序章

第一伝 VS 後手必勝一撃必殺スケバン





世の中には二種類の人間が存在する。


スケバンである者達と、そうでない者達だ。





数多いる最強のスケバンにならんとする者達。


その中でも、県内最強──県の特有の能力を所持しているご当地スケバンが各県をシマにしてから、膠着状態が長く続いている。



今日、その均衡状態が一人の少女によって崩される。



名は蓮水はすみず瑠衣るい


艶のある黒い髪を腰まで伸ばしており、着用している黒のセーラー服が彼女の透き通るような白い肌を強調させる。


黒のロングスカートを靡かせながら立つのは剣道場の前。


「まずは、木刀の調達からだな」


瑠衣はそう呟くと、剣道場への引き戸をガラリと開けた。


「こんちゃー、木刀一本貰いに来ましたー」


ローファーを脱ぎ捨て飄々とした態度でヅカヅカと上がり込む。


入ってみると、道場の中央に袴姿の女子が一人正座で黙想していた。


てっきり剣道部員が何人もいるかと思っていた瑠衣は拍子抜けしてしまう。


「ウチの高校の剣道部って部員一人だったっけ?」


まあいいか、と頭を掻きながら目的の物を手に入れるため、とりあえず黙想中の女子に声をかけた。


「あのー、もしかして剣道部員? 私木刀が一本欲しいんだけど、貰ったりできる?」


瑠衣のお願いに応えるためか、黙想が終わったのか、その剣道部員は静かに目を開けた。


凛とした顔付きの彼女はゆっくりと瑠衣へと顔を向けると、訝しげに見つけた。


「…さっきから何を言ってるのか分からないけど、それは剣道部の物でしょう、あげる訳にはいかないわ、それより姿見の前からどきなさい。練習の邪魔よ」


悲しい事に、お願いは一蹴されてしまった。


それも当然、部員でも何でもない赤の他人から『備品持っていきますね』などと言われたら断るに決まっている。


「ええー!! いいじゃんケチケチしないでさぁ、使わないの一本でいいから、な?」


このとーり、と瑠衣は拝むポーズで頭を下げた。


そのいい加減な格好をみた彼女は手を頭にあてながら溜息をついた。


「はぁ...あなた、それが人に物を頼む態度なの? というか、木刀なんか使って何するのよ」


「何って、ほら、スケバンと言えば木刀! みたいなのあるじゃん」


「スケバン…?」


瑠衣のスケバンという言葉に彼女が反応する。


「あなた、もしかしてスケバンなの?」


「いやまだ違うけど『今日から私は!』ってやつだよ、だからとりあえず格好だけでもって木刀を頂戴にしきたんだ」


瑠衣が説明すると、彼女は少し考えてから立ち上がり、振り返ってどこかへ行こうとした、


「え、ちょっとどこ行くんだよ?」


「そこで待ってなさい」


そう言い残し、倉庫らしき扉を開け、中に入っていった。


「もしかして、木刀くれる気になったのかな、頼んでみるもんだなぁ」


少し暇になった瑠衣は後ろにあった巨大な姿見の前で決めポーズの練習をする事にした。


「やっぱり私と言ったらコレ! みたいな決めポーズがあった方がいいよな、こう? それともこう?」


体をくねらせながらポーズをとっていると後ろから声を掛けられる。


「…何をやっているの?」


「うひゃあ!! い、いきなり声掛けてくるなよ!」


変な声が出て若干恥ずかしかったのか、瑠衣の顔が赤い。


「はぁ、まあ何でもいいけど、それよりも、これ欲しいんでしょ?」


ほら、と差し出された手には木刀が握られていた。


「くれるのか! いやーありがとう! そうだ、まだ名前聞いてなかったな、何だっけ?」


白鳥しろとり二香ふつかよ」


「そうか、私の名前は蓮水瑠衣、よろしくな」


そう言って木刀を受け取ろうとするが、なぜか二香は木刀を離そうとしない。


「ん?」


不思議に思い瑠衣が二香の顔を見ると、目が合った。


「あなた……スケバン同士が、互いに名乗りあったらどうするか知ってる?」


瑠衣の目を真っすぐに見つめる二香、対する瑠衣は少し呆気に取られるが、ニヤリと笑った。


「二香もスケバンだったのか、どうするか、だって? 勿論知ってるぜ!」


瑠衣は木刀を強引に奪い取り、切っ先を二香に向ける。


二香は、後ろに跳んで瑠衣との距離を取った。その手にはもう一本木刀が握られている。


「実は私、元々居合をやってたのよ、だから竹刀よりも木刀の方がよく手に馴染むのよね」


そう言いながら鞘に収める様に木刀を左の腰に差し、腰を少し下げ構えた。


「あなたが誰だか良くは知らないけど…手加減はしないわよ」


瑠衣は本物のスケバンの姿を目の当たりにし動きが止まるが、慌てて頭を振り、木刀を上段に構えた。


「ああ、本気でこい!」




今、スケバン同士の闘いの火蓋が切られた!!



後手必勝一撃必殺スケバン、白鳥二香


VS


見習いスケバン 蓮水瑠衣



いざ尋常に、スケバン勝負!!






「いつでも来なさい」


抜刀の構えを取る二香にジリジリと瑠衣が近付く。しかし、二香は動かない。


(隙がない…と言うより、どこから打っても打ち返される気がする…でも)


「私が勝つ!」


瑠衣は木刀を振り上げ、二香に向かって一気に振り下ろした。打ち返されるのならば、より速く、より強く打てば強行突破できる。


しかし、二香は動かない。


あまりの速さに対抗できなかったのか?

いや、そうではない、スケバンとはそんなものではない。


ビュン! と風を斬る音が聞こえたかと思うと、瑠衣の手から木刀が弾き飛ばされていた。


「なッ!」


瑠衣は確かに大振りの攻撃をしたが、二香の動きを瞬き1つせず正確に捉えていた。


それなのに、直撃したと思った瞬間、既に二香の木刀によって瑠衣の木刀が弾かれていた。


衝撃で手がジンジンと痛む。が、感じる間すら与えないという様に二香が迫る。


「終わりね」


再び抜刀の構えに戻っていた二香が瑠衣の首元へと一閃。


「ッ───!!」


間一髪、膝を折り、半ば仰け反る形で身体を下げ回避する。


そのまま後ろに倒れ込むかと思いきや、両手でバク転の様に地面に手を着け、後方に跳ね上がり、距離を取りつつ体勢を整える。


その際、貪欲にも二香の顎を狙って蹴り上げようとするが、二香がバックステップをする事で避けられてしまった。


「ふぅん、あなた中々やるわね」


「二香…流石、スケバンと言うだけあって強いな!」


互いに力を認め合うスケバン同士。勝負はおそらく二香に有利だが、瑠衣はどうするのか。


「でもあなたじゃ私には勝てないわ、別にあなたが弱い訳じゃないわよ。私が強いだけ。一度だって私の能力に勝てたスケバンは居ないもの」


二香の言葉は、恐らく本心から出たものだろう。その言葉からは圧倒的な自信しか感じられなかった。しかし、


「カウンター」


瑠衣が一言呟く。その一言に二香は多少の動揺を見せる。


「カウンター、それが二香の能力だな」


二香に向かってビシッと指を突きつける。


「……どうしてそう思うわけ?」


「まず私が初めに攻撃を仕掛けた時、木刀が弾かれたけど、どう考えても速すぎる。まあこれだけなら、私の目に映らない程速く切ったと思えばまだ納得出来た」


でも、と続ける瑠衣。


「次の二香の居合切りは見えた、なんで同じ速度で切らなかったのか……そこで二香の能力は、相手の攻撃に反応するカウンター系の能力だと思ったんだ」


黙って瑠衣の説明を聞いていた二香は思わず苦笑してしまう。


「初撃で木刀しか弾けなかったのがダメだったのかしら、そうよ私の能力はカウンター、でもそれが分かった所で瑠衣、やっぱりあなたは私には勝てないわ」


「勝つ必要なんてない」


「は?」


瑠衣の言葉が意外だったのか、素で聞き返してしまう二香。


「だって多分二香がカウンターを使えるのは抜刀の構えでもとってる時だけでしょ? それさえ注意すれば私は負けない」


それに、と続けながら後方に弾かれていた木刀を手に持つ。


「カウンターなんて消極的な事しかできないスケバンを倒した所でね? 木刀も手に入れた事だし私は帰るよ」


スタスタと出口に向かい出す瑠衣に呆気に取られた二香。だが、一瞬でその顔は怒気に包まれた。


(そう…あなたを一瞬でも認めかけた私が馬鹿だったわ)


無防備にも瑠衣は二香に対し背を向けている状態だった。


今が好機。


(私がカウンターしかできないスケバンだと勘違いしたあなたの負けよ!!)


二香が音もなく、瑠衣に向かって走り出す。気配すら消えたその移動は最早神業と言ってもいいだろう。走りながら抜刀の構えをとる。


(見えていなければどんな攻撃も避けることは不可能!! 迂闊に背を見せたことを後悔させてあげるわ───!!)


空気を斬る音すら斬り、木刀が瑠衣の首へと吸い込まれるように────


「見えてるよ」


瞬間、二香の視界から瑠衣の体が消えた。


「え」


続いて顎へと強烈な一撃。斬りかかった二香の体が空へと浮かび、床へと叩きつけられる。


顎への一撃で脳が揺れた二香は立ち上がる事すらできなかった。


揺れた頭の中で、一体何が起きたのかと考えが駆け巡る。


「いや〜二香が見え見えの挑発に乗っかってくれて良かったよ」


気が付くと倒れ込んだ二香を瑠衣が覗き込んでいた。


「ち…ちょう…はつ…?」


「流石の私も二香のカウンターには勝てなさそうだったからな、二香から攻撃してもらうことにしたんだ」


二香のカウンター能力は、瑠衣の指摘通り、抜刀の構えをとっている時のみ発動する能力である、


瑠衣はあえて無防備な姿を晒す事によって相手の攻撃を誘い、逆にカウンターを狙ったのだ。


「…、だ、だからと言って…私の攻撃はどうやって避けたのよ…」


「普通に床に両手つけて屈んで避けただけだよ、そのまま倒立するみたいに二香の顎を踵で蹴り上げたんだ」


「いや...私が言いたいのは」


どうして私が攻撃してくるのが分かったのかと、音すら出さなかったのに。


「ああ、それなら」


瑠衣が前方を指す、が二香は頭を上げることができなかった。


「姿見、だよ」


代わりに口で説明する。


「あんなでかい姿見が有れば、どのタイミングで攻撃してくるなんて丸分かりだったよ」


そう、瑠衣はあえて背中を見せることで二香の攻撃を誘い、さらには正面の姿見で二香の攻撃のタイミングを窺っていたのだった。


思わず白鳥二香は笑ってしまう。


「私の負け……か、ああ私の負けね」


負けたと言うのに、二香は何か腫れ物が落ちたような顔をしていた。


「そうだ、私の勝ちだぜ!」


瑠衣が勝利宣言を行う。


「瑠衣、私の完敗よ、木刀は持ってっていいわ、それとひとつ聞きたい事があるんだけど…」


倒れたまま、隣に座っている瑠衣に問いかける。


「ん、何?」


「私の能力は強いと思った?」


ポカーンといった顔をする瑠衣だが、何が面白いのか急に笑い始めた。


「アッハハ! 思った思った、勝てねーって思ったもん、悪い事言って悪かったな!!」


瑠衣が大笑いするのを見て、二香も釣られて笑い始める始末だった。


「ふふふっ、ありがとう瑠衣」




スケバン勝負これにて決着ッ!!


勝者、蓮水瑠衣!!




◇◇◇




スケバン図鑑①


なまえ:白鳥二香


属性:後手必勝一撃必殺スケバン


能力:抜刀の構えを取っている間、あらゆる攻撃にカウンターを当てる事が出来る


備考:実家が太い

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