hi-mitsu

みゅー

5年前…











蝉の鳴き声が響く公園のベンチで

日傘をさしたまま

少し先にある砂場で遊んでいる息子に目を向けていると

「こんにちは」と近づいて来る足音と共に

穏やかな声が耳に届いた






女「15時過ぎてもまだまだ暑いですね」






近づいて来た20代後半らしき女性の手には

私の様に日傘が握られていて

足元には息子と同じ4歳位の女の子が

砂場で遊ぶ用であろう

スコップの入った赤い小さなバケツを抱えていた






「暑いですね…」






頭を下げながらそう言って

「こんにちは」と目線を下げて

様子を伺う様にコッチを見上げている

イチゴの髪留めをつけた女の子に話しかけると

恥ずかしそうに「こんにちは」と言って

モジモジとしていたから






「ふふ…可愛いイチゴさんね?笑

 うちの百合ゆり君と遊んでくれる?」







そう言って…

顔を砂場で遊んでいる百合へと向けると

直ぐに百合の元へと駆け寄って行き

「モモとあそぼ」と仲良く

砂場にしゃがんでいる







女「子供って不思議ですね

  もう仲良くなってる…笑」







「本当ですね」







少し左に寄って

座っていたベンチの右側を空けると

「すみません」と頭を下げて

隣りに座って来た女の人は

「百合君…可愛いですね」と言ってきたから

男の子に百合とつけているのが珍しくて

そう言ってきているんだと理解し

「モモちゃんは3月3日生まれですか?」と問いかけた







女「そうなんですよ!桃の節句だから…

  百合君は…6月生まれなんですか?」







「百合の花が6月だってご存知なんですね?」







紫陽花あじさいが6月の花だと言う事は

誰もが知っているが

百合が6月の花だとはあまり知られていなく

少し驚いて笑いながら問いかけると

「私、保育士なんですよ」と笑って答え

描き物や作り物が多い職業で

6月の壁画の装飾に

沢山の花を画用紙で作った事を話しだした






女「ちょうど6月が担当月で…

  えーっと…紫陽花と百合とラベンダーと…」







「・・・・れん…」







女「あっ!そうそう、睡蓮の花もでしたね!

   でも…睡蓮はちょっと…

   お盆のイメージが強すぎて作らなかったんですよね」







女の人の言葉に顔を砂場へと向け

「そうですね」と答えると

「睡蓮って不思議ですよね」と隣りから聞こえた







女「見た目は綺麗で…品もあるのに…

  お寺とかお仏壇関係のイメージ強くて…」







「・・・・・・」







女「あまり人に贈らない花だし…

   花言葉も…寂しいですからね」







「・・・・・・」







頭の奥で金色の髪が風で靡いている…

あの綺麗な横顔が見えた気がした…







【 純粋な心だよ… 】

   

  





「・・・・純粋な…心…」







記憶の中の彼の言葉を思いながら

そう呟くと…





「あっ!百合の花言葉ですよね?」と

色々な花言葉について

話している彼女の顔を見つめ

あの夏を思い出した…





とても苦しく…

とても…熱い夏だった…

あの…5年前の事を…











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