第4話 秘められた裏口から奥に入る。

 ここはイフリンジャの国で、今いる所はイフリンジャの町、そそて向かっている先はイフリンジャの城だそうである。もしかして、奥方様は御忍びで奴隷市場にやって来た女王様なのだろうか?

 ビビアンが先頭に立ち、その後を奥方様、奥方様のお尻の後に僕が付いて行った。ゆっくり歩いて十分ほどでお城に着いた。僕のペースで歩いたら五分くらいの距離だろう。正に中世ヨーロッパといった感じの石造りの城である。

 このまま城に入ると思いきや、路地裏に入った。怪しげな場所では無かったが、人通りは無かった。突き当りの木戸を潜ると神殿のような場所であった。神殿と言うには小さく、祠と言うには大きかった。外で見かけた女性たちと変わらぬ服装であるが、巫女さんたちだろうか。老婆や中年女ばかりだが数人いた。奥様方とは互いに目も合さず無言である。そのまま、神殿の奥に進んだ。小さな神社の本殿というか、大きな祠の様な建物の扉を開けて中に入る。中に入ると閂を掛けた。中の広さは四畳半くらいだろうか。部屋の奥はアーチ状の壁龕になっている。そこには火が灯されている。如何にも祭壇といった感じだ。

 ビビアンは火が灯る燭台を持ち上げた。すると、壁龕の奥の隠し扉が開いた。ビビアンは燭台の火で明かりを灯しながら先に進んだ。階段を下りて地下道を進む。天井が低い。女性や小男なら立ったまま歩けるが、人並み以上の大男ならしゃがんで歩かざるを得ない高さである。この地下道には幾つか分岐が有った。右に行ったり左に曲がったりしながら奥へと進んだ。ちょっとした迷路に成ってる様だ。やがて上り階段に突き当たった。

 上りは狭い螺旋階段に成ってる。ここからが長かった。もう五階建てのビルを階段で上ったような感じだ。まだ階段は続いている。小窓から光が差すので、地下では無いことは確かだ。一人だけだったら、しんどくて嫌になったろう。しかし、奥方様のお尻の影と甘い匂いに誘われて何とか付いて行けた。意外と、奥方様もビビアンさんも体力あるんだな。

 もう十階建てのビルを上ったんだろうか。漸く終点に辿り着いた。そこは広さ十数畳ほどの丸い部屋である。魔女の塔と言った感じである。中央には、水が滾々と湧く、小さな噴水のような者が有る。壁際に沿って、天蓋付の大きなベッドに椅子や机が並んでいる。けばけばしさは全くないが、まるで中世ファンタジー風のラブホテルみたいだ。もしかして、奥方様の性奴隷になったのかな?


「奥方様、お食事になさいますか?」

「そうですね、よしなに」

「それでは、ひとまず失礼いたします」

 ビビアンは一礼してから、別の扉から退出した。別の扉こそ、この部屋の正式な出入り口である。僕たちが入って来た所は隠し扉である。さきほどの神殿の祭壇と同じ作りになっている。そこには火を灯した燭台が置かれている。


「イーサー、すごい汗ね。やはり、お前は苦労せず育ってきたのですね。こっちへおいで」

 奥方様は水で浸した布で僕の汗を拭って来る。優しい飼い主様に恵まれた犬の気分だな。奥方様は僕をフキフキしながらヒソヒソ話を始めた。

「この城で、おまえのことを知っているのは、私とビビアンだけよ。勝手に外に出てはダメですよ。いつも私の傍にいなさい」

「はい、奥方様」

「それからね。ビビアン、あののことは信用しても好いわ。でもね、真名を教えては絶対ダメよ。それは、あのですら知らない秘密なの。わかったわね」

「はい、奥方様」

「あとね。あの以外の人間が入って来たら、念のため隠れなさい」


――とんとん

 扉を叩く音が聞こえる。

「奥方様、お食事をお持ちいたします」

 聞きなれない声がする。僕は隠れる場所を探した。ベッドの下かな?

 僕が身を伏せると、突然真っ暗になった。暖かくて好い匂いがする。ここは何処だろうか?

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