第40話 コラボのお誘い

『あ、すみません。白玉が呼んでいるので、失礼させてもらいますね』

「はーい、了解です」


 挨拶も手短に通話をきって、スマホをテーブルに滑らせる。


「ふー……ちょっと疲れたー。シロ、癒してー」

「なんじゃ、楽しそうにしておったが疲れたのか?」


 以前から交流のあった猫動画配信者の白玉ママさん。DMとかで交流はあったけど、今回は初めて通話で話したのでちょっと緊張した。

 対面じゃなくて、かつ交流はあったけど初めて顔を合わせて、それも配信者同士で一種の同業者同士の会話、ということで結構これでも気を使っていたのだ。

 目的のコラボのことを話してからは普通に雑談してたけど、緊張はしてた。シロは猫として映っててもらってたから、私一人だしね。


 途中から私の膝からどいてぎりぎり尻尾だけ入るくらいのところにいたシロを抱き上げ、お腹に顔をあててふわふわもふもふいい匂いに癒される。はー、たまらん。


「くすぐったいの」

「あー、にしてもコラボ、緊張するなー。シロもいるけど、猫バージョンだし」


 猫の飼い主同士のコラボと言うことなのでシロは猫での出演となる。生放送じゃないし、シロと相手の白玉ちゃんをカメラ越しにあわせたりご飯を食べるところを並べたりと言うオフコラボなのだけど、初めてのコラボだしちょっと不安だなぁ。

 シロを胸に抱っこしながら、白玉ママさんの前では平静を装ったけどやっぱり不安な気持ちが消えないのでつい愚痴が口から出てしまう。


「もちろん白玉ママさんめっちゃいい人だったけど、その分嫌われたらって思うと、やっぱ不安だし緊張するじゃない? それに美人だし、単純に美人と話すのってちょっとビビるっていうか。あとうちの黒子さん、結構すぐ私の悪口とか言うし、猫動画にはまだたまに変な人いるから、それで白玉ママさんに引かれるかもだし」

「……それより、明日はひなまつりの生放送じゃぞ」


 考えるほど緊張する。いざ話したらいい人だし話も弾んだけど、撮影自体もだし実際に放送した後も不安だ。白玉ちゃんも可愛い白猫で、目の色が違うだけでぱっと見は似ているので並べたら画面映えするかもだし、何よりシロが可愛いってことで声かけてもらったけど、コラボとかするつもりなかったから心の準備まだ全然できてないよー。

 でもそんな私にシロは冷静に、それより先に撮影があるから目の前のことから考えろとアドバイスしてくれた。


「あ、まあそうなんだけど。うーん、そうだよね、ぐちぐち考えても仕方ないもんね。よし! 気持ち切り替えよ!」


 シロを見てると、まあなんとかなるよね! という気持ちになってきたのでシロにちゅーしてから気持ちを切り替える。


「ひなまつりかー、子供のころはこれでもちゃんとひな人形飾ったりしてたんだよ? でも出すのめんどくさくて。あ、あと一回友達とうちに集まってひなあられとか食べたことあったっけ。うーん。でも正直それ以外に特に大きなイベントはないかなー?」

「そうなのか。わらわもあまり詳しくないからの。では買っておいたひなあられとゼリーを食べるくらいなのか?」

「あと折り紙でひな人形折る。うーん、そうだね」


 一応事前に用意はしておいたけど、それだけだとちょっと弱いかな。シロの手をもって、ちょいちょいと意味なくパントマイムしながら考える。


「あとは雑談だけど、最近ちょっとマンネリだし、ちょっとしたスポーツでもしょうか」

「スポーツ? 室内でか?」

「私たちの身体能力がすごいって言うのはうすうすばれてるから、そう言う希望何件か来てたでしょ? それで次回のを決めながら、軽く勝負する感じで」

「軽く勝負って。手遊びとかは一通りしたと思うが」


 まあそうだけど、例えば……ヨガとか? 駄目だ。どうやっても勝てるビジョンがない。でもまあ、まだやってないことがないわけじゃないし、何かしらあるでしょ。


「それも募集かけながらって感じで」

「まあ、汝が良いならよいが、以前に比べてどんどん台本が適当になっていないか?」

「生放送ってそう言うのも魅力みたいなとこあるし。動画については一応複数パターンとったりして、編集後はちゃんとなるようにしてるし」


 確かに、正直最初に挨拶のセリフまで書いてたような台本は書いてないというか、もはや進行の大体の流れを箇条書きレベルしか書いてない。でもまあ、それだけなれたってことだよ。実際動画のクオリティも別に下がってないと思うし。


「あんまりがちがちにつくったら、ちょっと今だと窮屈じゃない?」

「まあ、確かに思い返してみると、そもそも汝は最初から台本わりと無視しておったものな」

「あー、まあ、そんなこともあるよね」


 とりあえず明日の予定は決まったので、今日は他の動画について予定をたてることにした。シロとにゃーにゃーしながら話し合った。






「ふー」


 お風呂にはいると、特にたまってない疲れが洗い流されるようだ。

 吸血鬼になったことで寒さが身に染みる、なんてことはなくなったけど、普通に冷えてはいるから、お風呂で温まるのはすごく気持ちいい。


 旅行に行ってからはどうしてもシロを意識してしまうので、翌日からお風呂は別にした。だって毎日そう言う気になるとか頭おかしくなりそうだし、入る前から意識しちゃうから無理だし。

 シロとは四六時中一緒だから、お風呂だけでも離れるとちょっと物足りない気はするけど、一人でのびのび入るのはこれはこれで快適だしね。


「茜」

「! し、シロー? 何? どうしたの? 何かあったの?」


 湯船につかって一息ついたところで声をかけられたので、シロしかいないとわかっててもちょっとびっくりしてしまった。お風呂場って無防備だから、普段平気なことでもちょっとビビるよね。


 すりガラスの向こうに人影が見える。シロの猫耳はシルエット越しでも可愛い。


「いやなに、べつに何もないが、普通にわらわも一緒に入ろうかと思っての」

「ぎゃっ」


 シロが普通に入ってきた。当然だけど裸だし、思わず悲鳴がでてしまう。でも目は離せない。ちょっとぶりに明るい光の下でみたけど、肌綺麗だし、本当に可愛いし、前と何にも変わってないはずだけど、なんていうか、エロい体してるよね!


「ど、どうしたの急に。別々に入ろうって決めたのに」

「そう驚くことないじゃろ。普通にこの前まで一緒じゃったんじゃし、たまにはいいじゃろ。背中を流してもらえるか?」

「いいっていうか、悪くはないけどもぉ」


 どっちかって言うと私が悪いって言うか。今の私は以前と違って、シロの肌を見て触れたら興奮してしまうから。

 ていうか、お風呂別々に入ろうって言った時正直にそれを言って、仕方ないから別々に入るって了解もらったのに。


 目を離そうとちょっと湯船に隠れてみるけど、どうしても見てしまう。シロは堂々と一切隠すことなく椅子に座ってシャワーを出しながらあきれたような顔を私に向ける。


「なんじゃ、嫌なのか?」

「嫌かって言われたら、嬉しいけどぉ」

「はっきりせんな」

「うぅ、お背中流させてもらいます」


 しぶしぶ湯船から出る。シロの体が眩しい。なんとかシロの体と頭を洗う。流れ作業でもできるくらいにはしていたのでなんとかなったけど、そう言う気持ちになるのは抑えられない。

 別にシロも怒らないし受け入れてくれるだろうけどさ、バレンタインでフラれてからは遠慮してたんだよね。

 それまではシロも満更でもないと思ってたし、夜一緒に寝る時に何となくいけそうな雰囲気の時にしてたけど、さすがにはっきりフラれてからは申し訳ないし。


「ありがとう、やはり人に洗ってもらうと気持ちよいの。次はわらわが洗ってやろう」

「こ、今度ね。じゃあ、そろそろ私はお風呂からあがるから、あとはゆっくり」

「何を言っておる。わらわの後ろにおったんじゃから、湯冷めしたじゃろ? 一緒につかるぞ」

「は、はい」


 前みたいに湯船にはいる。全裸のシロが膝にのっている。


 夜寝る時とはシロが薄着な時はあんまり触らないようにしてたから、シロの肌、久しぶりにこんな距離で触れてるとすごいドキドキするって言うか、もっと触りたくなる。経験してるから余計に生殺しだよ。


「茜」

「なにー? もうあがる?」

「いや……別に、わらわはどっちでもいいんじゃけど」

「ん? なにが?」


 なにやら急にシロは真面目な声音で話し始めたので、私も脳内桃色モードから切り替える。もしかして何か相談事? 言いにくくて顔を合わせないお風呂場にあえて来たのかな?


「何かあるなら遠慮なく言ってよ。私、ちゃんと応えるから」

「そうじゃな。うむ。まあ……なんというか、最近、してないじゃろ?」

「ん? ……ん?」


 最近してない? ……いやあの、駄目。真面目に相談に乗ろうと思ったのに、普通に戻ってしまった。エロいことしか考えられない。えー、だって他に何かあったっけ? してないこと?


 頭をフル回転させてもえっちなことしか考えられない私に、シロは振り向いて呆れた顔で、ちょっと不満そうに唇を突き出した。うっ、可愛い。キスしたい顔する。


「何をとぼけておる……夜の事じゃ」

「っ、あ、あー、べつに、とぼけたわけじゃないけど」


 キスしたい顔でとんでもないこと言われた。私の脳内だけじゃなくて、シロの脳内もピンクだったらしい。

 でも考えたら付き合ってなくてフラれたけど、そもそもシロは付き合ってない状態でOKしてくれてたんだし、フったから亡くなるって思ってなかったのか。


「いや、うん、まあ。あんまりガツガツしたら、シロに悪いし」

「……い、嫌なら、言うておるし。そのように、遠慮することはないぞ?」

「え、う……」


 頬を染めたとんでもない可愛い顔でとんでもないことを言われた。そうかー、シロは私のすること受け入れてしてくれてただけじゃなくて、私と付き合わないけど、それはそれとしてそれ自体、シロも楽しんでたのかー。

 いやー、でもそんなね? ちょっと倫理観的に同菜乃って言うか。いや、あー。


「じゃ、じゃあ、今日、いいでしょうか?」

「……ん」


 いや、ずるいでしょ。この状態で誘惑されたらさ、そりゃ、誰だってそうなるでしょ。だって私はシロのこと好きなんだもん。うう。シロの手の平で転がされてる気がする。


 この後、お風呂をあがって服を着るのももどかしくて、ついつい私はそのままの勢いでシロを抱っこしちゃったけど、私は悪くない。そう思いたい。

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