第5話 初めてのパーティーメンバー

 この世界に入って二人目に出会ったプレイヤーのミウとパーティーを組んだ。最初に出会ったジャスティスは最悪だったが、二番目のミウは可愛いうえに優秀なヒーラーだ。


 この世界が何なのか、転生なのか転移なのか、元の体がどうなっているのか。色々と疑問は多いが、今はこの世界で生きることを最優先しよう。


「とりあえず、探索サーチ!」


 先ず周囲を警戒しなくては。


(よし、近くにジャスティスとかいうふざけたヤツはいないようだな。あいつの探索範囲よりも遠い場所に転移したのか)


 また見つけられたらマズい。探索にかからないように対策せねば。たしか【隠密】とかいうスキルを持っていたはずだ。


 隠密スキルを設定した。

 どこまで効果があるのか分からないが、これで探索に引っ掛かる可能性は減らせただろう。


「あのあの、ジェイドさん。これからどうしましょう?」


 ミウが心配そうな顔をしている。いきなり襲ったりはしないと言ったはずなのに、まだ心配なのだろうか。


「とりあえず街に戻って準備を整えよう。ミウは何処から来たんだ?」


「えっと、あっち……いや、こっちだったような……?」


 ミウが、きょろきょろしながら街の方角を探す。


「何故、疑問形なんだ?」

「あ、あのっ……私、方向音痴なんです」

「………………」

「そ、そんな目で見ないでくださいっ」


 俺が『やっぱりこいつポンコツじゃね?』みたいな目で見ていると、ミウが必死に『捨てないでください』みたいな顔をする。


「そんなんで、どうやってこの森まで来たんだ?」


 方向音痴なのに、こんな森の奥にいるのも怪しい。


「レベルを上げようとして……」

「さっき使った神聖魔法でレベル上げをしていたのか?」

「いえ、この戦棍メイスでバコーンっと」

「物理かよっ!」


 ますます分からなくなってくる。

 一体、この女は何者なんだ。


「先ず、街に行く前に服を着替えたい」


(この暗黒皇帝の初期装備である漆黒のローブは目立つからな。また最初の街の時みたいに、暗黒神の眷属けんぞくと間違われて避けられると困るし)


「何か着替えになる装備はなかったか?」

「あっ、私持ってます」


 そう言って、ミウがアイテムボックスから服を取り出す。アイテムボックスと言っても、実際に箱ではなくゲームのストレージのようなものだ。


「じゃじゃーん! イッヌスーツ」

「は?」


 目の前に柴犬の着ぐるみのような服を差し出される。ご丁寧に犬耳まで付いた代物だ。


「なにこれ?」


「だから、イッヌスーツです。モンスターを倒していたらドロップしたんです。可愛いですよね」


「ううっ……これ着ないとならんのか……」


 背に腹は代えられないので仕方なく着てみた。何かのゆるキャラみたいで恥ずかしい。


「きゃっ、似合いますねっ」

「複雑なんだが……」

「か、可愛いです」

「うっ……」


(女子に可愛いとか言われたらドキッとしてしまうだろ。まあ、俺じゃなく着ぐるみの方なんだろうけど)


「では、行きましょう」

「おい、そっちじゃないぞ」


 ミウが街とは反対側に歩いて行こうとする。


「えっと……すみません」

「心配過ぎる。そんなんで、この世界で生きていけるのだろうか?」

「だからパーティーを組んでもらったんですよぉ」


 探索サーチスキルで周辺マップを調べながら街の方へと向かって歩き出す。

 ミウは俺の後ろをピッタリと付いている。少し近いのでドキドキしてしまうが悟られてはいけない。男は余裕を見せておかないとモテないからな。ネット情報だが。


「しかし、始まりの街がプレーヤーによって違うのだな。俺のスタート地点は、ここよりだいぶ離れた場所のようだ。探索範囲外だからな」


「そうなんですか? 私はゲーム初心者なので知らなかったです」


 ミウが前に出ようとするのを手で制す。


「待って。モンスターがいる」

「えっ」


 前方から大きな熊のようなモンスターが現れた。


「ジャイアントクマーだと? この辺の低レベルのモンスターの中では強い方だな。俺が魔法で倒すとするか」


 魔法の体勢に入ろうとしたところで、突然ジャイアントクマーが突進してきた。


「ギャアアアアァァーッス!」

 ドスドスドスドス!


「なっ、意外と速いぞ!」

「きゃあっ!」


 そこで俺は、信じられないものを見てしまう。


「きゃあぁぁぁぁーっ! 来ないでください~っ!」

 バコォォォォーン!

「クマァァァァー!」


 ミウが戦棍メイスを野球選手のようにフルスイングすると、ジャイアントクマーは呆気あっけなく倒されてしまった。


「こ、怖かったです……」

「一撃かよっ!」


(この女……やっぱり怪しいぞ。もしかして、俺と同じURアバターを当てたプレーヤーなのでは? 確か七星神とか言ったよな。全部で七人いるはすなんだ。俺の暗黒皇帝の他に、神聖剣王と超越者は覚えているのだが。他のキャラが何だったか覚えていないぞ)


「どうかしましたか?」


 ミウが不思議そうな顔をして俺を見つめている。


「いや、何でもない。先を急ごう」


(ミウが七星神の一人だとしたら、むしろ仲間になれたのは幸運なのでは? なるべく強い仲間を増やしておいて損はないはずだ。少し様子を見てみるか。それにまた、ジャスティスみたいな変なヤツに絡まれるかもしれないしな)


 ◆ ◇ ◆




 その街は活気に溢れていて、俺が最初に立ち寄った所とは大違いだった。誰も俺を避けたりしていない。

 ただ、違う意味で注目を浴びているのだが――


「きゃっ、なにあの恰好?」

「ぷーくすくす。変態かも?」

「ママァー、あの人ってわんこ? うんこ?」

「見ちゃいけません!」


 道行く人が皆、俺に注目している。

 全身柴犬タイツで頭には犬耳まで装着しているのだ。前のように避けられるのも傷付くが、こっちはこっちで羞恥プレイ過ぎるだろう。


「は、恥ずかしい……先に服屋に寄ろう」

「はい……なんかすみません……」


 俺たちは近くにあった服屋に入る。


「いらっしゃい。おっ、可愛い彼女連れて、にいちゃんん羨ましいねえ。恰好は変なのに」


 店のオヤジは、開口一番にミウの可愛さと俺のイッヌスーツにツッコミを入れる。


「い、いや、彼女では……」

「かかか、彼女だなんて……」


 かぁぁぁぁ――


 俺が答える前に、ミウが顔を赤くしながらモジモジする。


(そ、そういう誤解を生みそうな思わせぶりな態度はやめてくれ。そういうので誤解した男が、『あれ? こいつ俺のこと好きなんじゃね?』とか思って告白し、見事玉砕ぎょくさいするというパターンは聞いた事があるぞ。ネット情報だが)


 二人で服を選んでいると、彼女発言で何故かテンションの上がったミウがやけに近い。


「これなんかどうですか? 似合いそうですよ」

「そうかな?」

「あっ、こっちも良いかも」


 おい、何で急に彼女気取りになってるんだ?


「ふふっ、こうしていると、何だかデートみたいですよね?」

「えっ?」


 唐突なデート発言に俺が驚いていると、急にミウは沈んだ顔になった。


「あっ、いえ……すみません」

「えっと……別に良いけど」


(だから、何で誤解しそうなことばかり言うんだ。この娘、わざとなのか? そんなんされたら好きになっちゃうだろ……)


 俺は突然できた美少女のパーティーメンバーに、表面上余裕を見せる素振りで、内心はドッキドキになって買い物を続けた。


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