第18話

 漫研に挨拶した翌日の金曜日。俺たち恋愛斡旋同好会は、正式に部室となった空き教室の掃除をしていた。依頼者の曽根山も使って。


「ね、ねえ!本当に手で雑巾がけする必要ある!?」


「ダイエットだダイエット。モップ使って甘えようとしてんじゃねえ」


 俺は机椅子の整理、黒崎は窓の拭き掃除、白澤は部屋全体の掃き掃除、曽根山はダイエット込みで床の拭き掃除だ。

 ただ俺の私物を置きながら恋愛相談していただけの部屋なので、それなりに埃なども溜まっている。目に見える範囲は箒で掃いて掃除していたが、この教室をこうしてしっかり掃除するのは初めてである。


「黒崎ぃ〜。なんでそんなに拭き残しするんだよ!」


「ふっ⋯⋯もう忘れたの?天城くん。私は可愛いこと以外取り柄のない——」

「関係ないから。取り柄とかそういうんじゃなくて、お前が雑なだけだから。言い訳してないで、さっさと言われたところ拭きなおせ」

「——はい」


 こ、こいつ本当に使えねえ⋯⋯。最悪なのは、使えないことを開き直っている事だ。掃除ちゃんとしないのは努力とか才能じゃなくて、ただの性格だと思うんですけど。どうでしょうかねぇ?


 一方、早々に掃き掃除を終わらせた有能オブ有能の白澤は、俺と一緒に机椅子の整理をしてくれている。不要な机などを、旧校舎の倉庫に片付けたりする作業だ。


「白澤⋯⋯俺、本当にお前がうちの恋愛斡旋同好会に入ってくれて良かったと思ってるよ」


「えぇっ!?な、なんの話!?」


「気にするな⋯⋯」


 ポンコツと二人きりで活動していた場合、ストレスで禿げてた気がする。本当に白澤が居てくれて助かった⋯⋯いやマジで。


 そんなこんなで掃除を終わらせた俺たちは、曽根山のダイエットも済ませて大倉駅に来ていた。一応、曽根山も着いてきている。


「あ、お母さん?うん、うん⋯⋯。そう、今日お友達とご飯食べてくるから⋯⋯えぇっ!?お、男の子⋯⋯ま、まぁうん⋯⋯⋯⋯も、もう!そんなのじゃないって!」


 白澤が電話相手のお母さんにキレてる。なんとなく会話は予想できるが、本当に一挙手一投足可愛いなこいつ。可愛いが服着て歩いてるわ。


「もしもし。ええ、ええ。そう。前に言ってた⋯⋯そう。ふふ、ママありがとう。それじゃあ、遅くなりすぎないくらいに帰ってくるわね」


 黒崎は電話相手のお母さんと笑顔で電話している。あのナリで、母親のこと『ママ』って呼ぶのか⋯⋯。ギャップ萌えである。


「ママァ〜、今日外でご飯食べてくるよぉ!うん、うん!前言ってた、残念なイケメンの友達と〜、うん!」


 曽根山も母親のこと『ママ』と呼ぶのか⋯⋯知りたくなかった、そんなどうでも良い事⋯⋯。てか、俺の事『残念なイケメン』って呼んでるの?許せないんだけど。


 さて、俺も親に連絡するか。

 俺は携帯の連絡先から母親を探し出し、電話をかける。5コールといつもより長い呼出音のあと、通話が繋がった。


『やっほ〜!ゆーくん愛しのお姉ちゃん、あお——』


 危ない危ない、電話をかける相手を間違えたようだ。

 そう思ったのも束の間、母と書かれた連絡先から電話がかかってくる。⋯⋯出たくねえ。


『おい裕貴、なんで電話切るんだよ』


「ごめん兄さん、間違って電話切っちゃったっぽい。姉さんにわってくれる?」


『いや、今日は裕貴相手には男で行く。⋯⋯それで、用事はなんだ?母さんなら今風呂入ってるから、電話出れないぞ』


 女から男に戻った兄と電話しながら、実の母親が入浴中という情報を聞かされる俺。なんか前世で大罪でも犯しましたか?最悪の状況なんですけど。

 ちなみに、兄は男の時は口調と性格が悪くなり、俺に対するアタリが強くなる。え?俺とそっくり?今言ったやつ出て来い、しばき倒してやるから。


「⋯⋯今日、友達と飯食って帰るから晩飯いらない。もう作っちゃってたら、明日食うから冷蔵庫に入れといて」


『了解。え?てか何、もしかして女の子と一緒にいる?』


「いるよ。とびきり可愛い女の子二人引き連れて、飯食いに行くの。羨ましい?」


『ほーん、僕に対して煽るとは良い度胸してんじゃん。帰ったら覚えと——』


 ヤバいヤバい。なんか兄に自慢したら、半殺し宣言されたんですけど。怖くて電話切っちゃったよ⋯⋯。うわ、鬼電来てる⋯⋯電源切っとこ。

 常に着信音が鳴っていた携帯が鳴りを潜めた事で、電話が終わった黒崎がこちらをまじまじと見ていた。


「天城くん、良いの?電話無視して。お兄さんじゃないの?」


「良いの良いの。ほら、それより行こうぜラーメン屋」


 黒崎の質問を軽く受け流し、俺は3人を引き連れて行きつけのラーメン屋へ案内する。あんなん相手してたら、一生ラーメン屋に行けないからな。


「ねえ天城くん、なんで僕の存在を家族に隠してたの?」


「隠してないぞ?黒崎と白澤を引き連れてるっていう事実に対して、お前がいる程度の事じゃ、話題性で釣り合い取れてないだろ」


「いやそうだけど!そうなんだけど!凄いね!口を開けば僕を傷つけるよね!?」


 チッ、どうやら曽根山も電話を聞いていたようだ。俺の電話を盗み聞きするとは、曽根山も偉くなったもんだな?ええ?


 どうやら白澤は聞いていなかったようで、不思議な顔をしていた。可愛いね。


 そんな感じで他愛もない話をしていた俺たちは、ラーメン屋へとたどり着いていた。

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