形式花火

あいうえお

『あ』は「アッ」と驚（おどろ）くように口火（くちび）を切ったんだが、あがり症（しょう）なんだろうな、モジモジと二（に）の句（く）が継（つ）げないでいる。まったく、こんなのに先頭を任（まか）せたやつの気が知れないな。

『い』はいろは歌（うた）で場数（ばかず）を踏（ふ）んでいるだけあるのか、『あ』とは違いよく舌（した）が回るようだ。しかしながら、その顔に『あ』への優越感（ゆうえつかん）が透（す）けてみえ、その様（さま）は滑稽（こっけい）でしかない。

『う』はいかにもうんざりというように――いいや、裏腹（うらはら）に嬉しがっているのか？――ただ一言（ひとこと）漏（も）らしたきり、曖昧（あいまい）に口をすぼめたままだんまりを決め込んでいる。

『え』はなにやら「己（おのれ）は選（え）りすぐられここにいる」と言わんばかりに得意げな様子で、上擦（うわず）った声を上げている。だらしなく緩（ゆる）むその頬（ほほ）を無様（ぶざま）と見るかは、人それぞれだろうな。

『お』は穏（おだ）やかな空を見上げながら、「オリジナリティとはなんぞや」などとあれこれ考えていたが、「しょせん自分の命は五十分の一でしかない」ということを思い出し、そのお粗末（そまつ）な口を永遠（えいえん）に閉じた。