ろうそくが並ぶ舞台

 ここは、とある劇場。その劇場の舞台には無数のろうそくが並ぶ。

 ゆらゆらとはかなれる火を見て、二人の男はつばを飲み込む。

「わ、分かってるよな? ウケないと俺らは――」

「ちゃんと分かってるよ……! ネタが飛んじまいそうだから話しかけんな!」

 今から始まるのは、この二人の大一番。冗談ではなく、男達の未来が決まる。

『さぁ、次は漫才コンビの大野と平井の登場だ! みんな、寝ないで聞いてやってくれよな!』

 司会者ののんきな前口上も腹が立つが、今はそれどころではない。この舞台を成功させなくては。

「どうも~! 大野と!」

「平井で!」

「「大野と平井で~す!」」

「って、そのままじゃんか! 平井君!」

「仕方ないじゃないですか。何も思いつかなかったんですから!」

「開き直るな!」

 つかみの掛け合いが終わった時。舞台上のろうそくが1本消える。

 二人は冷や汗をかきながら、ネタを間違えることなく進めていく。

 だが、その間にもろうそくがまた1本、また1本と消えていく。

 そして、ネタが最も盛り上がる部分で。

 最後のろうそくの火が消えた。

 瞬間、舞台の上の二人が倒れ、ピクリとも動かなくなる。

『あ~、残念! ろうそくの火が全て消えてしまった! まぁ、つまらなかったし、仕方ないか! それじゃあ、地獄へいってらっしゃ~い!』

 司会者の言葉に反応して、舞台の床が開き、二人は奈落の底へと消えていった。

 観客は、その光景に二人の漫才の時より盛り上がっていた。


 ここは、死神の劇場。

 客を満足させなければ、舞台上のろうそくが消えて、出演者の命も消える。

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