第25話 魔王降臨

 さて、延暦寺の敷地に入った俺は、『魂』たちが向かう方へ走った。

 もう止めることは出来ないと悟った俺だが、まだ望みはあったからだ。

 「『アイツ』が『呼び掛け』に応えなきゃ良いだけだ。まだ望みはある。」

 『魂』が集まる場所に信長はいる。

 俺は急いだ。


 ─『アイツ』だって莫迦じゃねぇ。

 きっと大丈夫なはずだ。

 …たまに抜けてるけど。


 そんな事を思いながら信長のもとに辿り着いた俺は、暴風を身に纏った信長の姿を目の当たりにした。

 信長以外の連中は敵味方関係なく気絶、もしくは絶命していて、それでも『魂』たちを吸い込み続けている信長は正に『魔王』を思わせた。

 「信長!やめろ!」

 と、俺が叫ぶが、信長は

 「『魂の生贄』によって、目覚めるが良い!そして我が呼び掛けに応えよ!魔王よ!」

 信長は両手を天高く掲げ、魂たちを吸い込み続ける。

 「聞いちゃいねぇな…しょうがねぇ…!」

 今の俺には『力』がない。

 だからこの事態を止めるには自分の存在を『召喚』するしかねぇ!と、思った瞬間。

 信長の体は真っ黒な炎に包まれた。

 「しまった…!遅かったか!」

 黒い炎は信長の体の中に収縮される。

 暴風は更に激しさを増し立っていられない。

 俺は両腕で顔を覆いながら踏ん張った。

 こうなるともう『アイツ』に頼るしかない。

 「ぐわぁァァ…!」

 と言う信長の悲痛な叫びは周囲に轟き、

 「目覚めよ!魔王!!!」

 と、信長の最後の力を振り絞った叫びは暴風を吹き消した。

 そして、黒い炎だけが残り、その炎は人の形へ変化した。

 炎が消えると、そこには1人の人物が立っていた。

 俺はその人物を見て大きくため息をついた。

 「はぁぁぁぁっ…。」

 そして頭を抱えた。

 「何てこった…『アイツ』、何考えてんだ…。」

 俺は炎から出てきた人物に近付いてその人物に話しかけた。

 「オイ、おめぇ…何で来たんだよ?」

 俺はキセルを取り出して蒸した。

 人物は周りをキョロキョロして、どうやら状況が把握できていないらしい。

 それもそのはずだ。

 「ここは…?人間界?何で?俺は、親父たちと会議してたはずなんだが…?寝過ごしたか?」

 白髪はくはつで黒い二本の角を生やしたこの男は両腕を組んで首をかしげた。

 「人間界で正解だよ。おめぇは『召喚』されたんだよ。全く…めんどくせぇことになった…。」

 俺がため息混じりに言うと、

 「ん?ヴィリーじゃないか。人間界ってなら、お前こそ何でここに居るんだよ?それに、俺は『召喚』に応えた覚えはないぞ?」 

 白髪の男は頭を掻きながら聞いた。

 「俺は野暮用でここにいるんだよ。おめぇは『召喚に応えた』からここにいるんだろうがよ。」

 俺が言うと、

 「はぁ?だから応えたつもりは…あーっ!」

 男は左手のひらの上に右拳を「ポン」と打った。

 「会議の前に親父とゼウスのジジィが昔話始めちまって、その話が長くて長くて居眠りして…んで、誰かの『目覚めよ!』って声が聞こえて、俺はてっきり『吸血鬼』が呼んでんのかと思って「分かった」って答えたわ。」

 男は今の状況に陥る前の事を思い出しながら言う。

 男の言葉に俺はまたため息混じりに

 「しっかり『応えて』んじゃねぇか。おめぇ、良くそんなんで『魔王』が務まるな…。『魔界』の行く末が心配だよ。とりあえず、その『角』を仕舞えよ。人間に見つかったらめんどくせぇ。」

 と、角を指差した。

 「あん?ああ、そうか。」

 魔王は自分の角を擦りながらそう言った。

 こいつは『魔王』。

 正真正銘の『魔王』で『魔界』を統べる『王』だ。

 そ~言えば、『天界』を統べている『ゼウス』のジジィと、コイツの親父である『先代魔王』とコイツで「会議の予定がある」ってジジィが言ってたな…。

 それはさて置き…ものすごいめんどくせぇ予感が…。

 「おめぇ、会議中だったんだよな?その最中に『召喚に応えて』こっちに来たって事は…。『天界あっち』からおめぇが消えたんだよなぁ?」

 「何を当たり前な事を…。」

 魔王も「ハッ!」として言葉が詰まる。

 そうだ…だとしたら…。

 「ご明察。迎えに来るとしたら僕しかいないよねぇ。全く、ゼウスに話は聞いたけどさぁ?君たち何面倒くさい事しでかしてくれたんだよ。」

 と、後ろから声がしたから振り向くと猿顔のチョンマゲ姿のチビがものすごい剣幕で近付いて来た。

 「羽柴…秀吉…?」

 …じゃねぇな、『中身』は。

 俺は後退る。

 「あー、お前…来るの早くね?もうちょっとゆっくりしてても良かったんだぞ…?」

 魔王も後退る。

 「はぁ?面倒くさい事を後回しにしたらもっと面倒くさい事になるでしょ?まぁ今のこの状況、十分面倒くさいけど。」

 羽柴秀吉の『中身』が、「スゥー」っと体から出てくると、羽柴秀吉の体はその場に倒れた。

 想像していた通り、金髪で尖った耳、口からは尖った牙を覗かせた細身の男だった。

 そして、その男は俺の顔に顔を近付けて

 「君…分かってるよねぇ?責任…取ってくれるよねぇ?」

 と、目を光らせた。

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