百合の間に挟まってしまった男
まるで、甘い蜜が敷き詰められた巣穴の中に放り込まれた気分だった。
服を開けさせ、下着に包まれた豊満な胸元が見える中、由香と舞は一切隠すことなく笑顔で俺を見つめており、特に舞の瞳が早くおいでと俺に告げていた。
「……あの……えっと?」
上手く言葉が纏まらない。
彼女たちに対してどんな言葉を口にすれば良いのか分からない、だってこんなこと絶対におかしいだろうと思っているから。
雰囲気と漂う香りに脳がスパークを起こしそうになっているけれど、かろうじて俺は耐えている状態だった。
「煮え切らないなぁ。でも、それも分かっていたことだよ。だから……ね!」
「っ……うおっ!?」
思いっきり舞に腕を引っ張られた。
いつも二人で眠っているであろうベッドの上に倒れ込み、すぐに起き上がろうとしたが二人そうはさせないと言わんばかりに俺に覆い被さる。
「っ……」
「言ったでしょう? 捕まえたって」
「言ったよね? 逃げられないって」
ただ抑え付けられているだけじゃない、不思議と彼女たちの言葉には俺を動かさないようにする何かが宿っているようにも感じ取れた。
絶対にそんなことはないというのは頭で分かっていても、本当に体が不思議な力で縫い留められたように動かないのである。
「なんでこんなことを……?」
「あら、本当に分からないの?」
「ここまでやって分からないんだ?」
いやだって……いやいや!
これは悪戯だろ? 俺を揶揄っているんだろ? そうだと言ってくれ、そうでないのだとしたら二人は俺を……? いや、だからそれこそあり得ないんだよ……だって二人は愛し合っているんだろ!? 恋人同士のはずだろ!?
「だって二人は――」
「私、あなたに恋をしたわ」
「あたし、君に恋をしたの」
その言葉に俺は時が止まった感覚だった。
今彼女たちはなんと言った? 俺に恋をした? そんなまさかと、俺は迷子になった子供のように彼女たちを見つめる。
二人の手が左右から俺の頬を擦り、脳の入り込むような甘い囁きをしてくる。
「今までにない出会いだった。私たちのことを心から祝福してくれるあなた、本心から私たちに優しい言葉をくれるあなた」
「あたしたちはずっと受け入れられないと思っていた。仮に受け入れられたとしてもただのその場凌ぎで、あたしたちに良いように思われたいだけなんだとね」
チュッと、二人に同時にキスをされた。
もちろん唇ではなく頬に、彼女たちの柔らかな唇が触れたのだ。
「ねえ咲夜君、よく思い返してみて? 客観的な目線で考えてみてほしい、あんな風に私たちに言葉を掛けてくれて……母を前にした時も守ってくれて……私と舞が今まで咲夜君みたいな人に出会ってなかったからだろうけれど、それでもねぇ?」
由香が舞に視線を向け、舞はその視線を受けて頷いた。
「そうだよね。他者の心なんて覗けもしない限り分からない。でもあたしと由香は君の心を感じることが出来た。もちろん咲夜君はそんなことは、なんて言うかもしれないけれど……もうね? あたしたちは我慢出来ないの。君の心が欲しいの、そしてあたしたちの心ももらってほしいの」
二人の言葉は間違いなく本物だと俺は理解した。
しかし……そこで俺は自分で自分のことを馬鹿だと思ったが、ここに来て百合の間に挟まることは許されないという信念が俺を我に返らせる。
覆い被さる二人をどうにか傷つけないように、乱暴だと思われない程度に俺は彼女たちの体を押した。
「いやしかし! 俺は絶対に――」
百合に挟まらない、それにもしかしたら彼女たちも動転しているだけかもしれないのだと俺は気を強く持つ。
しかし、次の瞬間俺は由香にキスをされた――唇に。
「っ!?」
「ぅん……うふふ……」
触れるだけのキス、しかしガシッと頭を固定されたかと思えば、唇を割るようにして舌が入り込んできた。
(ディープ……キス!?)
それくらいのツッコミが出来るくらいには俺の脳はパニックだ。
入り込んできた舌を自らの舌で押し返すようにすればするほど、それは更に絡み合うようにして唾液の交換が行われる。
まだ足りない、もっとと言わんばかりに由香は離れてくれず、ようやく離れたかと思えば入れ替わるように舞がキスをしてきた。
「美味しい……美味しいわぁ咲夜君♪ でも独り占めはダメだし、舞にもちゃんと順番はあげないと」
由香から舞に入れ替わった深いキス、その感覚は同じなのに人が変わるだけで何かが違う……それからどれだけの時間、俺はそうしていただろうか。
初めてのキス、初めての深いキス、まるで脳が蕩けてしまったかのように全てがどうでも良く思えてしまう……俺の抵抗なんて無意味だと、諦めろと直接語り掛けられているかのようだ。
「えへへ♪ 気持ち良い……キスだけでこんなになれるなんてヤバいよ。ねえねえ咲夜君? こんなので満足できる? まだ欲しいでしょ? 色んなことをしてあげるんだよ?」
「っ……でも……」
「一旦さ、あたしたちに縋ってよ。大丈夫、ちゃんと付ける物は付けて迷惑は掛けないから。だから咲夜君、あたしたちに落ちろ♪」
それから俺としてもほとんどボーっとしていたような気がする。
流れに身を任せるように、それでも何度もこれは間違いではないのかと思いながら彼女たちとの時間を過ごし……そして俺は二人と裸で抱き合っていた。
「咲夜君♪」
「凄かったね♪」
……しばらくしたら家で目覚めてなんだ夢かよと、そう言えたら良いなと思いつつも、そうなると寂しいなと思うような……そんな心地だった。
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