今日も私は『好き』を伝える

咲鞠

 前 編

「おいで」


 いつも抱きしめてくれるあなたが好き。


「良い子にしてたか?」


 いつも頭を撫でてくれるあなたが好き。


「コラ! やめなさい」


 悪さをすると怒られるけど、何をしてても私を優先して構ってくれるからやめられない。

 何度も『ごめんね』と返したら、すぐ甘やかしてくれるところも好きだよ。


「可愛いだろ」


 色んな人に紹介してくれるけど、本当は彼女だって紹介してほしい。

 それとあなた以外からの『可愛い』なんて興味がない。

 あなたが喜ぶから、私は興味がない人相手でも可愛く振る舞っているだけ。

『可愛い』ばっかりじゃなくて、たまには『好き』って言ってほしい。

 私は毎日『好き』って言ってるのに、一度も『好き』って返してくれた事ないよね。

 わがままな事は分かってる。

 でもそうしてくれないせいで、私はときどき不安な気持ちになっちゃうから、構ってほしくてまた悪さをするの。


「可愛いですね」


 他の子を褒めるのはやめてほしい。

 せめて私が居ないところでしてほしい。

 あんまり酷いとまた家出しちゃうよ?

 だからもっと私の事を見てほしい。

 他の子なんて見ないでほしい。


「家に来るか?」


 独りで寂しかった時に寄り添ってくれたあなたが好き。


「美味しいか?」


 お腹を空かせて死にそうな時に食べ物をくれたあなたが好き。


「おやすみ」


 夜寝る時にいつも優しく声をかけてくれるよね。

 その声を聞くだけで私は安心する。

 あなたの匂いを嗅ぐととても安心する。

 寝ているあなたの側に居る時間が世界で一番幸せで安心する時間なんだよ。


「行ってらっしゃい」


 ちょっとお出かけしてくるから、お土産期待していてね。


「どこ行ってたんだ?」


 ちょっと帰りが遅かっただけでそんなに心配しなくても、私はあなたの側を離れないよ。

 私の居場所も居たいと思う場所もここだけだから。


「綺麗な花だな」


 あなたにはちょっと似合わないかもしれないけど、どうしても見せたくて取ってきたの。


「枯れちゃったな」


 私の想いと違って、花はすぐに枯れちゃうから、また今度取ってくるね。

 あなたは鈍感だから、どんなにプレゼントを贈っても、どんなに『好き』を伝えても、私の想いには絶対に気づかないよね。


「行ってきます」


 帰ってくるの遅くなったら拗ねて悪さしちゃうからね。

 お土産なんて買ってる暇があったら真っすぐ家に帰ってきてね。


「遅くなってごめん」


 どこ行ってたの?

 とても心配したんだから今日は許してもらえると思わないでね。


「どっちがいい?」


 なにこれ新商品?

 こんなもので私の機嫌が良くなると思ったら大間違いだからね。

 でも会えない時間も私の事を考えてくれたのは嬉しいから、今日は仕方なく許してあげる。


「もう無くなった」


 新しいのはいらないから無理しないでね。

 どんなプレゼントよりもあなたが側に居てくれる事が嬉しいんだよ。

 お金を稼ぐ事が出来ないし、お金がかかるだけの存在の私にいつも良くしてくれてありがとね。


 名前の無かった私に名前をくれたあなたが好き。

 誕生日が分からなかった私に代わりの記念日をくれたあなたが好き。

 きっと今あなたは心細いだろうから、私が側に居てあげる。


「お腹空いたのか? 今ご飯用意するから」


 違うよ。あなたの事が心配なだけだよ。

 でも体調が悪いのに私に気を遣ってくれてありがとう。


「分かったから、待てって」


 全然分かってないよ。『好き』って言ったんだよ。

 本当は『好き』を返してほしいけど、あなたに伝わっていない事は分かってる。

 私はあなたの言葉が分かるけど、あなたには私の言葉が分からないからね。

 そうじゃなかったら恥ずかしくて私はこんな事言えてないよ。

 今日は悪さをしないから、しっかり休んで早く体調治してよ。

 体調が良くなるまでお出かけしないで看病してあげるから。


「しっぽが立ってるぞ。そんなに美味しかったか?」


 ねぇ、そうじゃないよ。

 この想いは私だけの秘密。

 だけど本当は気づいてほしい。

 よくばりで、わがままで、いつもごめんね。

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