子供用の竹刀
「ねぇ、どうしてあんなことをしたの?」
目の前の
事の発端は、一時間ほど前。涼花は、私の中学生からの親友の娘さんを子供用の竹刀で繰り返し殴ったのだ。いつも通り仲よく遊んでいたのに、突然人が変わったかのように。
愛娘の凶行に私は、落胆するしかなかった。
子供用の竹刀で殴る。その行動は、私がかつてイジメていたとある男の子にやっていた行動と全く同じだったから。軽くて繰り返し殴るのに疲れなかったから、という理由で竹刀を使った暴行を繰り返していたあの頃の。あの消してしまいたい、後悔してもしきれない過去の。
子供が剣道の練習する目的で作られた少し短いが、確かに硬い子供用の竹刀。涼花がそれを欲しいと言った時、正直昔のことを思い出してしまって
竹刀を買う時に私は、自分に言い聞かせていた。涼花が私のような酷すぎる行動をしないように、私が見てあげればいいんだ、と。そう思っていたのに、起きてしまった。
涼花が殴った子は、「怖かった」と震えていた。それを見て、私のしてきたことの重大さを思い知らされた。
だからこそ、ここで道を間違えないようにしなければならない。
私は、イジメの加害者という重い罪を背負ってきた。それは、涼花が今日殴った女の子の母親もそうだ。私達は、誓い合ったんだ。
こんな罪を子供に背負わせるものか。
依然としてうつむいたままの涼花の目線に合わせるように、かがんで話しかける。
「ねぇ、涼花。あの子、すごく怖かったって言ってたよ。だから、きちんと謝らなきゃ。怖がらせて、泣かせてごめんなさいって。大丈夫、きっと許してくれるよ」
「……そんなことないよ」
「それでも、謝らなきゃ。きっと後悔しちゃうよ」
「お母さんみたいに?」
その言葉に、言葉が詰まる。まるで過去のことを見透かされたような気がしたから。
でも、そんなことはない。あれほど隠してきた過去なのだから。
涼花は、地面を見たまま話し続ける。
「お母さんも、謝れば許してもらえると思っているの? 甘いよ、世の中にはどれだけ謝っても許されないことは、あるんだよ」
涼花は、顔を上げる。その目は、ドロドロに
「なんで、あんなことをしたのかって? 簡単だよ、俺がされてきたことをしてやっただけだ」
「す……ずか……?」
「俺は、そんな名前じゃないよ。
その名前は、中学生の時、私達のイジメで自殺した男の子の名前で。
涼花ではない、ナニカの手に握られているのは。
私がイジメに使っていた。
少し短いけれど、確かに硬い。
子供用の竹刀。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます