第14話 クッキーのお詫び

「あれ、真祐こんなところで何してるの?」

しばらくして声をかけてきた人物に驚いて振り返ると、そこには十和が立っていた。

サッカー部のユニホームを着て、体育用具室に来たということはサッカーボールを取りにきたのだろう。

「なんだ十和か。俺はその、だな…」

相手が幼なじみだと分かれば、ほっとしたような表情をするも質問にははっきり答えられず口籠る。

結愛を心配して来たが、出るに出れず隠れて眺めていたなど到底言えない。


「それ結愛がきららちゃんの為に作ったクッキーだよね、どうして神野くんが?」

そんな2人の様子に花凜が気づくと、手にしている袋を見ては目を丸くしながら声をあげた。

「あーこれは雅がいらないって捨てたし、もったいねぇから食べてただけだって!」

「真祐、人のもの勝手に食べちゃ駄目だよ。」

彼は慌てて言い逃れをしようとするも、十和に呆れたように注意されうなだれる。

もう弁解の余地はないと思ったのだろう。

「悪かったよ。」

真祐は2人に向かって謝罪をすると、十和も同じようにごめんねと謝った。

まるで保護者であるかのような対応だ。

「じゃあ1つだけお願いしてもいい?私もうすぐ部活だから、結愛を送ってほしいの。」

花凜は泣き止まない結愛を慰めつつ、相手に提案を投げかける。

部活動の時間が迫ってきており、この場を離れなければならないようだ。

「は!?俺でコイツをどうにかできるのか?」

「真祐頼んだよ。」

「ったく分かったよ、送ってきゃいいんだろ。」

彼女の提案に思わず驚いて声を発するも、すぐ十和の言葉に負けてしまう。

声色は穏やかだが、ニコニコした表情には圧があり断ることはできない。

幼なじみの彼でもこうなれば頷くしかないようだ。

真祐は小さくため息をつくと、渋々彼女の提案を承諾するのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る