第2話 アリス(1)

01

「アリス、モンターナの入場チケットが偶然手に入ったんだ。放課後、一緒に行かないか?」

「残念だったな。放課後アリスは俺と一緒に委員会があるんだ」


 教室に入るといきなりそんなやり取りが目に入る。

 学園が始まってから1週間程度しか経っていないが、すでに朝の光景としては当たり前のようになっているのはある意味で驚きだ。

 しかし、毎日のように一人の女子生徒を取り合ってよく飽きないもんだ。と、そんなことを考え、思わず溜息がこぼれる。

 他人事なのだから気にしなければいいのだろうが、彼らが言い争っているのは俺の席の真隣まとなりである。

 できることなら近づきたくはないが、いつまでも扉の前に突っ立っていたら後から来る人間のじゃまになってしまうのだから仕方がない。


「どいてくれるか?」

「え? あ、すまん」


 俺の机の上に腰掛けて委員会が一緒だからと勝ち誇っていた馬鹿たれを退かさせてから席に着く。

 何度も何度も言っているというのにこのバカはまったく学習せずに俺の机に毎日腰掛ける。

 まったくもっていい迷惑だ。

 一人の女性を奪い合う二人の言い争いは終わっていないが、俺には関係ないので雑音だと考えるように無視して暇つぶしのために持参した本を開く。

 本を読んでいるうちにチャイムが鳴って担任が教室に入ってくるとさすがに言い争いをやめた二人はすごすごと席に戻っていった。


「はぁ……」


 ようやく静かになった。

 そう思うだけでため息が出てしまう。


「あの……ごめんね」


 担任が連絡事項を伝え終え、授業が始まる前の短い時間に隣の女子生徒が心底申し訳無さそうな表情で謝罪してくる。

 うるさかったのも迷惑をかけてくるのも男だけで、彼女は悪くないというのに……


「君が悪いわけじゃないだろ?」


 言い争っていたのは二人の男子生徒であり、彼女は一言も発していない。

 そう、一言も・・・だ。


「まぁ、悪いと思うならどちらかと付き合うなり両方断るなりはっきりさせたら?」

「う、うん……」


 俺の言葉に女子生徒は頷くが、表情は浮かないとしか表現できないものだった。

 まあ、実際のところ無理だろうな。

 さっき言い争っていた二人はもともと見覚えがなかったのでモブだろうが、彼女はゲームの攻略キャラの一人だ。

 性格キャラ的には清楚な文学少女というポジションで、気弱でおとなしい面が強い。

 自分の意見をはっきりと言えないタイプなので、押しの強いあの二人に強く出ることはできないだろう。

 それはつまり、主人公なり誰なりが彼女を攻略しなければ朝のやりとりは終わらないということだろう。


「はぁ……」


 まったくもって勘弁してほしいもんだ。

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