第10話 劣等生の自主練
双葉が追跡魔術を発動しようとしていた頃、降魔は既に第2の聖域まで既に来ていた。
「はぁ……どうして龍川は俺に関わってくるんだよ……。それに関わってくるならちゃんと自分の影響力を把握しておけよな……」
まさに降魔の言う通りである。
学園一の優等生が学園一の劣等生に関わろうとしたらどうなるかなんて、大抵の人間が想像できる筈だ。
いや普通の生徒でさえ同じ様なことが起きるだろう。
しかし双葉は普段から誰かと関わろうとしていなかったため、自身の影響力がどれほどあるのか気づいていない。
だから降魔は双葉に起こることができないのだ。
「もう龍川のことは取り敢えず今は考えるのはやめよう……。どうせ逃げてきたんだから一日中ここにいるとするか」
降魔は今日はここで過ごす事を決める。
「それじゃあまずは修行しようかな。まず魔導バングルを起動させて……」
降魔の魔導バングルが淡く光る。
「よし、それじゃあやるか。《我が身を強化せよ———》【身体強化】」
降魔の体に魔術式が刻まれ、体が淡く光出した。
【身体強化】が発動している証拠で、今降魔の体全身にマナが通っている。
降魔は始めに【身体強化】を維持したままゆっくり歩き出す。
そして2分くらい経つと徐々にスピードを上げていき、30秒ほどでアスリートが本気で走った時ほどのスピードになった。
しかしこれが降魔の本気ではない。
(よし、これからギアを上げていこう。まずはこれの倍くらいのスピードでいいか)
降魔の体が突然加速する。
今の降魔は馬よりも少し速いくらいのスピードだ。
しかしこれで終わらない。
更にどんどんスピードが上がっていき、
「はっ、はっ、はっ!」
最終的には130kmほどの速度で走っていた。
しかし流石にこれほどの速度を出せば長くは続かない。
10分くらいしたら降魔は【身体強化】を解除して一息つく。
「はぁはぁ……ふぅ……いい運動になったな」
次に降魔は坐禅を組んで新たに魔術を発動させる。
「《この世に在りしマナを探せ》【マナ探知】」
その瞬間に降魔の両目に魔術式が浮かび上がり、視界が変化する。
次回に青白い光が幾つも現れるが、其々の大きさや明暗は一つ一つ違う。
草木は色も薄く大きさも小さい。
しかし動物などには逆に何の色もなくある意味目立つ。
それは人間も同じだ。
人間は魔導バングルのみにしかマナが無いため、魔法を使っていない人間はマナを持っていない。
だから見つけるのは案外簡単だ。
(よし……取り敢えず近くに人はいない……。まだここがバレていないと言う事だな)
降魔はマナ探知を解除して立ち上がる。
「よし、次は併用だな」
降魔は突然地面に魔術式を描き始めた。
これは魔導バングルに内蔵されていない魔術式で、降魔は本を読んで全て覚えていたのですらすらと完成させていく。
本来ならわざわざ描いてまで魔術を発動させたりはしない。
そんなことしてたら殺されるからだ。
しかし今は練習。
どれだけ時間がかかっても大丈夫なのだ。
たった2分ほどで魔術式を完成させた降魔は、魔術式に手をおき、魔導バングルを起動させる。
「《幻と言う名の戦士の影で惑わせ狂わせろ———》【幻影】」
降魔がそう言った瞬間に魔術式が強く光だし、目の前に屈強な歴戦の猛者を彷彿させる幻影が現れた。
今降魔が使った魔術は【幻影魔術】と言い、対象にさまざまな幻影を見させることができる魔術だ。
一見視覚に作用している様に見えるが、実際の所は対象の精神に干渉して幻影を写している、高等魔術の一種である。
なのでまるで相手が本当にいるかの様な戦闘ができる。
因みに倒すには術者が解除するか魔術式を破壊するかの2つだ。
降魔はその幻影相手に【身体強化】を発動させて殴りかかる。
その速度は炎児に攻撃した時と同等の速度だったが、幻影の戦士は軽く躱す。
「チッ———お、らッ!」
しかしすぐさま降魔は反対の拳で殴りかかるが、今度は流されてしまう。
そのせいで降魔は派手に転ぶ。
だが降魔はすぐに立ち上がりマナを腕に込める。
そして超高速で何もない空間に連打をする。
するとソニックウェーブが発生し、幻影を衝撃波が襲う。
「どうだっ!」
『………………』
しかし幻影はこれに拳を合わせることで全て相殺していく。
そして一瞬で完全に衝撃波が相殺されてしまったが、その時既に降魔はその場に居なかった。
幻影は降魔を探す。
するとすぐに見つかった。
降魔は上空にいて、落下している途中だった。
幻影は降魔と同じように、いやそれ以上に強力なソニックウェーブを発生させ、降魔を追撃する。
しかし降魔は衝撃波に衝撃波をぶつけて落下を停止させていた。
それどころかどんどん高度を上昇させていく。
すると突然降魔が停止し、振り返って空に超高速で拳を撃つ。
降魔が物凄い速度で落下していく。
「はぁぁぁあああ! 食らえッ!!」
しかしタダでやられる幻影ではない。
再び衝撃波を発生させて攻撃しようと飛び上がるがそこで不思議なことが起きた。
突如幻影が防御体勢に移ったのだ。
そしてその瞬間に幻影の体に硬い何かがぶつかる音がした。
「よし! 上手くかかった! どうだ! 俺の結界魔術と幻影魔術は!」
そう、降魔は幻影が降魔を探している間に簡易的にだが、結界魔術と幻影魔術の魔術式を描いていたのだ。
結界は透明なため視覚で見えにくいし、幻影魔術で更に分かりにくくなっていたため、幻影は直前まで気付かなかった。
しかしこれは幻影にとって最大のピンチを招くことになった。
いつの間にか目の前まで落ちてきていた降魔が幻影をマナを流し込みながら殴る。
パァン!!
幻影が破裂し、魔術式を描いていた場所も一緒に破裂する。
幻影がマナの量に耐えきれなくなったためだ。
「よっしゃ!」
降魔は喜んでいるが幻影は倒したところで降魔はこのままでは落下で死んでしまう。
しかしそんなヘマを降魔はしない。
「《我が身に翼を———》【飛翔】ッッ!」
降魔の体がぐんっと上昇する。
今回は魔導バングルに内蔵されているのですぐに発動できた。
降魔はゆっくりと地面に降り立つ。
そしてその瞬間に地面に倒れ込む。
「はぁーー! 疲れたーー!!」
降魔は伸びをして大の字で寝転ぶ。
既に降魔の体は限界を迎えている。
それもそうだろう。
常にアクロバティックな動きをし続けていたのだから。
(それにしてもやっと幻影といい勝負が出来るようになったな。えっと……783戦34勝749敗か。完全に負け越しているなぁ……)
降魔はそんな事を思いながら目を瞑る。
すぐに寝息を立て出した。
すると狙ったかの様に誰が出てきた。
「な、何なのよあの戦闘は……」
そう、降魔を追っていた双葉である。
———降魔が起きるまであと2時間。
---------------------------
次は双葉視点でのお話です。
双葉は一体どんな事を考えていたんですかね?
お楽しみに!
読者の皆様へ
ここまで読んでくださりありがとうございます!!
面白い! まぁまぁかな? 続きが読みたい! などと思っていただければ、☆☆☆→★★★にしていただけるとありがたいです!
また、フォロー、応援コメントなどを頂けると作者の励みになります。
ではではまた次話で。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます