第22話
今日は土曜日だ。昨日は家に帰ったあと、しこたま兄に暴力を振るわれて散々な夜となってしまったが、そんな嫌なことを忘れられるくらい、土曜日というものは素晴らしい。明日も休みなんだぜ?神かよ。
日課を全て終わらせ、時刻は朝の9時。今日は何をしようかとウキウキしていると、俺の部屋の扉が大きく開け放たれる。そこには、兄(姉)が立っていた⋯⋯。
「ゆーくん♡おはよ♡」
なんで昨日半殺しにした弟に対して、女体化してから語尾にハートマークで喋れるの?この異常者。嘘でしょ、俺こんな人と兄弟なの?だから浮いてるのかな?
俺は漏れそうになったため息をぐっと堪え、引きつった笑顔を兄に向ける。
「お、おはよう姉さん。ど、どうしたの?朝から⋯⋯」
「んもう!釣れないなぁ♡朝から宇宙一可愛いお姉ちゃんが、愛する弟に会いに来ただけじゃ〜ん!なんて仲睦まじい理想的な姉弟なんでしょ!ねっ?♡」
「アーハイハイソウデスネ」
「ん?」
「いえ!その通りです、お姉さま!」
こえーよ!とんでもない威圧感だったよ!俺の特技、威圧は兄の模倣品だ。つまり俺の上位互換が兄であり、俺は般若を幻視させる程度の威圧感だが、兄は簡単に死んだ自分を幻視させるほどの威圧感を放てる。⋯⋯冷静に考えて、俺の兄貴って人間?いや天使ではあるんだけど。悪魔とか鬼じゃないの?
兄(姉)の威圧感に震えながら兄(姉)を観察すると、どうやら余所行きの格好をしているらしい。白いレース付きのフリルシャツに、黒いふわっとしたミニスカート⋯⋯俗に言う、地雷系ファッションというやつだ。なんで兄の地雷系ファッション見ないといけないねん⋯⋯。
「ところで姉さん、今日はどこかお出かけ?」
「そうだよ〜!ほら、早くゆーくんも着替えて着替えて♡」
「え?なんで?」
「なんでって、決まってんじゃーん!デートしよ、ゆーくん♡」
神様、今日俺はここで死にます。短い人生でしたが、ありがとうございました⋯⋯。
◇◇◇◇◇◇◇◇
なんだかんだ無理やり着替えさせられた俺は、地雷系ファッションに身を包んだ兄(姉)と外を歩いている。なにこれ地獄?絶対に知り合いと会いたくねえ⋯⋯。
「いや〜!良かったよ〜。このカップル限定ケーキ、食べたかったんだよねぇ!」
兄(姉)は楽しそうに歩いている。なんで弟とデートして楽しそうなの?ああ違いますね、あれはケーキが楽しみなんですね。はい。
俺も甘党だから楽しみだけどさ!ケーキ楽しみだけどさ!だけどさぁ!!
「てか、普通に彼氏さんと行けば良かったじゃん⋯⋯」
「あ〜
「えーっ!?な、なんで!?結構いい感じだったじゃん!」
「だって、あいつすぐセックスしようとしてくるんだよ?粗チンで下手くそなのにさぁ!最初はイケメンだから許してたんだけど、私の体ってそんなに安くないよな〜って思ったら無理になっちゃって!あっはっはっは!」
聞きたくねえ〜〜〜!女体化した兄の性事情、生きてて一番聞きたくねえ〜〜〜!兄の口から「セックス」って聞きたくねえ〜〜〜!もうやだ〜〜〜!
兄は結構な性欲お化けだ。その日の気分で彼女とセックスしたり、彼氏とセックスしたりする。その現場は見た事ないが、わざわざ俺に報告してくるのだから多分本当にそうなんだろう。マジで苦痛すぎる。なお兄は、そんな苦痛に悶える俺を見て爆笑しているが。マジで最低の兄だよなこの人。
「じゃあ彼女さんと行けば良かったじゃんか」
「
「さいですか⋯⋯」
良かった、彼女とは別れていなかったらしい。
それと皆さんお気付きだろうが、兄は二股がデフォルトです。男としての天城葵として彼女を作り、女としての天城葵として彼氏を作る。兄曰く、自分の股が分裂して別々の相手と結合してるから一股なんだと。どんな理屈だよ⋯⋯あと、ナチュラルに股が結合とか言うな。
「そういえば昨日聞きそびれたけど、昨日は楽しかった〜?」
「ん?あー、そうだね。まあそれなりに。中々面白い奴らが集まったなって感じ」
急に話題変えるよね、この人。まあいいけど。
「へえ〜!どんな面子?」
「一人は、何でも出来る超有能美少女。風紀委員で、俺にちょっかいかけてくる。多分俺のことが好き。
一人は、逆に可愛いことしか取り柄のない無能美少女。そいつも恋愛斡旋人で、俺の手伝いをさせてる。多分俺のことが好き。
一人は、今恋愛相談を受けてるデブ男。ただのデブ。多分俺のことが嫌い」
「わ〜!ナチュラルに自分に惚れてると思っちゃうところ、私たちそっくりだよね〜♡」
うわぁ、最悪の気分⋯⋯。兄(姉)と似通ってる部分なぞ、一つも作りたくないんですけど。あと、兄のは自分に都合良く解釈された妄想だが、俺のは客観的事実に基づいた冷静な分析の結果である。一緒にしないでもらいたい(憤慨)。
「それで〜?ゆーくん的には、その3人だと誰がタイプなの?」
「すっげーナチュラルに
「うわぁ、それは流石のお姉ちゃんでもどうかと思うよ⋯⋯」
めちゃくちゃ癪なんだが!女体化する兄に、ドン引きの表情を浮かべられてるんだが!何このムカムカした感情!これが⋯⋯怒り?
「でもそっか〜。それなら、暫くゆーくんはお姉ちゃんにメロメロって事で大丈夫かな?♡」
「ソッスネ、ナンデモイイッス、ハイ」
きゅるん、と口に出してあざといポーズを見せてくる地雷系女体化兄。誰か、俺をここで殺してこの地獄から解放してくれぇ⋯⋯!
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