ギャル男の魔剣、ババアが憑いてたらしいよ。ウケる。

興島湊

軽~く賊っちゃう?

第1話ベエって!

「べえって!」

「マジでベエってぇ!」


 この腕一本で成り上がるっつって家出て、ちょい軍資金増やそうとしたらこれっすよ。

 割とガチへこみ。


「どうすんだよ。コレェ‼」


 だが焦ってはいない。

 コレマジね。

 もう全っ部演技だから。軽ーく迫真突いちゃってっけど。

 既に次の策打ってるとこだから、今まさに。


 軽く辺りを見回しながら、気持ち速く足を動かす。

 いや、さすがに場所が悪いか。出涸らし娼婦とボロボロの乞食、あとは汚らしいガキしかいねえし。

 ま、当然っちゃ当然だわな。ここスラム街だし。

 もっと景気よさそうな通りでやろっと。


「なあ、あんたちょっと」


 お、きた? この流れ。

 振り返ったら、グール並みの肉感の男がニヤニヤしながら立ってるー。

 グール見たことねーけど。


「何用? 俺に何用?」

「何だお前? グイグイ来んな」


 やっべ。はやった。


「ん。失敬」

「は?」

「で、何用?」

「……やりにくいな。まあ、さっきの見てたけどよ。気持ちいいまでの負けっぷりだったな」

「あ?」

「いやいや、怒んなって。いい話あんだよ。いろいろ大変なんだろ?」


 ハイ、きた!

 コレ一本釣り確定っしょ。さすが俺。

 だがここは努めて冷静。さりげなく。


「ああ、あれ? 仕込みだよ。全てな!」

「は? 何言ってんだ、お前?」

「いや、だから――全ては見越されてたって話。俺にな!」


 そう。カードで敗けたのも、金を無くして焦っているフリも全てはこのため。

 困ってる人、見捨てちゃおけんだろ大作戦。

 そういうことにしておく。初見から舐められるワケにはいかないし。


「あのさ、そーいうのいいから。金欠だろ? いい話あんだよ」

「あ、いや……あ、ハイ」



       ✕           ✕           ✕


「じゃ、俺らのサクセス祈ってーーーー」

「「ウェーイ‼」」


 今日何回言ったっけっつー掛け声と共に酒瓶一気。

 向かいに座るエリオットとかいう奴もいい飲みっぷりだね。意外と気持ちいいやつ。ウマみてーな顔してっけど。

 酒場『地竜の鱗』は激混み。みんな景気いいんだなって思う。さすがは交易都市ザイオンって感じ。


「あんた、運いいよ。急に湧いた話だし、決行は明後日だったからな」

「俺、サイラムの強運者って呼ばれてた頃あんだわ。俺が歩いた先には小銭の一つも落ちてねえって――

「ああ、そう」


 うんうん。

 運が巡ってきた。

 この情報屋の話では、魔剣の密輸を企てる商人がここザイオンを明後日発つらしい。

 それを俺等が襲ってまんまと頂くって次第。

 他にもエリオットの仲間が四人もいるんだって。


「この情報、得るのに苦労したんだぜ。魔剣の密売は重罪だからな。商人もかなり慎重になってる」

「なーる」

「ま、そのおかげであっちも安定安全な傭兵団は雇えないからな。俺ら素人にも勝ちの目が出るってもんだ」

「ほう」


 コイツキレてんな。なかなかに見どころ、ありよりのありじゃん。


「とりあえず食ってけよ。決戦は明後日だかんな」

「あざーっす」


 最近ロクなもん食ってねーからマジ感謝。

 手近なものから構わずかっこんでく。

 あ、そうだ。言うなら今っしょ。多分いける。


「あのさ、とりま宿代貸してくんね?」


       ✕           ✕           ✕


「お、マジで野営するつもりだ」


 ダラス街道、イゴールの森への入り口。

 街道沿いのちょっとした茂みに隠れて、商隊を絶賛待ち伏せ中の俺とエリオットと、エリオット君の友達四人。

 内、様子を見ていた一人の男が感心した様子で独りごと。

 目当ての商隊は隠れている俺達の目の前で停止して、人が馬車から出てくる出てくるわらわらと。


「わざわざ魔獣が出る森の中で野営するバカはいねえだろ。ここがスポットなんだよ」

「突撃? もうこれ突撃っしょ?」


 こっから飛び出して、敵をバッタバッタなぎ倒し、魔剣を手に入れ立ち去る。

 これが英雄ライルの初陣かって思うとね。

 上がるー。


「「「「……」」」」

「ライル、お前何回も言ったろ? 警戒が緩んだ隙を突くって。飯時とかな」

「だっけ? はやった」

「「「「……」」」」

「つーかよ、近くねえか? 場所変えなくていいのか?」


 ダンゼルっつったっけ? 共闘中のゴロツキ四人のボスがエリオットに尋ねる。


「あれはシロウトだ。動き見りゃ分かる。今頃森ん中の魔獣で頭いっぱいだろ。反対側まで気を回す余裕なんかねえよ」

「そうか」


 っかしこのエリオットとかいうやつ、さすがは俺が見込んだ漢だな。

 ゴロツキ四人もエリオットには意見を挟むことなく指示に従ってる。余程信頼してんだなって感じ。


「護衛は八人だな。あとは商人か御者だ。馬車は五台あるが、本命は真ん中に守られてるあれだな」


 そう言ってエリオットがダンゼルに目配せする。


「よし、おまえら。こん中の何人かが死ぬかもしれん。けどな、成功すりゃ遊んで暮らせるだけの金が手に入る」「少し敵は多いが倒すのが目的じゃない」「ここが正念場だ。気合い入れるぞ」


 小声の檄は、これはこれでアリだね。

 みんなもバイブス爆上がりみたいだしね。分かるぅ。


「じゃあ、最後に作戦を確認する」

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