2話 側近のエリンギと舞茸将軍

 長男のコナラがきのこ帝国の密偵をしているというので、母・有希子は忙しい合間を縫って話を聞くことにする。


「時間がないので五分で話して、ポルチーニ現帝の側近であるエリンギがなぜ犯人だと思うの? 説明してちょうだい」

 有希子はコーヒーをテーブルに置いてコナラに尋ねる。


「帝のポルチーニさまは、きのこ普及のため、やさい広場の十周年記念の式典に出席する予定だった。でもその日に限ってポルチーニさまの正妃であるシイタケ皇后が体調不良で近くの蔵で休んでいた。一方、帝は控室で待機していたら何茸(何者)かによって連れ去られ、ポルチーニ茸として出荷されてしまった。」


「店頭に並んだのね」


「ああ、そうだ。帝ともあろう茸が、店頭に並ぶなんて……。そこで隙を見て逃げたポルチーニさま、一方、キノコ狩り中だったオレと出会ったんだよ」

「兄ちゃんスゲー! ポルチーニってゲームのキャラクターの名前みたい」

「クヌギ! ヨーグルト食べる?」

「食べる! 食べる!」

 母はまた次男・クヌギに口をはさませないように、冷蔵庫からサッとヨーグルトを差し出してスプーンをクヌギに持たせる。


 母は再びコナラに視線を戻す。

「それだけで、どうしてエリンギが犯人なの?」

「普通は外出する際、必ず帝のそばに側近もいるはずなのに、突然トイレに行くと言って戻って来ず、一時行方が分からなくなっていた。しかもエリンギ自身も何茸(何者)かに縛られて、よく覚えていないとか曖昧なことを言っていた」

「そう……」


「オレは最初、舞茸将軍といっしょに捜査した」

「舞茸将軍という偉い方がいるのね」

「舞茸将軍の話だと、実はエリンギは元々マツタケ家の侍従だった。ポルチーニ帝国になった際、エリンギは引き抜かれたんだ」

「じゃあ、次帝を狙ったマツタケ家の差し金ってこと?」

「そうだと思った。けど、トリュフ家も怪しいってことが分かった」

「マツタケ家とトリュフ家はどんな名家なの? ついでにポルチーニ家もざっくり教えてくれない?」

「マツタケ家は言わずと知れた香りの王様。トリュフ家もポルチーニ家も同様だ。だからどの香りが一番か、帝がしょくされるたびに何度も政権交代しているのだ」

「たしかに、どれも甲乙つけがたい香りね。でもマツタケは辛うじて秋に食べる機会はあるけど、トリュフもポルチーニも本物が食べられなくても、生きてゆける気がするわ。市販のパスタソースで充分よ」

 有希子は一息つきながらコーヒーを飲む。


「それで、トリュフ家はどんな疑わしいことが?」

 

「トリュフ家は、地下闇組織と繋がっていた……」

「地下闇組織って? 闇深そうね」

「トリュフって、植物の根と菌類との共生体なんだ。だから、地下で闇組織と取引したんじゃないかって……。地下闇組織って、モグラのことだ。モグラが秘密の地下通路を通って、きのこ投票関係者にトリュフたくさん食べさせてあげるから次期帝に投票して、と持ち掛けたことがあった」

「まあ!」

「そこで、調べている最中に舞茸将軍はやさい広場の主催者に食されたので、オレはひとりで捜査することになったんだ」

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