭を抱える。しかし、あることに気づいた。

「まてよ……?怪盗ガーネットたちは、原石ばかりを狙っていたよな……。」


 その二人は原石に目がない。ならば、新しく原石の展示会を開けば、そこへ現れるはずだ。そこに俺が待ち構えていればいい。

 そうと決まれば、まずは展示会を開いてくれる人探しだ。

「さぁて、始めるか!」


***

 アクシオの手配は早かった。彼は、知り合いの美術館員に頼んで、早速原石の展示会を開いてもらうことに成功したのだ。


 なぜ、そんなことができたのかというと、彼は高校生の頃から『名探偵アクシオ』として有名だったからだ。

 もちろん、彼が手配した展示会には『怪盗ガーネット』と『怪盗スクリーム』が現れるだろう。


 アクシオは、会場の入り口を見張っていた。しかし、いつまで経ってもそれらしき人物は現れない。

(……来ないな。当てが外れたか……?……いや、もう少し待とう。)

 彼は諦めず、ずっと入り口を監視していた。すると、一人の警備員が近づいて来た。


「申し訳ありません、そろそろ閉館の時間となりますので……。」

 その警備員は、アクシオにそう告げる。

(……?妙だな……。閉館時間まで、まだ一時間程あるはずだが……。)

 アクシオは、時計を確認する。確かに、時刻は午後5時を回ろうとしていた。

 彼は、少し考えてから、こう言った。


「あぁ、すみません。実は、待ち合わせをしているんですが……。」

 ……待ち合わせというのは、もちろん嘘だ。アクシオの探偵としての勘が、警備員を怪しい人物だと知らせたのだ。


「そうでしたか……。それでしたら、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

「えっと……。」

 ここで、彼は偽名を使うかどうか迷った。もし、相手が本当に怪盗なら、こちらの正体はバレている可能性がある。


「どうされました……?もしかして、言えないような事情でも……?」

「いえ、そういうわけでは……。」

「そうですか!では、教えてください。」

「…………。」

 彼は悩んだ末、正直に話すことに決めた。


「僕は、アクシオ・ザフィーアという者です。探偵をしています。」

「た、探偵!?」

 アクシオが名乗ると、とたんに警備員は慌てだした。


(ガーネットぉ~!!探偵がいるなんて、聞いてねえぞ~!?)

 ……警備員の正体は、怪盗スクリームだった。アクシオはまだ気づいていないようだったが、スクリームは動揺を隠しきれない。


「あぁ、はい。……あの、どうかしましたか?」

「あぁ、いえ……。なんでもありません。」

「……?」

 アクシオが不思議そうな顔をする。

「……それでは、私は展示品を確認してまいりますので……。」

 そう言うと、警備員はアクシオの元を離れた。


(クソッ……!あの探偵がここにいたら、ガーネットが入って来れないじゃねえか……!)


 スクリームたちの作戦はこうだった。

 まず、本物の警備員を睡眠薬で眠らせて、服と展示ケースの鍵を奪う。

 そして、奪った服をスクリームが着て、展示会へ来ている客を帰るよう促す。

 そうして、客がいなくなったところへガーネットが変装せずに来て、ケースの鍵を開けて原石を盗む というものだ。


(仕方ない……。今日のところは帰るとするか……。ガーネットに知らせないと……。)

 スクリームが展示会場を離れようとすると、アクシオが声をかけた。


「あの、すみません。」

「はいぃっ!?なんでしょう……?」

「あなた……、警備員じゃないだろう。」

「えっ……!?」

 スクリームは、驚いた様子を見せる。


「あぁ、やっぱりな。おかしいと思ったんだ。この美術館には、警備員はたくさんいるけど、あなたのような人は見たことがないからね。」

「うぅ……。」

 スクリームは、何も言い返せない。

(……こうなったら、撤退だ!)

 彼は、警備員の変装を解いて正体を現す。


「……バレてしまったのなら仕方ない。俺は『怪盗スクリーム』だ。今日のところは、引き上げるぜ。」

「逃がすか!」

 アクシオは追いかける。


 彼は足が速かった。みるみるうちに、スクリームとの距離は縮まっていく。


(……ちょっと、お、おいぃっ!こいつ、速すぎんだろ~っ!!……つーか、今どきの若い奴って、皆こんなに足が速いのか!?)


 やがて、二人は美術館の外へと出る。

 アクシオは、スクリームに追いつくと、彼の肩を掴んだ。

「捕まえたぞ!怪盗スクリーム!!」

 スクリームは振り返って、アクシオを見る。

「くそっ……!」

(……このままだと捕まるっ!!)


──『あら、スクリーム。貴方はそんなものなの?』

 そこへ、一人の人物が現れた。その人物は、アクシオたちの元へ近づいてくる。


「ガーネット!」

 スクリームが叫ぶ。アクシオは、声がした方を見る。

(あれが、怪盗ガーネット……!?)


「なによ、スクリーム。その情けない姿は……。」

「う、うるせぇ!俺にだって、失敗はあるんだよ!」

「ふーん……。」

「それより、助けてくれ~っ!!こいつが邪魔で、うまく逃げられねぇ~!!」

 スクリームは、アクシオの手を払いのけようと必死にもがく。


「お前は誰だ?どうして怪盗なんかやってる?答えてもらおうか。」

「いいわ。教えてあげる。私は怪盗ガーネット。」

「怪盗ガーネット……。」

「そう。……あら?貴方、綺麗な瞳をしているわね。透き通るようなサファイアブルー……。」

 そう言うと彼女は、アクシオの瞳を見つめる。


「……っ!?」

 アクシオは、彼女のガーネット色の瞳に射貫かれ、動けなくなってしまった。

 すると、ガーネットは彼の耳元に口を近づけて囁いた。


「フフフッ、その瞳が原石だったら、私が盗み出したいくらいだわ。また、会いましょう……♪」

 そう言って、ガーネットは去っていく。


「じゃあな、探偵くん。」

 アクシオの腕から抜け出したスクリームも、それに続いた。


「待てっ!!ガーネット!!まだ話は終わっていないぞ!!………っ!」

 アクシオは叫び、追いかけようとしたが、身体は動かなかった。いや、


 立ち尽くす彼の胸は、未だに高鳴っていた……。

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