01-06 トリセツ (二)

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“カナンの人類とその社会について”


 前提条件として、この文章を書いている者は数百年単位でしかカナン文明にかかわっていません。

 このため『現実世界』とは、それなりの誤差が生じていると推察されます。

 以下、一般論として書いていきます。

 カナンの文明は停滞しています。

 恐らく『現在』も地球で言えば中世レベルでしょう。

 魔法の存在により、地球では見られなかった文明・文化も見られます。

 ですが、魔法が便利なため科学技術が発達せず文明が停滞する傾向にあります。


 地球と最も異なるのが、男女比率です。

 人族・牙族共に男性よりも女性が多い傾向にあり、男女比は恐らく一対三以上でしょう。

 一対四以上に達している可能性もあります。

 魔法の存在により男女の戦闘能力に差が無いこと、男性の性的能力が地球人と比較して高いことが背景にあり、そのように進化したものと考えられます。


 男女比の関係もあり、多くの国家・部族で一夫多妻制が取り入れられています。

 ただし男性が社会の主体かどうかはまた別の話です。

 男性主体で王政なども男系相続が多いと思われますが、女性主体の社会も少なくありません。

 集団婚・多夫多妻制の国家・部族も過去には存在しました。


 カナンにはドラゴンやマンティコア、グリフォンといったファンタジー定番の大型魔獣は存在しません。

 過去には存在した可能性がありますが、現在は絶滅しているようです。

 一方、小型の魔獣は広く存在します。

 雷撃を跳ばす狼や狐といった存在はありふれています。

 これにより郊外は一般人には危険であり、これも文明の発達を妨げる要因になっています。


 実質的な意味で魔法を使える者は、社会で優遇される傾向にあります。

 ただし、国家中枢部が全員魔法使いかと言えば、必ずしもそうでない例が多いようです。

 つまり、魔法使いはおおむね貴族階級ですが、貴族の全てが魔法使いというわけではありません。


 期待しているかもしれませんが、カナンには冒険家向けのダンジョンあるいはそれに類するものは存在しません。

 冒険者、探索者といった職業も存在しません。

 強いて言えば、街道で商隊の護衛や道案内を生業としている者や傭兵、魔獣を狩る猟師は存在しますが、それだけです。

 ハンターギルドなどの都合の良い組織が汎世界的に存在しているなども、恐らくないでしょう。

 地球で過去にそのような物が存在しなかったのと同様です。

 念のため書いておきますが、レベルとかスキルとかゲーム的な概念もありません。

 自分のステータスが別画面で確認できるという話も当然ありません。


 もう一度繰り返しますが、カナンでは何時の時代でも女性が男性よりも多いという生物学的な特徴があり、これが地球社会と決定的な差異をもたらしています。

 成人している男性は複数の女性と婚姻ないしはそれに類する関係を築くのが一般的であり、女性と関りを持たない、あるいは一人の女性としか関係を持たない男性は、何らかの理由がない限り、極めて非道徳的な存在とみなされます。


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 あ、え、う、・・・。

 男女比一対三、ひょっとしたら一対四って、・・・これ、結構キツクネ?

 そりゃ、楽天的に考えれば、より取り見取りで男の夢ハーレム確定ワッハッハーですよ。

 だが、ハーレムが可能というのと強制されるとじゃ根本的に違う。

 この男女比で現実的に考えたら、最上位は別として、中級以下の男性は、かなーーーーーり厳しいのの引き受けを強制されるって話になるよね?

 一人寝という細やかな楽しみすら剥奪されて、毎晩毎晩、あんなのとか、こんなのとかへのご奉仕を強制される、・・・地獄じゃね?

 だいたいさー、リアルの彼女なんて一人いれば十分というか、一人でも大変だよ。

 ご機嫌取りとかさー、なだめるのとかサー、いろいろと、・・・。

 そりゃさー、言ったよ、ああ言いましたよ、『今週末はずっと一緒にいられる』って。

 でもさー、呼び出し来ちゃったんだもん、しょうがないじゃない。

 そーゆー仕事なんだもん、仕方ないじゃない。

 いきなり怒鳴りだして揚げてる天ぷら投げつけるってどーよ。

 そんで、いろいろとひっくり返した末にオレより先に部屋を出てくってなんなの?

 後でこの話を上司にしたら「お前は普段からケアとメンテナンスが悪い」とかって説教されたけど、オレが悪いの?

 違うよねー。

 悪いのはうちに下血連れてきた救急隊じゃん。

 そうだよねー。

 つーか、お前だよ、お前!

 三四歳独身男性K(仮名)だよ。

 お前さー、お前のケツ穴に鉄パイプ突っ込んだのはお前自身だろーが。

 それで、ちょっと血が出たぐらいでビビんじゃねーよ。

 こちとら、そのおかげで天かす火傷の、絨毯総取っ換えーので破局だよ!

 お前さー、一人の男、一人の人間である前に一人の変態だろーが!

 貫けよ!

 お前の変態道とやらをよーーーーー。

 あ、そうか、ある意味、貫いちゃったんだな、あいつ。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・まあ、いっか。

 昔の話だし。


 しばし、瞑想。


 オレは酒を飲んで気を取り直し、ページをめくって、そして、驚愕した。


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“あなたの使命について”


 英知と道徳と猜疑心に満ち溢れたあなたですので、この本のこの辺りではすでに大きく根源的な疑問を抱えていることでしょう。

 自分はなぜここにいるのか、自分は何のために『呼ばれた』のだろうか、と。


 悪の大魔王を倒してくださいとか、消滅の危機に瀕した世界を救う方法を見つけてくださいとか、国家の危機レベルどころか世界の根源的な悪とかとの過酷な闘争を強いられるとか、そんなことを考えているのではないでしょうか?


 残念ながら、そんなことはありません。


 あなたには特に使命はありません。

 特命も無ければ義務も無く、宿命もありません。

 何となく冒険の旅に出てチャプターが三つぐらい変わったら何時の間にか世界を救う話になっていたなんてこともありません。

 そもそもカナンはそのような危機に陥ってはいません。


 そんな馬鹿な、とあなたは思われるかもしれません。

 今現在の体の状況はなんなのだと、この力は何のためだと、亜空間ボックスにある物資のコストだけでも大変なものではないかと、それらを無償で見返り無しなど有り得ないと。

 ですが、それでも、再度書いておきます。

 あなたに使命はありません。

 強いて言えば、あなたがこのカナンの地で楽しく幸せな生活を送ること、でしょうか。

 亜空間ボックスの物資はあなたがカナンで再出発するにあたっての細やかな援助です。

 いかに卓越した存在であるあなたでも、初期資金と物資が無ければカナンでのスタートは苦労するでしょう。

 完全に善意ですので快く受け取ってください。


 そもそもの話として、強制しても、それが意に沿わなければあなたはそれを無視するでしょう。

 契約を結んでもその穴を探すか、必要最低限のことだけやって「いやあ、努力したんですけどねー」で逃げるでしょう。

 あなたに何かを強制するなど無駄であり、こちらも期待しておりません。”


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 狐につままれたという表現があるが、今のオレが正にそれだった。


 正直なところオレは何らかの使命か義務、少なくとも要請がなされると考えていた。

 そして、それでオレが今ここにいる理由もわかると期待していた。

 百歩譲って、オレが虚数断層だかに巻き込まれたのは事実としよう。

 このカナンとか言う場所にたどり着いたのも偶然としよう。

 体の状態は異常だが、虚数空間とやらの影響と言うのであれば、それはそうかもしれない。

 しかし、だ。

 亜空間ボックスの物資だけは説明がつかない。

 この物資を提供した奴らはオレがここに来たことを知っていた。

 オレがここに来ることに関与していたか、あるいは来ることを監視していた。

 そのどちらかしか有り得ない。

 オレの性格について色々と書いていることからすれば、オレが地球に存在していた時点からオレ個人に関与していた可能性が高いだろう。


 そこまでして何もなし?

 そもそも、なんでオレを選んだ?


 しかし、・・・まあ、・・・ここまで念を入れて書いてあるのだから、気楽に楽しく生きていい、・・・のだろうか?

 逆に不安なような、・・・どうしたもんだろう?

 個人的には、そんなに贅沢は望まない。

 最低限度の文化的生活が手に入れば後は追々考えるというとこだろう。


 そして、何とも言えない気分でページをめくったオレは再び頭を抱えることになった。


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“安易に生きようとしていませんか”


 あなたは卓越した肉体及び魔法能力を持ち、財力も有した状況です。

 フリーハンドを得たあなたは何をするでしょうか。

 未発達の悲惨な社会状況を改善するため率先して国家・そして世界の指導者となり、世界平和と民衆の生活環境改善のために滅私奉公するなどという少年コミック誌の主人公のような燃える正義の魂などというのは、あなたには無縁の世界でしょう。

 かと言って、世界中の美女と財宝はオレの物などと覇道を貫くほどの根性もないでしょう。

 そこそこの美女を嫁として、環境の良い田舎に住居を確保し、まあまあおいしい食事を食べて、周囲の悲惨さに良心が痛まなくなる程度の善行を時々行う。

 そんな地方の目立たない篤志家的な生活を考えているのではないでしょうか?


 断言しますが、これは不可能です。


 そもそもあなたが考えているような、『最低限度の文化的生活』が困難です。

 カナンの文明度は高くありません。

 近世以前の平均的な庶民生活は結構悲惨です。

 わらにシーツを被せただけのベッドでのみと虱に集られ、隙間風に震えながら眠り、決まりきった必要カロリーぎりぎりの食事に耐え、風呂は年に数回入れば良い方です。

 フランクフルトに都会が出来つつあったころ、アルプスの少女は黒パンとチーズとヤギのミルクだけで生きていました。

 二〇世紀初頭の日本人は一日五合以上の米を塩分過多の味噌汁と漬物で胃に入れていました。

 副食なんて盆と正月しか付かなかったのです。

 二〇世紀中ごろでも『日の丸弁当』という白米に梅干しだけの弁当が普通に存在していました。

 ナポレオン時代のフランス人は生涯三回風呂に入るとされていました。

 生まれた時と結婚前日と死んだ時です。

 唐揚げ弁当が三回続いた程度で不平を言うあなたが耐えられるとは思えません。


 すきま風が入らない程度の家という段階で、住民の上位一〇パーセントに入る必要があります。

 毎日異なった副食が提供される食生活は上位一パーセント、つまり上位貴族と言われる階級にならねばなりません。

 はっきり言ってあなたが我慢できる生活環境を手に入れるよりも、複数の女性を取っかえ引っかえする方が容易でしょう。


 女性関係になるとさらに厳しくなります。

 女性が美しくスタイルも良くなるためには、遺伝的素因と良好な発育環境が必要です。

 近世以前の庶民は環境要因が劣悪です。

 女性らしい良好なスタイルのためには成長期に十分な栄養、特に良質のたんぱく質とコレステロールの摂取が必要となります。

 江戸時代末期から明治初期にかけての吉原の女性の写真が残っていますが、あなたの目から見れば小学校高学年かせいぜい中学生にしか見えないでしょう。

 当時の吉原で最も美人とされた部類でこれなのです。

 当時の日本人女性は平均身長が一五〇センチに届かず胸も僅かなものでした。

 事実上米だけという日本食では、たんぱく質とコレステロールが決定的に足りなかったためです。

 一般農村ではもっと悲惨でした。

 のみと虱と皮膚病で年中痛めつけて、ろくに風呂に入れなければ、どんな恵まれた遺伝子の持ち主でも皮膚は数年で取り返しがつかなくなります。

 結論としてあなたが求めるような美人が育つには、貴族の環境が必要となります。

 可憐な羊飼いの娘とか、素朴で巨乳の農家の娘など、そもそも存在しませんので探すだけ無駄です。

 せいぜい美人の地方領主の娘というところでしょう。


 極端な話をすれば、あなたの能力であれば、世界中から美女と財宝をかき集め田舎で隠遁生活というのも不可能ではありません。

 ですが、これを維持するのは至難です。

 美人の存在は確実に地方領主の注意を惹きます。

 美人がいれば差し出せというのが近世以前の権力者の常識です。

 判事と検察官と警察署長の権力を兼ね備えた地方領主に目を付けられたら訴え出る先など有りません。

 公正な裁判とか、三審制とか寝言を言っても意味はないのです。


 それでも美人は屋敷の奥深くに隠すこともできるでしょう。

 しかし、あなたとその家族が贅沢な生活を送っているのを隠すのは困難です。

 何着もの服と下着を用意して毎日のように洗濯させているとか、水や燃料を顧みることなく毎日のように入浴しているとか、あるいは肉と新鮮な野菜及び果物を毎日のように食すとか、そのような驚異的な贅沢が露見すれば、その財源に誰かが刺さってきます。


 あなたの能力があれば地方兵士を追い返すのは簡単でしょう。

 ですが一〇人追い返せば一〇〇人、一〇〇人追い返せば千人の兵士がやってきます。

 気が付けば国家単位の征伐軍に対して大規模魔法をぶっぱし、その惨状に自分自身で恐怖して膝を抱えて引き籠るなんてことになるのが落ちです。


 結論としてあなたは遅かれ早かれ上級貴族、あるいはそれに類する社会的地位を目指すことになるでしょう。

 上級貴族並みの生活を周囲との軋轢なしに行うには上級貴族になるのが最も簡単なのです。

 周囲の悲惨な状況に対して良心を糊塗するために行う慈善事業にしても上級貴族として行う方が効率的と言う現実もあります。


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 何だね。

 使命も義務も強制しないとか言っといて、結局、上級貴族になれ、か。

 上手く言いくるめられている感がありありだが、反論も難しい。


 そりゃね、毎日、日の丸弁当で暮らせと言われたら発狂するよ。

 あの『ガリガリ』が着ていたような貧粗な服もいやだ。

 風呂だって、せめて三日に一回は入りたい。

 美人の彼女は必須ではないが、生活環境の妥協は困難かもしれない。

 そう、別に美人でなくても気立てが良くてスタイルが良ければ、・・・スタイルだけでもダメかね。

 ・・・気長に探せばどっかにいるはずだよ、平民の美人だって。

 ああ、でもどの道、生活環境で上流階級入りするしかないのなら、上流階級の女性でもいいのか???

 まあ、ゆっくり考えよう。


 しかし、上級貴族になるっていうことは嫌でもこの世界と関わるってことだ。

 ふむ。

 そーすると神様の御使いィとかの狙いというか要請というのは、オレが首尾よく上級貴族とやらに出世してからなされる、・・・と、考えとくべきか。


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“女性の選択と結婚について”


 ハーレムはあきらめてください。


 これには様々な意味を含みます。

 まず、ハーレムを作らないということをあきらめてください。

 上述のように女性の絶対数が多い世界で、成人して健康な男性が一人も、あるいは少数しか女性を連れていないのは奇異にみられます。

 社会階級が上昇すれば女性がいないのは不道徳とすら言われるでしょう。


 次に、あなた好みの女性がキャッキャウフフするような甘々で幻想的な、どこかのラノベで良くあるようなハーレムもあきらめてください。

 近世以前では恋愛結婚という概念すら希薄です。

 特に上流階級の結婚はほぼ全て政略結婚、家と家との結婚です。

 好みの女性との好感度を上げてなどとゲーム的な思考は、恋愛と結婚は別と割り切っている女性には通用しません。


 あなたがハーレムをコントロールするのもある意味あきらめてください。

 あなたのハーレムはしばしばあなたの意思にかかわりなく膨張し縮小するでしょう。

 貴族間では女性が一方的に送り付けられることも珍しくはありません。

 政治的な問題で妻であった女性が実家に引き上げられることもあります。

 著しい場合は、あなたがその日に入るベッドまで制限されるでしょう。


 それでも、可能な限り良い家庭環境を望むのでしたら、積極的に動くしかないでしょう。

 鍵になるのはハーレム内を取り仕切る女性です。

 第一夫人(名称は色々とあります)の選択は非常に大きな意味を持ちます。

 一般にあなたの社会的な地位が上がるにつれて、より美人でより有能な女性との接触が可能となります。

 その意味で言えば第一夫人の採用は可能な限り遅らせるべきです。

 ですが、困ったことに出世には結婚が必要というジレンマがあります。

 美人は上級貴族にしかいませんが、上級貴族の娘が美人とは限らないのが現実です。

 吉川元春ぐらいに割り切った考えができれば苦労しないでしょうが。


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 本は続いているが、総論はここで終わりのようだ。

 あとは亜空間ボックスの細かな仕様・使い方や魔法の使い方、あるいは旅の仕方や職業選択などの各論である。

 総論を読み直してみたが、人を勝手にリクルートしておいて、故郷にはもう帰れませんと断言し、謝罪の一つもないのは何だろう。

 それとも、オレがここに存在している責任は、『神様の御使いィ』には無いという意味か。

 地球の例を散々持ち出すことからすれば拉致に関与していないとは言い難いと思うのだが。


 人の性格を勝手に決めつけるのも腹が立つ。

 俺だって世のため人のため滅私奉公する気持ちはあるのだ。

 少なくとも年に数秒は。

 仮に糞真面目な性格の人間がこの文を読んだら結構怒ると思う。

 特に最後の章の女性を物扱いしたような表現は問題だろう。


 それにしても、吉川元春って言ったらあれだろ、『美人は三日で飽きます、醜女は三日で慣れます』ってやつ。

 有力者を味方に付ける方法としてはいいのだろうが、・・・オレの場合は美人をゲットするために出世を目指すわけだから、本末転倒だよな。


 読み返して気づいたのだが、どうも意図的に書かれていないことが結構ある。

 この本を作成したと思われる『神様の御使いィ』関係はほぼ何も書かれていない。

 唯一の情報は『数百年単位でしかカナンに関わっていない』というものだ。

 これが何を意味するのか。


『神様の御使いィ』が数百年単位の寿命を持っているのか、個人ではなく組織として関与しているのか、虚数空間とやらが絡んで接触を取るのが大変なのか。

 良く分からないというか判断する材料がないが、『神様の御使いィ』という個人あるいは組織が超常的な力を有している可能性は高いだろう。


 オレ個人についての情報も抜けが多い。

『神様の御使いィ』がオレの体についてオレ以上に詳しいのは間違いない。

 オレが便利というか、人間やめちゃいましたな体になっていることは詳しく説明された。

 先ほど亜空間ボックスに鏡を発見したのだが、現在のオレはかなり若い。

 この本には『地球人の十代後半から二十代前半という感じ』とあるが、せいぜい十五歳、下手をするとそれ以下に見られそうだ。

『神様の御使いィ』が必ずしも全てを把握していない証拠だ。

 気になるのは他にもある。

 この体は成長するのだろうか、老化するのだろうか、寿命は有るのか、有るとしたらどの程度なのか、その辺りは全く書かれていない。

 また、脳が破壊されたら記憶が跳ぶという話はあったが、それで死ぬとは書かれていない。

 表現からすれば記憶は一部無くなるが体は復活すると考えるべきだろう。

 では、オレは『死ぬ』のだろうか。

 死ぬとしたらその手段は?


 推察だが、オレを殺す方法はあるのだろう。

『神様の御使いィ』が、ある意味最終兵器と言えるオレを放し飼いにするのも、止める方法があるから、だろう。

 恐らく、オレを殺す方法は、偶然には起き難いが、手順を踏めば簡単なのだと思う。

 方法が分かれば対策を立てられる。

 だからオレ自身にはその方法を知られたくないのだろう。


 さて、本当にどうしよう?


 ここに、ネットと密林があれば、二~三年引きこもって考えたいところだ。

 マジで。

 問題はネットどころか本もゲームも娯楽の類が何も無いってことだ。

 亜空間ボックス内には多数の物資はあるが、この手引き以外、本は無い。

 ここで引きこもってもなぁ。

 社会に出るしかないのだが、具体的にはどうするのか?

 それなりの生活を持続的に周囲との軋轢なしに行うには上位階級になるべきという理屈はわかる。

 でもね。

 上級貴族って真面目にやったら結構忙しそうじゃないですか。

 土地持ちの貴族だと領地経営とかしなくちゃならないわけでしょ。

 表計算ソフトどころか電卓もなしで徴税とかインフラ投資とか、考えただけで大変そうだ。

 中央貴族は官僚仕事でやっぱり忙しそうだし、軍事系も訓練やら要人警護やらで大変だろう。


 なんか無いかな。

 ディープ〇ンパクトみたいのがあればいいなぁ、一発やったら一千万とか。

 不労所得系もいいよね。

 ・・・現実社会を知らないで考えてもしょうがないか、・・・。


 まあ、なんだ。

 神様の御使いィの思惑に乗るのもしゃくだから、できるだけあいつの予定から外れた貴族になってやろう。


 と、ここでオレは総論に『追記』があるのを発見した。


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“追記、とりあえず吸血鬼を探してみても良いかもしれません。”


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 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?

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