第2話 オモテと裏の顔 その2


 昨日は、あの後に仮想通貨で思わぬ儲けが出て懐が温まった。やっぱり株より良いかもしれないと思いながら少し早めに登校する。あの陽キャ連中が居ぬ間に朝は勉強できるからだ。


「あっ、葦原おはよ~!!」


「っ……おはよう」


 後ろから声をかけて来たのは天原さんだった。本来なら俺と関わり合いになる事も無い人間だが須佐井が進級してから俺に何度も絡んで来るから幼馴染の彼女とも必然的に関わるのが増えた……正直めんどうだ。


「昨日、てかクラス一緒になってからずっとだけどゴメン、尊男がウザ絡みして」


「別に……」


 本人は幼馴染だからと周囲に言ってはいるが須佐井に好意が有るのはバレバレだ。きっと俺なんかと違って陽の当たる場所で青春を送っているから、これもその一環だろう。


「とにかくイジメとかアイツそういう気は無いの、ほんとに」


「分かってる……じゃあ」


「あっ、うん、じゃあ後で――――」


 何か言っていた気がするが興味は無い。さっさと卒業して俺は一刻も早くこんな生活からも卒業したいんだ。それに別の問題もある。


「はぁ、はぁ、近いんだよ……」


 自分のこの症状トラウマを早く克服しないといけない。こんな近くで女と話すのなんて学校じゃ数年振りで焦った。理性が保って安心すると今度こそ図書室に行って俺は朝のHRギリギリまで勉強することが出来た。




 五時間目は体育だから昼休みに女子は着替えのため更衣室に早めに行く。一方で男子は教室で着替えるから普通に昼食だ。そして俺にとって地獄の時間だった。


「俺、そろそろアヤに告ろうって思うんだよ」


「って尊男まだ告ってねえのかよ」


「あ、ああ……てか告るとかダリーし、そんなの無くても俺ら分かり合ってるしよ」


 これが始まるからだ。しかも三人は割と小さい声で話すから席の近い俺だけが聞こえていたりする。主に須佐井が俺に絡んで来る原因がこれだ。


「そういやアッシー今朝、アヤと話してたらしいけど何か聞いてね?」


「はぁっ!? 何でお前がアヤとっ!!」


 こんな感じでストッパーの女子が居ないと俺への当たりも強いし天原さんが言っていたウザ絡みとは正にこの事だ。昨日のはこれに比べたらマシな部類だと思う。


「おいおいアッシー、マジか? 早めに白状した方がいいぜ~」


「挨拶された……それだけ」


「ほ、ほんとか、まあアヤは優しいからな、てか無駄にお前に話しかけるよな?」


 それはお前が俺に迷惑かけてるからだ。それに気付いていないのは度し難いが下手に話して余計にからまれるのは面倒だからトイレに逃げる。そのままスマホで株のチェックをしている内に昼休みは終わっていた。




「ふぅ、あんな事が有ったから今日は行かなきゃな症状が収まらない」


 家に着いて発した第一声がこれだった。あんな事とは今朝の天原さんとの接触だ。正直、今日一日は集中力も乱れ授業にも集中できなかった。そんな事を考えながらスマホを見ていると不意に通知が入る。


「ジローさんから通知?」


【今日、来れるか?】――――たった今


 俺はすぐに了承の返事を出すと準備を始める。連絡をくれたジローさんは俺の恩人で今住んでる十湖予とこよ市から四駅離れている根野市で色々な事業をしている人だ。


「よし、着く頃には店も開いてるはずだ」


 今から家を出れば二十一時には着くはずだ。外に出ると小雨が降っていてコンビニでビニール傘を買うはめになった。そのまま電車に揺られて気付くと目的の駅に到着した。


「ここは相変わらずか……」


 ホームに到着するとトイレに駆け込んで俺は伊達メガネを外し目元を隠すように伸ばした前髪も手でかき上げワックスで固め夜の顔になる。数日前は面倒でしなかったからバレたので今日はキチンと変装した。


「行くか」


 鏡の中の自分を見て呟くと俺は学校の時とは違い背筋をピンと伸ばした。そして根野市の飲み屋街さらに奥の風俗街エリアに何の億劫も無く入ると即座に客引きに声をかけられる。


「お兄さん、いい店……ってセイメーかよ」


 客引きは顔見知りだった。前にハズレの店を引かされた客引き三年目のマサ。歳は知らないけど俺より年上なのは確実だ。そもそも俺のような未成年の方が珍しい街だ。ここは大人の遊び場なのだから。


「マサか、今日ってレナさんいる?」


「今日は見てねえ、何だレナさん目当てか?」


 レナさんは俺が結構な頻度でお世話になっている年上のお姉様で、この街でも一、二位を争うトップの嬢だ。


「いや、別に橘姉さんかクー姉さんでもいいんだけど」


「かぁーっ!! 贅沢だなガキの癖に金持ちはよ、クー姉さんなら店の近くの飯屋で食ってるのをさっき見たぜ」


「サンキュ、じゃあ頑張れよ、はい情報代」


 俺は千円札を二枚ポケットから素早く取り出しマサの手に握らせると手を振って目的地をクー姉さんの店に変更した。


「アザーっす、またよろしくな……クソガキが」


 ちなみに財布はこの街に持ち込むのは厳禁。それこそ小銭入れくらいでデカい金はマネークリップでまとめておくのが安全だ。俺はそのままネオンの眩しい街中を歩いて一軒の店の前に立った。




「じゃあ……クー姉さん、ありがとうございました」


「いいのよ~、セーメイ君は上お得意様だし、お小遣いもくれるしね~」


 一通り行為が終わると店の前までお見送りしてくれたのは源氏名『クーちゃん』こと本名菊理くくりさんだ。何回か通う内に下の名前は教えてくれたが苗字は今度と言われ既に二年が経過している。

 ちなみに先ほどから呼ばれているセーメイとは俺の名前を音読みしただけで夜の街での呼称はこっちが基本になっていた。


「お世話になってますから、ほんと」


「うんうん、三年で見違えたね、この後はジローさんのとこ?」


「はい、それでは」


「うん、じゃあ、また寂しくなったらいつでも来てね、お姉さんが癒してあげる」


 それに返事をすると俺はジローさんが世話をしている飲食店『JKパラダイス』に向かう。名前からも分かる通り裏の違法風俗店だ。しかし俺には慣れた場所で何の躊躇もせず店内に入った。

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