そろばん塾と「侍ジャイアンツ」

橙 suzukake

第1話 最終回が観れない???

 あれは、ワタシが小学校5年生の冬の初めのことでした。

 毎週、楽しみにして観ていたプロ野球アニメ「侍ジャイアンツ」が、最終回を残すのみとなっていました。主人公のプロ野球巨人軍のエース番場蛮ばんばばん投手が、アメリカメジャーリーグチャンピオンのアスレテックスとの世界一決定戦でどんなピッチングを繰り広げるか…というところで最終回前が終わりました。

 

 だけど、残念ながら、その最終回を観ることができないことが確定的になっていました。というのも、先日、私が通っているそろばん塾での検定試験に受かったため、そろばん塾での学習時間が1クラス分、遅くなって、テレビの放映時間とバッチリ重なってしまったからです。


 両親が共働きだったので、ワタシは小学校2年生から鍵っ子でした。両親は、学校から帰ったワタシがお菓子を食べながらのテレビ三昧になることを危惧して、嫌がるワタシをやり無理、そろばん塾に入れたのでした。それでも、休講である水曜日と日曜日以外の毎日、ワタシはそろばん塾にまじめに通って、当時、珠算3級を取得していました。


 珠算3級を持っていても、事これに関しては、何の役にも立ちません。当時は、ハードディスクはおろか、ビデオデッキも存在していない時代だったので、“番組を見逃したら一生観ることができない”状況だったのです。


(観たい。どうしても最終回を観たい。観れなきゃ一生後悔する…)


 最終回前を観終えた後に、ワタシの頭はその気持ち一色になりました。


 が、しかし、観るためには、そろばん塾を休まなければなりません。塾を休んでアニメを観る?いやいや、ありえません。そんなことを許してくれる親ではない、ことをワタシは昔から骨身に染みるほど知っています。


(親をごまかして、なんとかならないものか…)


 が、しかし、これまた、そうもいかない状況をワタシ自身が作り出していました。以前から、些細なことでウソをついては親にバレてひどく怒られることが続いていました。そして、半月ほど前、「もう二度とウソはつきません。許してください」と頭を畳にこすりつけながらお願いして「これで、本当に最後だからね」とお袋からもキツく言われていたのでした。


(ちょっと、冷静になってもう一回、考えてみよう。何か良い策があるんじゃないか)


 ワタシは、もう一度、各々の時間を確認しました。

 まず、「侍ジャイアンツ」の放映時間は、17:00~17:30。そろばん塾は、16:30集合で、17:15まで。そろばん塾から自宅のアパートまで1.5km。ダッシュで走っても…いやいや、エンディングソングが途中から観れるかどうか、でしかありません。ん?待てよ。お袋が仕事から帰ってくる時間は、17:45~18:00だけど… ということは…


 ワタシは、完璧な計画が出来上がる予感がしていました。





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