これは、貴方への手紙です。

瑞稀つむぎ

プロローグ

 貴方。


 そう言えば、分かるかな。

そう言えば、届くかな。


 ちょっと、ううん絶対に無理だね。

 本当の事を言えば本名を出したいけど。

 それが、本心だけど。


 きっと、貴方の幸せの邪魔になるから。

 それは、私の願いじゃないから。


 貴方の事は、貴方って言うね。

 別に、貴方って気づかなくてもいい。

 そもそも、この手紙は誰にも見せない。


 それは、私の決意と違うから。

 でも、心の何処かで貴方に気づいてほしいと思ってしまっている自分がいる。


ほんとの気持ちは多分、後のほう。

そんなのは駄目、そうはわかっているけど。


私は、自分の気持ちを押さえられるのか。

ううん。押さえなきゃいけない。

大丈夫、私ならできる。


やっぱり、無理かも。


 貴方との思い出が蘇るにしたがって、少しずつ、その想いが強くなっていく。


 どうしよう。


 頭では、駄目って警鐘がなってるのに。

 どんどん強くなっていく。


 手紙、書くのやめようかな。


 ちらりと、机の上のレターセットを見る。

 無地の灰色がかった青のレターセット。

 ただただ、青なだけのレターセット。

 大学受験を控えた私が、こんな真夜中にわざわざこれを用意した理由。


 それは。


 貴方との思い出を、消し去るため。

 わかってる。

 その為に、私はこれを書く。


 これは、貴方への手紙です。

 でも、貴方が読むことはないかもしれない。

 それでも、いい。

 それでも、私は筆を執る。

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