引き込まれる

「寝ている時に布団から足を出してると、おばけに足をつかまれるよ!」

 それが、子供の頃にお母さんが言っていたしつけの1つだ。足を出して寝ていると、風邪をひくかもしれないから、子供が怖がるようなことを言ったのだろう。お母さんの狙い通りに、俺は怖がったのだから、しつけとしては正解だった。

 だが、今や俺も大学生。酒も飲めるようになった。おばけなんてもう信じていないので、布団から足を出して寝ることも多々あった。当然ながらしつけを破ったからといって、何も起きていない。

 眠りにつこうと布団で横になる俺が、なぜ今になって昔のことを思い出したのかは分からない。まぁ、ふと昔のことを思い出すこともあるか。それよりも早く寝てしまおう。暑いし、お腹の辺りだけに布団をかけよう。足は出したままでいいや。

 

 俺は、何か奇妙な感覚を覚えて目を覚ました。

 なんだろう? なんか……浮いてる?

 周りを見てみると、俺は逆さづりの状態で、眼下には住んでいるアパートの屋根が見えた。思わずポカンとしてしまう。ほうけている間にもどんどん空へと上がっていく。

 何が起きているのかわからないまま、恐る恐る足の方へと目をやると、そこには半透明の女の子がいた。

 そして、気づく。これは、夢だ。お母さんのしつけを思い出したから、おばけに足を掴まれる夢を見ているのだろう。気づいてしまえば、何も怖くない。俺は、夢でしかできない空中散歩を楽しむことにした。


『続いてのニュースです。都内のアパートで、大学生の男性が亡くなっているのが発見されました。司法解剖しても死因は不明だということです。警察は、さらに詳しく捜査を続ける方針で――』

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