第2話 ようこそ剣と魔法の世界へ

 目を開けるとそこには、果てしない草原と森林が続く大地と、中世ヨーロッパ風の建物が並ぶ小さな街が見えた。

 剣と魔法の世界リンデンヘイムだ。


 たぶん、この石畳の向こうに見えるのが、ゲームのスタート地点『始まりの街』だろう。


「凄い…………風の音、陽の光、土と草の匂い……まるで現実世界のようだ。最近のゲームは、ここまで再現されているのか」


 自分の姿を確認しようと近くの川を覗く。

 そこには、元の世界と同じように、黒髪で黒い瞳、少し童顔でお人好しそうな自分の顔が映っていた。


「あれ? 俺のままだ……最強のアバターでカッコいいキャラになれたんじゃないのか……」


 自分と違うキャラに憧れていたが仕方がない。後で課金アイテムで容姿変更できるのかもしれないからな。


 自分の両腕を見た。

 銀河のようなきらめく装飾の付いた漆黒しっこくの衣装をまとい、小さな五つの宝石が付いたワンドを持っている。


「これが神器級アイテムの五大原初魔宝玉アルティマオーブ・イビルなのか? 意外と小さいな。もしかして、五大元素をつかさどる原初の大魔法が使えるとか?」


 とりあえず、オヤクソクのセリフを言ってみる。


「ステータスオープン!」


 ピッ――

 ステータス画面を開き、装備メニューから五大原初魔宝玉アルティマオーブ・イビルを選ぶ。


 ――――――――――――

五大原初魔宝玉アルティマオーブ・イビル

 暗黒皇帝専用武器

 五大原初魔力の根源を司る究極神器アルティメットウエポン。自身の魔力と攻撃力を増大。下位魔法の無詠唱攻撃可能。


 宝玉

 金剛石アダマス:原初の地

 蒼玉石サピルス:原初の水

 紅玉石ルベウス:原初の炎

 翠玉石ベリウス:原初の風

 黒縞石オニキス:原初の暗黒

 ――――――――――――


「うおおおおっ! 超かっけぇ! テンション上がるわ! これは当たりだろ」


 いや、落ち着け俺!

 とりあえず、レベル上げをしないとな。

 せっかく超貴重なウルトラレアURアバターを手に入れたんだから。


「先ずは、街に入って情報収集だな。何かのクエストがあるかもしれないし」


 そうして、ワクワクした気持ちで街へと入ったのだが、俺の思っていた予想とは違い、クエストもなければギルド登録所もなかった。


「きゃっ!」


 バタン!

 ササっ!


 俺が店に近付くと、誰もが逃げたり店を閉じてしまう。NPCなのかプレーヤーなのか知らないが感じが悪い。


「おい、何だよこれ? 買い物もできないしナビゲーションも出ないぞ」


(初期装備も揃ってるし初期ステータスも高いのだから、先にレベル上げをしようかな……)


 俺は街での情報収集を諦めて、森に入ってレベル上げをすることにした。


 ◆ ◇ ◆




火球ファイアーボール!」


 ワンドの先から火球が飛びモンスターへと命中する。


 ドォォン! ブォォォォーッ!


 思っていたより激しく火柱が上がり、オオカミのようなモンスターは燃え尽きてしまう。

 森の中にはモンスターが多く、URアバターの効果もあってか、倒す度にぐんぐんレベルが上がる。


 ――――――――――――

 レベル10になりました。


 スキル

 【爆炎地獄ヘルファイア】【飛行フライ】入手!


 アイテム

 【オオカミの皮】【ベアウルフの糞】入手!

 ――――――――――――


「おおっ、強そうな魔法が! レベル10で飛行フライが使えるのかよ。さすが暗黒皇帝!」


 俺は、その場にオオカミの皮と糞を捨て、もっと強そうなモンスターがいる場所へと移動することにした。


飛行フライ!」

 ギュワァァァァーン!


 生まれて初めて空を飛んだ。


「うわっ、気持わるっ!」


 まるで無重力状態のように体が浮き上がるのが慣れない。ちょっと酔いそうだ。


「まあ、すぐ慣れるだろ。少し森の奥にいってみよう。レベルの高いモンスターがいそうだしな」


 ギュゥゥゥゥーン!


 少し奥に行くと渓谷のような場所に出た。いかにも何かいそうな雰囲気がする。

 少し高度を下げてみると、谷沿いの洞穴から多くの緑色したモンスターが溢れているのが見えた。


「ん? あれは……ゴブリンかっ!」


「キシャアーッ!」

「ギェェーッ!」


 空に浮いている俺を見つけたゴブリンどもが、怒りの表情で弓を構えたり槍を投げようとしている。


「丁度いいレベル稼ぎになりそうだ」


 五大原初魔宝玉アルティマオーブ・イビルをかざした俺は、爆炎地獄ヘルファイアの体勢に入る。


「よっしゃぁぁぁぁあ! 爆炎地獄ヘルファイア!」


 ズドォォォォォォォォーン!

 「「グギャアァァァァー!」」


 爆炎をくらったゴブリンどもは次々と倒されてゆく。数十匹はまとめて燃え尽きてしまった。

 哀れなゴブリンの集団と引き換えに、大量の経験値とゴールドが入ったようだ。


「どれどれ、ステータスは?」


 ――――――――――――

 名 前:ジェイド

 職 業ジョブ:暗黒皇帝リゲル

 レベル:21

 魔術レベル:1


 ステータス

 体 力HP:620

 魔 力MP:400

 筋 力:380

 攻撃力:210

 魔攻力:350

 防御力:120

 素早さ: 80

 知 性:510

 魅 力:160


 スキル

 【暗黒神】

 【火球】【爆炎地獄】【雷撃】【雷槍】【氷槍】【砂嵐】【風刃】

 【抵抗】【反射】【隠密】

 【鑑定】【探索】【飛行】【転移】

 ――――――――――――


「うおおっ! 強くなってる」


 自分のステータスが上がったのを喜びながらも、俺は言いようのない違和感に気付く。


「そういえば……何で他のプレーヤーに会わないんだ? サービス開始日なんだから、もっと人が多くて良いはずなんだけど……」


 おかしい……。俺が始めたのは夕方だったはず。通常なら人が多くて狩場かりばに困るはずだ。


「探索スキルも手に入ったし、ちょっと周囲を調べてみるか……よし、探索サーチ!」


 自分を中心として円形に探索魔法有効範囲が広がる。周囲のモンスターやプレイヤーやNPCが分かるはずだ。


「モンスターばかりだな……んっ! なんか凄いスピードで近付いて来るヤツがいるのだが」


 ギュワァァァァーン!


 信じられないようなスピードで接近する者は、同じプレイヤーのようだ。地形を考慮しないスピードからして、俺のように飛行フライのスキルを使っているのだろう。


「やっとプレイヤーに会えた。これで色々情報を聞けそうだな」


 もう視認できるほと近くにきた男は、見るからに高価そうな装飾付き純白のプレートアーマーを装備している。サービス開始日なのに、何処でこんな装備を手に入れたのだろうか?


「ふぁーっはっはっはっ! 正義の勇者ジャスティス推参すいさん!」


 その男は、勝ち誇ったような顔をして、見下すような目で俺を見た。


(うげぇ……変なヤツだな……初めて会ったプレイヤーがコレかよ)


「おい、ちょっと聞きたいのだけど……って、うわぁっ!」


 ズザァッ!


 俺が話しかけようとすると、その男がいきなり剣を振り回した。


「おっと、おしい」

「おしいじゃねーよ! 危ないだろ!」


 変なヤツだと思ったけど、マジにヤバい男かもしれない。荒らし行為でもやってるのだろうか。


「分かってないのはオマエの方だ。悪の権化ごんげである暗黒皇帝には死んでもらう!」


目の前の男が高らかに宣言する。


 いきなり現れた変なヤツに絡まれる俺。もう、訳が分からない。とにかく、この変な男を何とかせねば。


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