異世界のお風呂で愚痴を言う

「んー、やっぱりお風呂は気持ちいいなぁ」

 とある国の大規模な公衆浴場につかる少女、レイはぽつりとひとり言を言う。

 レイは、先ほど貴族から頼まれた魔物退治の依頼を終えたその足で、この公衆浴場にやって来た。

 依頼内容自体は、大きな問題もなく終わった。魔物もそこまで手ごわくなかった。比較的楽な仕事だったと言える。

 しかし、魔物がいた場所が遠かった。片道6時間である。依頼内容の割には、道のりが長い。公衆浴場に来た理由も、移動の疲れを取るためだった。

 まだ昼時ということもあり、公衆浴場は空いていた。レイの他には客が4、5人ほどしかいない。

 大きな浴槽に浸かっているレイに、近づく影があった。

「よう、お疲れ」

「あ、ミミ」

 片目を髪で隠した少女、ミミ。レイと一緒の冒険者パーティーに属する少女である。

 名前の割に怖い見た目をしているが、そのことに触れると明らかに嫌がる。どうやら、自分の名前があんまり好きじゃないらしい。

 そんなミミは、レイのそばまで移動して、お湯に浸かり、愚痴ぐちをこぼす。

「あー、クッソ。足がいてぇ」

「私もだよ……。なんだってあんな場所の山を買って、別荘立てるかなぁ」

「金持ちの思考がわかんねーよな。あそこ、避暑地ひしょちでもなんでもねーだろ」

 依頼してくれただけでもありがたいことなのだろうが、やっぱり文句はある。レイもミミも普段ならここまで言わない。では今回、なぜここまで文句を言っているのかというと。

「あのおっさん、俺らが依頼を引き受けるって言った後に、場所のこと話したよな……」

「あれ、本当にコイツ……ってなったよ」

 そう、依頼主の貴族は、レイ達が依頼を引き受けたあとに「あ、魔物がいる場所まで6時間くらいかかるから」と後出しで言ってきたのだ。

「ちくしょう、もうあのおっさんの依頼受けねぇぞ」

「でも、お金の問題でリーダーが引き受けそうだよね……」

「そん時は、意地でも止めるぞ」

 そんな会話をしていたところで、ミミが違和感に気づく。

「なぁ、レイ。なんか風呂の温度高くないか?」

「言われてみれば、そうだね。普段はここまで高くないよね」

 レイとミミは、不思議そうな顔で辺りを見渡してみる。

 そして、視界に入ってきたのは、レイ達と同じ浴槽に浸かる一人の妙齢みょうれいの女性だった。

 その女性には、しっぽがあった。

 そのしっぽは……、竜人族の一種、ファイヤードレイクのものと一致する。

 ファイヤードレイクは、極めて体温が高い。そのせいか、彼女の周りのお湯は、なんかボコボコしている。

 つまり。

「あっつ! あっつ! 煮えちゃうよ、こんなの!」

「クッソ! おちおち風呂にも入れねーのかよ!」

 どうやら、先日からこの二人は、とことんツイてないらしい。

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