【破】初めてを捧げた人の呼び名はママ💋

第8話 秘密の花園で御花摘み。

 夜明けと同時に、ぴたっとビビアンは目を覚ました。

 奥方様はビビアンに日没と同時に眠り、日出と同時に目を覚ます魔法を懸けたらしい。僕と奥方様がビビアンの横で懇ろになっていても、ぐっすり眠っていた。奥方様の指示で、僕はビビアンを御姫様抱っこして下の階のベッドに寝かしつけても、全く起きる気配が無かった。不思議とたわわに実る胸に興奮しなかった。もともと胸よりもお尻の方が好きだし。

 ビビアンが目を覚ました時、奥方様が添い寝をしていた。

「ビビアン、これは二人だけの秘密ですよ。他の者に知られたら、あなたは妬まれます。おわかりね」

 そう言われて、ビビアンは大層ご満悦だった。元気満々に朝支度に精を出した。奥方様の人心収攬術って凄いな。僕も踊らされてるのかもしれない。でも踊らされ続けよう。


 昨晩と同じ作法で朝食が用意された。朝食は、料理の内容も量も晩餐よりも軽めである。ヨーグルト、パン、スープに様々な果物が並んでいる。先ず僕が少量毒味をする。次に奥方様が召し上がる。奥方様が残した料理をビビアンに下げ渡す。更にビビアンの食べ残しを僕が片付ける。奥方様は果物がお好きなような。奥方様が齧った所をビビアンは綺麗に食べつくした。残り物を僕に下げ渡す時、勝ち誇ったような目付きである。まぁ、いいさ。今宵も熟れた果実を堪能するのは僕なんだから。

「イーサー、孕んだみたいなお腹して『まだナニか物足りない?』って顔ですね」

「奥方様に気を使わせるなんて、奴隷失格ですよ!」

 ビビアンに怒られた。あんただって、結構気づかいされてるのに気が付けよ!

「ビビアン、私が何の考えもなく、イーサーをそばに置いてると思っていたのですか?」

「奥方様、深い御考えに気付かず申し訳ございません。どうか愚かなビビアンを罰してくださいませ」

「やれやれ、ビビアンここにおいで」

 ビビアンは喜々としながら、スカートを捲り上げてお尻を丸出しにした。そして奥方様の膝の上に俯せになった。僕の目の前にお尻を向けた。奥方様の仰ったとおりである。可愛いお尻に可愛い顔してるのに、あんなところまで毛が生えていた。

 奥方様はビビアンのお尻を軽く叩いた。僕に尻を向けてるので顔は見えないが、きっと喜悦に震えてるのであろう。このはドMなんだな。僕に対しては高圧的であるが、奥方様に対しては従順卑屈である。


 ビビアンが退出して、僕と奥方様は二人きりになった。

「ところで、イーサー、ナニが物足りなかったのかしら?」

「この世界には、お茶とか珈琲って無いんでしょうか?」

「オチャ、コーヒーって何かしら?」

「お茶とは茶の葉っぱを煎じて飲む飲み物です。珈琲は珈琲豆を煎じて飲む飲み物です」

「そのオチャやコーヒーは、どんな味がするのかしら?」

「お茶には、ほのかな渋みと苦みと甘みが有ります。珈琲には渋みと苦みと濃厚な味わいが有ります」

「そんなものが、美味しいのかしら?」

「お茶は白い葡萄酒のような味です。珈琲は赤い葡萄酒のような味です」

「なるほど、それならば美味しそうですね。そういえば、オチャに似たものなら有るわ。煎じて飲むと心を落ち着かせる薬草よ。お花で香りを付けたりもするわ。さぁ上の庭園に行きましょう」

 僕と奥方様は御花摘みを始めた。文字通り御花摘みで、別の意味はない。僕は御花摘みをしながら、イフリンジャの国の景色を眺めた。東には険しい山が有る。短い棒の様だが山頂はドーム状である。山の岩肌は赤みを帯びている。その山から北と南に尾根が伸びて、西の海に沈んでいく。二つの尾根に囲まれた谷間である。広い谷間、狭い盆地と言ったら好いだろうか?

「イーサー、イフリンジャが気に入ったのかしら?」

「奥方様……」

「奥方様なんて硬いわ。私とお前の仲です。私の表の名前はマリヤム、縮めてママよ。二人きりの時はママって呼んで」

「ママ!?」

「どうして御顔が真っ赤なのかしら?」

「ママって、お母さんですよ?」

「あなたの世界ではママって、そういう意味なのね。だったら猶更好いじゃない。お前のことを我が子の様に思ってますもの」

「でも、奥方様って……」

「ママですよ。言い直しなさい」

「はい、ま、ま、ママは年上だけど、母親って言うほど年は離れてませんよね?」

「お前の年は判りません。お前にも判らないのでしょ?」

「はい」

「お前は年下なのは確かですが、どれほど年が離れているか判らないではないですか?」

「因みにママは……ご免なさい」

 さすがに年を聞いたら失礼だよな?

「『因みに?』……遠慮しなくて好いのよ。思ったことは包み隠さず言って」

「それでは、お年はお幾つなのでしょうか?」

「そんなことを気にしてたのですね。年なんて忘れてしまいましたが、百歳は超えてますよ。お前くらいの子供何人かいても全然おかしくありませんよ」

 これ以上聞くのは止めておこう。実の子の可能性があるかどうかなんて怖くて聞けない。でも、マルヤム様の口ぶりだと、近親相姦、母子婚なんて全然OKと仰りそう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る