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────紳士な振る舞いは、雄の理性を最優先に、

一瞬にして崩れ去るものだ。







「善じゃねーか!」


「あ…國将さん!」


珍しく週末にバイトが休みだった國将は、高校からの仲間と共にバイクでツーリングに出かけていた。


その帰り道、偶然にも善と出会う。






「買い物帰りか?」


スーパーの袋を手にした善に問えば、うんと無邪気な返事をされ。次に國将は、顎で後部座席を示してくる。


対する善はきょとんとして首を傾げたが。





「送ってやっから、乗んな?」


無自覚にも國将が、男前な笑みを湛えながらヘルメットを渡してくるから。善は真っ赤になりながらも、おずおずとその申し出を受け入れた。



「しっかり掴まってろよ。」


何処に掴まればいいのか判らず、おろおろしだす善に。苦笑して國将が少年の手を引く。そのまま自身の腰へと導いて。なんだか恥ずかしそうな善に、いいから掴まれと促せば遠慮がちにも抱き付く形を取った。


それに気を良くした國将はニヤリと笑い、軽快にバイクを発進させた。








「今日の飯は何にするんだ?」


結局、そのまま善の家に転がり込んだ國将。

勿論それは善にせがまれてのことなのだけど。


満更でもない國将は、遠慮する善から強引に奪ったスーパーの袋をテーブルに置きながら少年へと声を掛けた。見やれば慣れたようエプロンを身に付ける善に、つい顔がにやける。






「鶏もも肉が安かったから、照り焼きか唐揚げにしようと思って。」


後付け合わせのサラダに、きんぴらごぼう。

それから豆腐の味噌汁と献立を教えてくれる善。





「なんだ、俺の好物ばっかだなぁ。」


と然り気無く告げたら…


「あっ…そう、だったねっ…」


なんて答えて。善は顔を真っ赤にした。

もしかしなくても、俺が来ることを想定してたんじゃないかと妙な期待が膨らむ。





「すぐ用意するから、國将さんは座ってていーよ!」


バレバレな態度の善に台所を追いやられ、國将は仕方なくリビングのソファへと陣取る。


その間もずっとカウンターキッチンで料理する善の姿を眺めていたのだが…。視線を意識する善は耳の先まで赤くして。國将はまたもや良からぬ事を思い浮かべ、笑いを堪えるのだった。







「姉ちゃんは仕事か?」


いない方が自分的には好都合だったから、聞いたのだけど。姉の話題を國将が振ると、少しだけ顔を曇らせてしまった善。





「姉さんなら、確か遅くなるって…あ…」


言葉を濁しつつ答えていた善は、カウンターに置いた携帯電話が赤く点滅しているのに気が付いて。

濡れた手をエプロンで拭くと、カチカチと操作し始める。




「メール、姉さんからだ…今日は帰れなくなるかもって…」


姉からのメールを確認した善は、更に複雑な表情を浮かべるものの。その心情は計り知れない。






「そっか、なら良かった。」


「えっ…?」


何の気なしに國将が返すと、今度は面食らったよう目を瞬かせるけれど。





「なんでもねぇよ。それより腹減ったな~。」


「あ…うん、すぐ作るねっ!」


國将がうやむやにしたため、善は慌てて調理を再開した。

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