第3話 三十年後

 呪われた家の最後の居住者がいなくなって三十年が過ぎた。

 この三十年の間にはいろいろなことがあった。

 事情を知らぬ居住者が現れたこともあったが、やはり長続きしなかった。


 事件後に生まれた子供たちだけが「お化け屋敷」と呼んで囃し立てたが、事件を知る者たちはあの家に関わることを良しとしなかった。そのため、「あの家に忍び込もう」という命知らずが絶えなかった。

 中に忍び込んだ若者は、みな逃げ出すか、そうでなければおかしくなって発見された。残りのいくらかは家の中で死んで発見されたという噂があった。それも本当に噂なのか真実なのかは闇の中だった。ただ、何度か警察の手が入っているのは事実だ。

 霊能者には何度も断られ、引き受けた者はたいてい詐欺かうぬぼれの罪で死んだ。

 もはやあの家に住もうという人物はいなくなっており、所有者についても宙ぶらりんのまま家だけが存在していた。


 誰もが家を忌避し、触れぬようにつとめた。

 次第にかつての事件を知る者が土地を去ると、区画は新たな家が建つようになった。

 ひとつだけぽつんと時代の波から取り残されたような家は、気味は悪いし所有者は見つからないしで住民の不評を買った。


 その頃には市の方針で、空き家の取り壊しに関する条例が制定されていた。所有者不明のまま放置された古い家屋を、行政指導で取り壊せるようにできるものだ。税金が投入されることだけを除けば、倒壊や放火の危険性のある家屋を壊せることにおおむね人々は賛成だった。

 当然、この家にも行政の役人が何度か視察に訪れた。そのたびに周囲の人々は期待した。しかし、どういうわけかそのたびに話は延期になった。

 申請と許可だけは何年も前から降りていたにも関わらず、その家だけは取壊されることはなかった。何度かスーツ姿の職員や工事関係者とおぼしき人間が見に来たが、どういうわけかすべて中止になってしまう。

 古い建物を移築し、懐かしの昭和だか平成村だかを作ろう、という人間までもが一度見に来たが、結局、建物が移動させられることもなかった。


 区画にひっそりと佇む闇は、誰であろうとやって来る者をすべて拒んだ。


 ところが不思議なことに、この家は朽ちることなく立ち続けていた。

 大型の台風が来るたびに「今度こそ」と思われるのに、損壊しているような場所は見つからないのである。現代の耐震基準さえ満たしているのか怪しいのに、いまだにしっかりと根を張って立ち続けている。


 その後も元号が二度、三度と変わっても、呪いの家は立ち続けていた。


 そして、そこから更に五十年、百年、二百年の月日が流れた。

 どれほど周囲から取り残されてもなお、呪いの家はそこにあった。

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