先輩の言い訳2
「人間について考えてみよう」
先輩は、僕に背を向けてホワイトボードに黒のマーカーで『人間』と書く。
今日の先輩は、珍しくスカート姿だ。と言っても、僕らは研究室にいるときは、いつも丈の長い白衣を着ているので、あんまり見た目に変化はないのだが。
「人間。言わずもがな君と私のような、ホモサピエンスを指す。サルから進化したと言われてるな」
先輩は、話しながらホワイトボードに文字を連ねていく。文字は、走り書きにしてはきれいな方だった。
「人間は遥か昔に生まれて、様々な進化を遂げて、文明を作り上げてきた。火を使ったのが、重要な分岐点だった……とよく聞くな」
それは、僕も聞いたことがある有名な話だ。というか、この講義はどこへ向かっているんだ?
「その火の使用から発展していった文明は、今や目を見張るものだろう。昔の人間が見たら、卒倒してしまうかもしれないな。さて、そんな人間が進化させたものの一つに、移動手段がある」
先輩は一度マーカーに蓋をすると、僕の方を向いた。
「君は研究室に来る時、何を使っている?」
「自転車、ですけど」
「そうか。ちなみに私は、徒歩だ」
マーカーを指揮棒のように振りながら、先輩は講義を続ける。
「徒歩は、最も基本的な移動手段だ。自転車が生まれた時期は知らないが、少なくとも乗馬などに比べれば後だろうな。今では、電動自転車も生まれているな。そんな進化してきた移動手段は、海や空を舞台にしていく」
海や空、か。僕は飛行機は乗ったことがあるが、フェリーは乗ったことがない。
「空に進出したのは、長い歴史で見ればごく最近の話しだ。だが、船は違う。はるか昔からあり、文明と共に進化してきた。今では、ジェットスキーといった高速で動くものが生まれたりしているな」
先輩は、そこまで言うと平たい胸を張りながら言う。
「その進化してきた水の上で浮く技術のおかげで、浮き輪やビート板が生まれた! つまり! 文明を生きるものとして、これらに頼って泳ぐことは進化の過程としておかしいなものではないのだ!」
「……その話、ビート板とか無しで泳げない、って言うことの言い訳としては苦しいと思いますよ、先輩」
「……う~」
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