6. 蟲地獄 ~🐜3匹

 地中で働き出して二日目。


 折小野おりおの宇丈うじょうは、ポリポット世界でかつて自身が恋をした寒天草かんてんぐさと再会した。


 盤石な迷路の巣が、そこだけ砂状になっていた。


 彼女は翅でも幻影虫でもない。

 アリジゴクならぬ蟲地獄むしじごくだった。


「ここは……蟲地獄の巣か?」


 緊張を孕んだ宇丈の問いに彼女は肩を竦めた。


「それ以外の何に見えるんですか。あーあ、バレちゃった」


「……もしかしてここで弟を――じょうを襲うつもりだったのか?」


 寒天草は嫣然えんぜんと微笑む。宇丈の質問を肯定したも同然だ。


「……弱肉強食が自然の摂理で、君が蟲地獄だとしても、」


「いえいえ、元から私そんな長生きする気はないですから、狩りは趣味です」


 蟲地獄である彼女は幻影虫を罠にかけて食べる。それを狩り、と表現している。


 宇丈の背筋が凍った。


 次に思考が動き出した時、自分がただひたすら一つの事だけを念じていた。


「寒天草。君はどうすれば、その趣味を自粛じしゅくしてくれるんだ?」


「んー、そうですねえ」


 彼女は芝居がかった動きで、宇丈の青味がかった黒い目を覗き込んだ。

 彼女の毛羽立った前脚が丈の頬を撫でた。


「じゃあ代わりに宇丈さんが狩りをしてきてください」





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